第28話 その頃のケンちゃん
ちょっとさかのぼる。
ケンちゃんはおじいちゃんの家に行き、おばあちゃんの背後にいた。
「ばあちゃん」
その声におばあちゃんがびくっとして振り返る。
「びっくりした……。ケンちゃん、いたの?」
なに、驚かせてるの?
「うん。ちょっと、出かけてきていい?」
いつにも増して、無表情だね。
「どこ行くの?」
「ちょっと……」
ちゃんと説明しなよ。
「ひとり? ショウちゃんは?」
「じいちゃんの貯蔵庫にいる」
「そう?」
「行ってきます」
暗くて暗くて暗~い感じで言うと、ケンちゃんは出かけて行った。
もうちょっと言い方とかあるでしょ。
「ケンちゃん、ちょっと待って」
そう言っておばあちゃんも一緒に行こうとして簡単にしたくをして外に出た。
「あら? ケンちゃん?」
おじいちゃんの家の周辺に、ケンちゃんはいなかった。
「おじいちゃんみたいねえ……」
背後に立ってたりすぐにいなくなっちゃったりするところのことを言っている。おばあちゃんも心配そうにしていたけれど、家に戻った。
行き違いになっても困るし。
大丈夫、ちゃんとボクが見守ってるから。
おおらかな人しかいない田舎だから、新中学二年生がひとりで出かけても何の心配もない。ふつうの人のいるけれど、そうでない人もたくさんいて、ボクやケンちゃんは守られる側だった。
ケンちゃんはすでに中野ストアまで来ていた。
お店の中に入るのかと思っていると、その前にあるバス停に向かう。
時刻表を見ながら
(もうすぐ来るな)という顔でバス停のところに立っていた。
ケンちゃん、バスに乗ろうとしてる?
ひとりで都会のお家に帰っちゃうつもりなのかな?
ボクを泣かせた罪悪感で?
そんなことを思っていたら、バスが来た。
ここから一番近い電車の駅まで行くバス。
ケンちゃんはそのバスに乗った。
他にお客さんもいなくて、昼間なのに異世界にでも行きそうな雰囲気。
何も言わずに終点まで乗っているケンちゃん。
ボクならすぐに飽きるけどな。実際飽きてるし……。
ケンちゃん、まだ?
バスが終着駅で停まると、運賃を払って外に出る。
そして驚いていた。
駅前なのにデパートないもんね。
そういう駅もあるんだよ。
ケンちゃんはポケットからスマホを出す。
電波がないことにも驚いていた。
ケンちゃんは改めて周囲を見回す。
単線の線路と、こじんまりした無人の駅舎。
他は豊かな緑が広がっていた。
もう一個あったバスの方がもう少し開けた駅に行ったんだけどな。ケンちゃんはいつもそっちのバスを使っていたから、こっちの路線を知らなかったんだね。
(じーちゃんとばーちゃん、こんな田舎に住んでたのか?)
ふふふ、ウチの田舎を甘く見てたね。人もいるけど、魑魅魍魎もふつうの顔して住んでるもの。ちょっとやそっとじゃないのだよ。
(ってかこんな駅、知らないぞ。電車、走ってるのか?)
ケンちゃんは駅舎の時刻表を見に行く。
(朝に1本、夜に1本? ……ホントに駅か?)
なんて失礼なことを考えているんだよ。ボクはけっこう気に入ってるのに。
のどかな感じ、ボクは好きだな。
(一応、もうすぐ電車が来るみたいだし、行先は知ってる駅だ。あそこならデパートがあったはず)
ケンちゃんは電車に乗ることにしたようだ。
ちょっと待っただけで、電車はすぐにやってきた。まるでケンちゃんを待ち構えていたかのように見えるけど、バスが電車に間に合うように走ってただけなんだよ。
ケンちゃんは口をぐっと閉じて、電車に乗る。
扉が閉まると、ゆっくり走り出す。
一両だけの電車が線路の上をガタガタ走ってる感じは、ファンタジーの世界みたいなのに、ケンちゃんはそんなのどうでもいいかのようだった。
都会の喧騒を忘れて、のどかな風景を楽しめばいいのにね。
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