第27話 オリハルコンのオリちゃん

 洞窟の奥にある、先祖伝来の場所が見えてきた。

 天井が高くなって、けっこうすごく高くなって、柱のような物もあり、石で階段のようなものもできている。


「ひっく……」

 ボクは階段を上り、おじちゃんが作業している部屋へ向かった。自然と人工物が混じっている地下宮殿のような建物に入る。


 建物内の明かりは間接照明とでも言うのか、はっきりとした電気みたいなものはないけれど、明るく照らしている。

 廊下を進むと部屋が見えてくる。


 そこがおじちゃんの作業部屋。

 作業がしやすくより明るい部屋である。


「ぴ~」

 ドアを開けると、緑色の岩っぽいオリちゃんたちが声をかけてきた。外見は岩みたいだけど、もうちょっもそもそくにゃくにゃしている。

 たまたまなんだけど、来客のベルみたいにもなっている。


「騒がしいのが来た……」

 作業台の前にいたおじちゃんがそう言ってこっちを見ている。台の上には町おこしのためのグッズの試作品が乗っていた。小箱や木でできた知恵の輪、バッチやよくわからない品々。

 役に立つかは知らない。とある界隈では好まれているけれど。


 ここは秘密の作業場だった。いろいろな道具を作るための物が所せましと並んでいる。おじちゃんは町おこしグッズも作っているけれど、天狗が使っても大丈夫なアイテムも作っている。


「騒がしいって、ひどくない?」

 そう言いながら、鼻水をすする。ずいぶんよくなってはいたけれど、きちんと回復してはいなかった。


「騒がしいだろ。さっきの泣き声はなんだ? うるさすぎだ。ここまで聞こえたぞ」「おんなじ洞窟内だから響いただけだよ」


「ぴ~ぴ~」

 おじちゃんがなにか言おうとしてたけど、入口からオリちゃんとハルちゃんとコンちゃんが移動してきた。


「オリちゃん、ハルちゃん、コンちゃん」

「ぴ~ぴ~」

 ボクが彼らの名前を呼ぶと、嬉しそうに返事してくれた。


 三人合わせてオリハルコンちゃん。伝説の金属オリハルコンである。別名ヒヒイロカネ。赤い金属として有名だけど、自然な状態だと緑色をしている。

 そして、金属なのに生命体のような動きをする。

 地下だったから、おじちゃんが作る材料となる物がすぐに手に入る。


「ぴ~ぴ~」

 三人が心配そうに話しかけてくれたから、

「ボクは大丈夫だよ」と返事をした。


「ぴ~? ぴ~?」

 本当に? と聞いてきたから

「うん、うん」とうなずいた。


「おじちゃんが直してくれるもん」

 そう言って、作業台にさっきのシャベルの頭と柄をごとんごとんと置く。


「おじちゃん、直せる?」

 ボクがそう言うと、


「ぴぴっ」「ぴぴっ」と、興味津々な顔でシャベルのところにオリちゃんが乗る。ハルちゃんは少し遠くから見ていて、コンちゃんは移動しなかった。


「これか、さっきの大泣きの原因は」

 台の上に乗せられた三角の頭と柄の部分を見ておじちゃんが言う。


「うん」

 ボクはうなずいた。


「ぴ~、ぴっぴっぴ~」

 おじちゃんよりも先に、オリちゃんが答えた。


「え? いいの?」

 直してくれるとオリちゃんは言っていた。

「ぴっぴ」

 うなずくようにオリちゃんが言う。


「ぴっぴ~」

 残されたハルちゃんとコンちゃんが『ずるい』と言っていた。


「ぴっぴっぴ~」

 オリちゃんは『早い者勝ちだよ』と言って、それまでわりと固めな感じだったのに、シャベルの残骸の上でドロっとした形状になる。不透明な緑から半透明なピンク色になる。


「ぴ~」

 見ているハルちゃんとコンちゃんが『いいな~』という感じに言っている。


「ぴっ(うらやましいだろ)」

 オリちゃんは誇らしげにそう言って、シャベルの残骸にしみこんでいく。


「ぴ(うん)」

 ハルちゃんとコンちゃんはうらやましそう。

「ぴっぴっぴ(ふふふん)」

 オリちゃんは誇らしげだった。


 少しずつオリちゃんの見えている部分が小さくなる。

 ボクのシャベルにオリちゃんがまんべんなくしみこんだ。


「あとは俺が仕上げておくから」

 おじちゃんはオリちゃんが入ったシャベルの残骸をじっと見ながら手にする。職人魂が刺激されてるね。


「どれくらいでできるの?」

「そんなにかからないだろ?」

 片目で見ながら言う。


「じゃあ、待ってる」

 ボクは作業台の近くにあった丸い椅子を引っ張ってくる。


「ぴぃぃぃぃ(いいな、ボクらも直したかったのに)」

 ハルちゃんとコンちゃんが残念そうに言う。


「おまえらはまた今度な」

 おじちゃんがふたりをなだめる。


「ぴぴぃ(ショウくんのシャベルになりたかったな)」

「ありがと、ハルちゃん、コンちゃん」

 いつもみたいにハルちゃんとコンちゃんを持って椅子に座る。


「ぴぃ……」

 残念そうだったけれど、オリちゃんのことも心配しているようて、ボクのシャベルをじっと見ている。


「ちょっとだけ我慢しろよ」

 おじちゃんが言うと、

「ぴっ!」と、姿が見えなくなっていたオリちゃんが返事をした。


「オリちゃん、がんばって」

「ぴ!(がんばれ)」

 ボクが言うのに合わせてハルちゃんとコンちゃんも応援する。


 カン・トン・カン!


 おじちゃんは作業台にオリちゃんが入ったシャベルを置き、特別なトンカチでたたく。オリちゃんが痛くないようなとげとげしてないトンカチ。


 ボクは心の中でグーをした。

 手の中にいたハルちゃんとコンちゃんも心の中で『ぴっ!』と言っていた。


 ボクたちは、固唾をのんで見守った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る