5 伝説のアイテム オリハルコン
第25話 お前も掘れ
ザッザッザという、ケンちゃんが穴を掘っている音がする。みんなで朝ごはんを食べて、それからなぜかケンちゃんは穴を掘っていた。
いつものおじいちゃんの家の洞窟。先祖伝来の洞窟。いろいろな裏技を使って、ウチの持ち物である。
ボクよりも20㎝大きなケンちゃんは、ボクよりもずっとずっと早く掘る。ボクはとっても苦労するのに、ケンちゃんはザクザク掘る。
見ているだけで、穴は大きくなっていく。
ホントに地底人が見つかるまで掘るつもりなんだろうか。
そもそも地底人設定、ケンちゃんは覚えているのだろうか。
「おい……」
すっごく掘っていたケンちゃんが立ち上がって、穴から顔を出していた。ホントに顔だけ出る感じ。そしてボクをにらんでいる。
そんな顔しなくてもいいのにね。
「なに?」
「見てないで手伝え」
にこりともせずにケンちゃんは言う。
昨日、ボクがいなかったから不機嫌なのかな?
ケンちゃんは淋しがり屋だなあ。
「ボクも手伝いたいんだけどさ」
「ウソつけ」
決めつけないでほしいな。
「ウソじゃないよ。シャベルがもう一個あれば、ボクだって喜んで掘ってるよ」
ケンちゃんは黙って聞いている。
「でも、一個しかないから。残念だけどボクはここで見ていることしかできないんだ」
ケンちゃんは一個しかないシャベルを見る。
「疲れたから交代しろ」
そう言ってケンちゃんはけっこう深くなっていた穴から出てきて、シャベルをボクの前に投げ捨てた。
全然疲れてないよね。
ケンちゃんだもの。ボクよりも元気のかたまりみたいな感じなのにね。
「やれやれ」
しかたがない。それにボクのシャベルだし。
ママがボクのために買ってくれた、ボクの小さなおててに似合う白いシャベル。
「やれやれじゃねーよ」
ボソっと言って、壁に寄りかかって座る。
いくら人間離れしたケンちゃんでも、少しは休まないとね。
しかたがないからつきあってあげるか。
「よぉ~し、ボクもやるぞ」
純真無垢なボクのように真っ白で、愛くるしいボクの手にちょうどよい大きさのシャベル……。
「ん?」
シャベルを手にすると違和感があった。
ずいぶん、薄汚れた感じがした。持ち手もグラグラする。
あのケンちゃんの馬鹿力でザックザック掘ってるんだもの。
負担は半端ではないだろう。
新品だったんだけどな……。
チラっとケンちゃんを見たけれど、何も言わない。壁に寄りかかったままで、かっこいいとかって思ってないからね。
ボクのシャベルがこんなになるまでがんばってたってことだもんね。文句を言ってすねられるとめんどうくさいし。
後でおじちゃんに見てもらおう。
ママの弟でおじいちゃんおばあちゃんと一緒に暮らしている。この田舎で工房を開いている町おこしの達人である。
……達人の位置がおかしいか?
手先が器用でおじちゃんにかかれば木材だろうと金属だろうがなんでもかんでもスペシャルなアイテムになってしまう工作の達人。ついでも町おこしもしている。
まあいいか。せっかくだし掘ることにしよう。
穴の中に入ろうとして、穴をのぞき込んで入るのをやめる。
これ、ボクが入ったら自力では出られないよね。深いだけじゃなくて広い。穴に落ちないようにヘリの近くに座って、そこを掘る。
「ん? むっ、むむむ~」
ケンちゃんが掘ったところにシャベルを刺すのに、刺さらない。ほんのちょこっと土が削れた。ほんのちょこっと。
それに思っていた以上にシャベルのグラグラが大きい。
ケンちゃん、このシャベルで掘ってたの?
壁に寄りかかっているケンちゃんをちらっと見る。
これでここまで掘ったの、すごく大変だったのかも……。
なんでここまでしたんだろう?
「んしょっ」
子供用のシャベルだし、ザックザックと掘ることができない。
どんだけ馬鹿力なんだ?
「とうっ」
思いっきり掘ろうとしても、まるで地面に拒絶されているかのように掘れない。
あれれ?
「……掘る気、あるのか?」
そう言われ、手を止めてケンちゃんを見る。
「あるよ……」
ちょびっとくやしい。
ケンちゃんは穴をザックザック掘っていたけれど、ボクはまったく掘ることができなかった。
「ボクだって、ケンちゃんみたいにザクザク掘りたいんだ」
そう言って、少し悲しくなった。
ボクはどうしてこんなに力がないんだろう。
「んしょ……」
がんばってもシャベルが地面に刺さらない。
「ったく」
ケンちゃんが立ち上がる。
「ほら、貸せ」
ボクからシャベルを取り上げると、穴には入らず、ボクの隣に座ってボクが掘っていた場所を掘る。
下に掘るのはやめたようで、今までの穴を広げるように掘り出した。
「ケンちゃんは、土に好かれているんだね」
「あ?」
掘りながらケンちゃんが答える。
「だから、シャベルが地面に刺さるんだよ」
「そんなわけあるか」
ケンちゃんはザックザックと穴を掘る。ボクの横の土がどんどん削れていく。
「そうかなあ」
ケンちゃんは穴を掘る。
ザックザックと力強く。
ホントに上手に穴を掘っていた。穴を掘ることが天職であるかのように。
こうなると職人って呼びたくなるよね。
「好かれてるから、土が助けてくれてるって感じがするよ」
ケンちゃんは黙って穴を掘る。ザックザックと穴を掘る。
「ボク、嫌われてるのかなあ」
そう思ったら悲しくなった。せっかくママが買ってくれたシャベルなのに、持ち主のボクが上手に使いこなせない。
すると、ケンちゃんが手を止めてボクを見た。
「俺はショウよりも力があって、シャベルの使い方がわかってるだけだ」
そう言って、シャベルを持った手の甲で頬についた土を払う。
「土に好かれたり、嫌われたりしているわけじゃない」
土が横に伸びて、頬に細い線を描いている。
いいな。かっこいい。
わんぱく坊主って感じ。ボクもあんな感じになってみたいかも。
でもボクには無理だ。
なぜならボクは、穴を掘っていないからピカピカのお肌のままなんだ。
「ふっ……」
ボクは鼻で笑った。
誰もがうらやむぴちぴちのお肌。それがこんなところでアダになろうとは……。
ぴちぴちなお肌は関係ないかも。
都会っ子の振りをした、隠れ野生児ケンちゃんの本領発揮ってとこかな? ボクはわんぱく坊主の振りをした都会っ子だもんね。
「ケンちゃんの方が、地底人みたいだなあ」
やっぱりケンちゃんはすごい。困った中二だというのにね。
「地底人なのはショウだろ」
ようやく思い出してくれた? 地底人設定。設定じゃなくて空想だけど。
「ふたりで地底人になって、いつか故郷に帰ろう」
「また設定、変えやがって」
ケンちゃんがニヤっと笑って大きく腕を上げて、ボクの白くてかわいいシャベルを地面に突き刺した。
かぱきん
嫌な音が響いた。
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