第20話 その頃のケンちゃん
ケンちゃんは、おじいちゃんの家にいた。
「ばーちゃん」
「なに?」
家事をしていたおばあちゃんに声をかける。
「ショウは?」
いつも側に居たボクがいなくて、寂しかったんだね。
ゴメンね、ケンちゃん。
「おじいちゃんとお出かけするって言ってたわよ」
「そっか……」
ボクはケンちゃんのためにがんばってギターを借りてきたんだよ。
「そろそろお昼にしましょうか」
家事をひと段落付けたおばあちゃんが言う。
おじいちゃんの家もお昼の時間である。
「うん……」
元気なく答えるケンちゃん。いつも元気いっぱいって感じじゃないけどね。
「食べたい物はある?」
「……ない」
せっかくおばあちゃんが聞いてくれてるんだから、もうちょっときちんと答えようよ。
「おばあちゃんとケンちゃんの二人だけだから、お蕎麦でいい?」
「うん……」
「じゃあ、ちょっと待っててね」
おばあちゃんは台所へ行った。
ケンちゃんは独り言をいうわけでもなく、いつもみんなでごはんを食べている居間に行った。おじいちゃんの家の居間は畳にちゃぶ台。丸いのではなくて長方形の。そこにそれぞれの座布団が敷いてある。
ちなみにおばあちゃんのお部屋もみんなが集まれる感じになっている。
ケンちゃんは決められた席に座る。
ボクのお隣。
でも、ボクはいないから、なんだか淋しそうにも見える。ケンちゃんはひとりちゃぶ台に座っていた。ケンちゃんが正面を見ると、おばあちゃんが台所でお蕎麦をゆでているのが見える。すっごくニコニコしてる。
ケンちゃんはぼんやりとしていた。それはまるで、静かな田舎の時間を満喫しているようにも見えた。
たまにはそういうのもいいのかもしれないね。いつもガチャガチャ動いてるし。
玄関を開ける音が聞こえてきた。
「ただいま」
……おじいちゃん、帰っちゃったの? まだこっちにいて、ボクが戻るまで待っててくれている設定だったはずなのに。
ケンちゃんはすっと立ち上がり、玄関に向かう。無駄のない所作というヤツかも?
「ケン坊か? どうしたんだ?」
玄関にはおじいちゃんがいた。
ケンちゃん、速いよね?
声がして、おじいちゃんが靴を脱ぐ前に玄関にいた。
「ショウは?」
ボクの名前が出てきてびっくり。そっか、ボクが待ち遠しくてそんなに速かったんだね。うんうん、納得。
「………………」
おじいちゃんは固まっていた。
「じいちゃん?」
不審に思ったのかケンちゃんはじいちゃんを呼んだ。
おじいちゃんはしばらく黙っていた。どう切り抜けるのが正しいのかすぐには判断できなかったようだ。
するとケンちゃんは(ボケたのか?)と心の中で思っていた。
「ボケとらんぞ」
十分ボケてるよ。
ボクとじいちゃんにはわかるけど、ふつうの人間に心の声は聞こえない。千里眼の応用編だった。
「まあ、なんだ? ショウを送り届けて帰ってきたんだ」
「どこへ?」
そうだよね。ボクがどこに行ってるのかケンちゃんは知らないもん。
おじいちゃん、ごまかすの下手すぎ。能力うんぬんというよりも、これはセンスの問題なんだよ。
「あらあらおじいちゃん、帰ってらしたんですか?」
おばあちゃんがナイスなタイミングでやってきた。さっきまで作っていたお蕎麦は、すでにちゃぶ台に乗っている。
温かいお蕎麦。山菜がたくさん乗っている。
おばちゃんのごはんもおいしかったけど、おばあちゃんのごはんもおいしい。なんか、食べたくなっちゃったかも。おじいちゃんのお家に戻ったら作ってもらおう。
「キミのごはんが食べたくなってね」
おじいちゃん、それで帰ったんだね。こっちだとおばあちゃんのごはん、食べられないもんね。
「じゃあ、ケンちゃんと先に食べててください」
無駄にカッコつけてたおじいちゃんに、おばあちゃんはサクっと言った。
ほんとに無駄って感じだったし。
おばあちゃんはさっさと台所に行って、おばあちゃんの分のお蕎麦を作っていた。
「いや、待ってるよ」
おばあちゃんのいる台所へ行き、おじいちゃんは言う。
「おいしくなくなっちゃうから食べててください」
さすが、長年連れ添ってる夫婦って感じ。あうんの呼吸ってコレだよね。おばあちゃんはてきぱきとお蕎麦を作っていた。
「まあ、じゃあ、食うか……」
ちょっと淋しそうに、おじいちゃんは言った。切ない?
それからおじいちゃんは居間に行ってちゃぶ台に座ると、おばあちゃんの席に置いてあったお蕎麦を自分の席の前に置く。
「ほら、ケン坊も食べなさい。おばあちゃんのお蕎麦は絶品だぞ」
嬉しそうにおじいちゃんは言った。
これが食べたくってボクのお願いを無下にして帰ったんだものね。
ケンちゃんは席にもう座っていた。
そして不信感を漂わせておじいちゃんを見ている。
ダメじゃん。
なんのためにボクがケンちゃんに内緒でギターを取りに来たと思ってるの? あとでおじいちゃんに文句を言おう。
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