5 ちょっとだけママのいる都会のお家に帰る

第18話 ケンちゃんのギター

「ママ~、ただいま~」

 家に帰ると、ママはお部屋のソファーに座ってタブレットで漫画を読んでた。おじいちゃんの家とは違ってフローリングな床の洋間。しっかりくつろいでる感じ。


「あら、ショウちゃん?」

 帰るって言ってなかったからママは驚いていた。

「おかえりなさい」

 でも、ボクはママの大切なかわいい子なので、すぐに笑顔でそう言ってくれた。


 おじいちゃんの家がめちゃめちゃ和風だったからか、うちはめちゃめちゃ洋風だった。もちろん、ママの趣味。

 ベージュが基本な内装だけど、ふわふわな白いレースのカーテンやらここぞという小物にピンクがある。ピンクだけどゴテゴテしていないギリギリを攻めた優しい色。


 ママもそれに似合う雰囲気。ママ自身がそこに彩りを添えている感じ。八歳の子どもがいるとは思えない、若くてかわいいママである。ボク単体でもかわいいんだけど、ママと一緒だと三倍くらいかわいいが増える。


「春休みの間はおじいちゃんの家に居るって言ってたでしょ?」

「ママに会いたくなって帰ってきちゃった」

 ソファーのところまで行ってママの前まで行く。


「なんてかわいいことを言うのかしら。ママも会いたかったわ」

 ママはニコニコしてボクをぎゅっと抱きしめて隣に座らせてくれた。


「おじいちゃんのお家はどうだった?」

「おばあちゃんはとっても優しいよ。やっぱりママのママだね」

「あらそう? うれしいわ」

 ママはそう言って、ボクの肩に置いた手でぎゅっと抱きしめてくれた。


「おじいちゃんは?」

「いつも通りだよ」


「それも困ったものだけど、元気ってことよね」

「うん」

 おじいちゃんのことは特に話すこともなかった。


「ケンちゃんは大丈夫? 田舎暮らし、慣れてないから平気かしら」

「それなりに楽しんでるみたい。いつも仏頂面してるけど」


「お姉ちゃんもそうね」

 ケンちゃんのママとボクのママは姉妹。つまりボクのおばちゃんである。


「むすっとしてるのに、面倒見がやたらいいのよ」

「そうそう、そんな感じ」


「そこまでしなくていいのにと思うけど、お姉ちゃんも面倒を見るのが好きみたいだからやってもらってるの」

 にっこりおっとりとママが言う。

 ママはおばちゃんにいつもいろいろおねだりしている。でも、それはママなりの姉孝行のようだ。

 いちおう、迷惑にならないギリギリのところを目指しているようだった。


「ボクもそんな感じ」

 自分のわがままのためだけに言っているのではない。


「ショウちゃんも甘えるの上手だものね。カリカリしながらいろいろやってくれるケンちゃん、目に浮かぶようだわ」

 やっぱりボクはママの子どもなんだって、改めて思った。


「困ったことはない?」

 ママに言われて思い出す。ボクはママに甘えるためだけに帰ってきたわけではない。


「ケンちゃんがギターを持ってきてって」

「ギター?」


「ケンちゃんのギターを持っていけば、お歌をうたってくれるんだって」

「あらあ、じゃあ持って行ってあげないとね。きっとケンちゃん、お歌がうたいたいのね」

 ニコニコとママは言う。


「ボクもそう思うよ。頼んでもいないのにお部屋でうたってたんだ」

「ふふふ。じゃあ、善は急げね。ケンちゃんのお家、行きましょう」


「うんっ」

 ママは話が早いから助かる。

 ぽんぽんぽんって次の行動が決まっていく。

 

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