第8話 アナグラムとはある言葉の順番を変えて別の意味を持たせる言葉遊びらしい

「ケンちゃんだって、ボクのダジャレに反応してくれなかったよ」

「ショウのは反応するほどの物ではなかったからだ」

 そういう言い方、なくない?


「ボクのはかなりいい感じのダジャレ中のダジャレだよ」

「『シャベルがしゃべった』のどこがいい感じなんだよ」

 ……改めて言われると嫌かも。


「これ以上のダジャレ、ケンちゃん言える?」

「え?」


「『布団が吹っ飛んだ』クラスの最上級のダジャレだよ」

 ケンちゃんは黙っていた。


「しりとりで言えば、『蚊』に匹敵する偉大なダジャレなんだよ」

「『蚊』そこまですごいか?」


「たった一文字で昆虫を表してるんだよ。それでパスを使うことなく自分の番が終わって、次の人に同じ課題を与えることができるんだ」

「…………」


「しかも蚊は血を吸われた後にかゆくなるという精神的苦痛をイメージさせることができる。これは敵に思っていた以上のダメージを与える」

「しりとりで遊んでくれている人を敵とか言うな」

 そこに引っかかるんだ。


「ケンちゃん、ゲームはシビアにやらなきゃ。それこそ遊んでくれている人に失礼だよ」

 ケンちゃんは納得してくれたようだった。


「短ければいいのか?」

「そういうわけでもないけど、大切な要素のひとつだね。短くてシンプル。そして意味がなければいけない」


「ケンちゃんのはちょっと違うんだよ」


「『ダジャレを言っているのは誰じゃ』」

 ボクはケンちゃんを真似して言うと、ケンちゃんは眉をピクっとさせて(改めて言うんじゃねえ)という顔をしていた。ボクも嫌だったもの。


「アナグラムも入っていて悪くはないかもしれないけれど……」

 アナグラムとは言葉遊びのひとつ。言葉の順番を変えて違う意味を持たせること。ある意味、親父ギャグと言うのかもしれない?


「いまいちだね」

 うんうん。そうそう。何かが足りない。


「だからボクは評価しなかった」

「なんでショウにそこまで言わなければならないんだ?」

 ケンちゃん、ちょっと怒った?


「ふっ」

 ボクは鼻で笑う。


「それはちょっとだけ秘密だよ」

 まだ言えない。


「言わないんならちょっとじゃないだろ」

「ケンちゃんは『言う』『言わない』の二択なんだね」


「あ?」

「世界には、もっといろいろな選択肢があるって、ボクは言いたいんだよ」

 ボクらが思っているよりも、ずっとずっと大きくて、でもずっとずっと狭い。


 ケンちゃんは何も言わなかった。

 まるで時が止まってしまったかのように。


 しばらくすると、カランとケンちゃんがシャベルを地面に投げ出す。そして何も言わずにボクに背を向け、立ち去ろうとする。


「どこ行くの?」

「……便所」

 そか。


「行ってらっしゃい」

 ボクは笑顔でそう言った。

「ん……」

 そんな小さなお返事をして、ケンちゃんは出口へ向かう。


 ケンちゃん、トイレって言うのが恥ずかしかったんだね。

 ずっと我慢してたのかなあ。


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