2 地上にて
第6話 遊んであげてる
家に帰ると、おばあちゃんは新しくホットケーキを焼いてくれた。
ボクとケンちゃんは美味しいホットケーキを食べて、おなか一杯になったボクは、おばあちゃんのお部屋の縁側でお昼寝をしていた。
春の日差しはぽかぽかと暖かで、庭の桜の木から花びらが降ってくる。ちょっとずつひらひらと。
風は心地が良く、最高の気分だった。
「おい」
クラッシャーなケンちゃんの声がした。
「みゅう……」
眠かったから、庭から声をかけてきたケンちゃんに背を向け、そのままタヌキ寝入りをする。
「シカトしてんじゃねーよ。起きろ」
ケンちゃんが縁側に座って、ボクの背中を小突く。中二病くんが八歳児をいじめてた。
「暴力反対」
「こんなん暴力のうちに入るかよ」
背中こつんだから、痛くもなんともないんだけどね。
でも嫌な物はイヤ。
そういうの、わかんないからな。
おこちゃまなボクよりもおこちゃまなケンちゃんは。
でも、ケンちゃんよりも大人なボクはしかたがないから付き合ってあげる。
ボクは起き上がってケンちゃんの隣に座る。
暖かい
ケンちゃんもそれを見ていた。
舞い散る桜がケンちゃんの周りを彩る。
「ねえ……」
「ん~?」
桜の花びらに包まれたケンちゃんが面倒くさそうに返事をする。
「用事があるから来たんじゃないの?」
「別に……」
ないのね、用事。
「宿題は?」
ママがたまに言うことを言ってみた。
「春休みまで宿題があってたまるか。塾のヤツはとっくに終わってるし」
「そっか……」
簡単に返された。
ダテに中学生じゃなないね、ケンちゃん。
「……」
薄紅色の花びらが、ひらひら、ひらひらと散っている。
それはそれは見事に。
「のどかだねえ……」
そう言うと、ケンちゃんが顔をしかめた。
「ジジくさくね?」
こんなにキュートなボクに向かってなんてこを言うんだ。
「ボクがジジくさいなら、ケンちゃんはもっとおじいちゃんになるよ」
ケンちゃんはボクよりも5つも年上だもの。
それにジジくさいって言い方もよくないよ。
「そういう意味じゃなくて、なんなんだよ。その元気のなさは」
「四六時中、元気でいろってムリだよ」
午前中に穴掘って疲れた。
「そんなことないだろ」
不満そうにケンちゃんが言う。
「……」
『このひ弱なボクを、バカみたいに体力があるケンちゃんと一緒にしないでほしい』と目で訴えてみた。
「なんか言いたいことでもあんのか?」
怒ったようにケンちゃんが言う。
「ないけど」
言わないのが得策ってヤツだよ。
ボクは思っていたことを何も言わずに庭をみる。
すると
「あ、チョウチョだ」
白いのだった。
「あれって、モンシロチョウって蝶?」
「さあ。細かいこと知らね」
「都会っ子だねえ」
おばあちゃんの口癖みたいになってる言葉を言ってみた。
「ショウだってわかってないだろ」
「うん」
ボクは名前もわからないけど白いチョウを目で追う。
青い空と緑の木々や花々の間をひらひらと飛んで行く。
桜のも相まってなかなかいい感じ。
「ジジイじゃないんなら追いかけるくらいのことをしろよ」
「網持ってないし、捕まえても入れるカゴもないじゃん」
「じーちゃんに言えば用意してくれるだろ」
「おじいちゃんに迷惑をかけるなって言ったの、ケンちゃんだよね」
「かわいい孫のためにやるなら、それは迷惑とは言わないらしい」
そういえばおじいちゃんはたまにそんなことを言っている。
「ジジイを喜ばすために遊んでやれ」
その言い方はないと思うよ。ケンちゃんが遊びたいだけだよね。ボクを口実にしないでほしいな。
「おじいちゃんが用意してくれても、ボク、チョウ、取れないと思うよ」
「どんくさいもんな」
すぐにケンちゃんが言う。
それはないんじゃないの? その通りだとは思うけど。
「やればできるけどやらないだけ」
そう言っておこう。
「それに張り切ったおじいちゃん、面倒くさいよ」
「それもそうだな」
風が吹いて、桜の花びらが舞い散る。
そして、白いチョウも庭からいなくなった。
「ケンちゃん」
「なんだ?」
「ヒマだね」
「そうだな」
「地底人ごっこ、再開する?」
「それはショウが勝手にはじめた遊びだろ」
「けっこ、面白いと思わない?」
「思わない」
庭に面した縁側で、二人で風に吹かれてた。
ちらちらと舞う花びらを観て、やっぱり桜はいいなと思った。
「こういうのもいいねぇ……」
ボクがそう言うと、ケンちゃんが縁側から飛び降りた。
「俺は洞窟に行くから、ショウはそこでたそがれてろ」
ムッとした顔でケンちゃんは言う。
「ケンちゃんは短気だなあ」
しかたがないからボクも行くことにして、おばあちゃんの部屋に入る。
「靴、はいてくるから玄関で待っててね」
「早くしろよ」
なんだかんだ言ってヒマそうだったから
ボクはケンちゃんと遊んであげてる。
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