第5話 地底人が見た青い空
おじいちゃんの家の裏の洞窟から出ると、青い空が見えた。春の日差しの
お昼の空。
「……っ、まぶし」
後ろから来たケンちゃんが言う。
ケンちゃんを見ると、ケンちゃんはじっと空を見ていた。
ボクも一緒に空を見た。
雲一つない、一面の青。
地面は田んぼと畑と雑草とかで緑色になっていて、ところどころ菜の花の黄色。遠くには山が見えて、空はひたすら青かった。
これでもかという感じの、一面の青い空。
「すごい青だね」
「……そうだな」
ケンちゃんは、じっと空を見ていた。
まだ子供だけど、子供みたいな目で。
まっすぐ、まっすぐ。
空の果てまで見ようとするかのように。
「よくない? 地底人が見たって想像する青い空」
「別に、地底人じゃなくてもいいし」
「まったく見たことがなかったらって気持ちから入るから驚きがあるんだよ」
「それ、マジで地底人関係ないから」
「地球人でもいい感じに見える青い空?」
「地底人も地球人だろ」
ケンちゃんが言う。ボクもん? と考える。
「あ、そっか」
言われてみれば、そうだった。
やっぱりケンちゃんはちょっとだけお兄ちゃんだ。
ボクは気づかなかった。
「誰が見ても、綺麗な青い空だね」
ちょっとの間、ボクとケンちゃんはそこで青い空を見ていた。
「じーちゃんち、帰るぞ」
青い空を満喫したのか、ケンちゃんがボクを見て言う。
ボクから見ると、ケンちゃんの後ろに、青い空が広がっていた。
ケンちゃん、青い空、似合うかも。
いい気になられたら嫌だから言わないけど。
「ばーちゃんがホットケーキ、焼いてくれてんだ」
ボクは息を飲んだ。
「ケンちゃん! 早くそれを言ってよ!!」
なんで今頃そんなことを言うんだ。
ボクはそれを知らずに、けっこうケンちゃんを引き留めてしまっていた。
「だって、地底人がなんとか言っていたし」
淡々とケンちゃんは言う。
「ホットケーキはあったかい方が美味しいんだよ!」
ボクは急いでおじいちゃんの家に向かう。
ここからすぐだけど、ちょっとは離れている。
それまで散々ボクを急かせていたケンちゃんがのんびりと空を見ていた。
「ケンちゃん、急いで! ボクのホットケーキが冷めちゃうよ!!」
「なんなんだよ、おまえ……」
ケンちゃんはわざとなのか、空を見ながらゆっくりと歩く。
ボクはそんなケンちゃんを見ながら、急いでおじいちゃんの家に向かう。
ボクは地球に生まれてよかった。
無理して地底人でなくてもいいかなって。
だって、それでも青い空は綺麗だし、ホットケーキは美味しいから。
ケンちゃんとボクの間に距離ができた。
ケンちゃんは青い空を見ている。さっきまであんなにぶつぶつ言ってたくせにね。
なんとなくだけど、そんなケンちゃんに孤独の影が見えた。
「ほら! ケンちゃん」
ボクは戻ってケンちゃんの手を握る。
「あ?」
面倒くさそうにケンちゃんがボクを見る。
「ホットケーキが待ってるってば」
ボクはケンちゃんの手を引いて歩く。
「ほんと、現金なやつ……」
そう言いながらもケンちゃんは小走りでついてきてくれた。
「早く早く。おばあちゃんが待ってるよ」
「ふん……」
そう言って鼻で笑ってたけど、ついてきてくれる。
ケンちゃんは口や態度は悪いけど、なんだかんだついてきてくれる。
それが、ボクはうれしかった。
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