そして得た結論


「うう…」


 闇に包まれていた俺の目に光が灯る。

 目を覚ました先は真っ白な部屋だった。辺りを軽く見渡すと二人の男が俺の直ぐ側の椅子で船を漕いでいた。

 ボブさんとスコッチさんだ。


「……ユウキ?! ユウキ!!!」


「目を覚ましたか! ドクター呼んでくる!」


 俺が何か言う前にドタバタとボブさんは外へ駆けていく。

 残されたスコッチさんは安堵したのか、ふうと息を吐くと倒れ込むように椅子に座った。


「良かった…。でもまさかここまで速く目が覚めるなんて」


「……ここは多分グロリアの中…ですよね。………………リラさんは!?」


 頭の中で現状を整理したその時、頭の中で電流が入り思い出した。

 リラさんの事を。俺を助けるために勇猛果敢にガソリンスタンドに乗り込んだ彼女の事を。


「彼女は無事……とは言えない。だが生きてはいる。…………植物状態だそうだ」


「!? ……ああ。あああああ!!!!」


「ユウキ!? 不味い誰か速く来てくれえ!!」


「待たせた! 連れてきたぞ! いったい何があったんだ!?」


「ひとまず鎮静剤を投与します! 二人共手伝って!」





 ようやく落ち着いた時は既に数時間も経過していた。

 どうやら植物状態と言っても目覚める可能性は非常に高いらしく、現在は最新の治療室で治療を受けているそうだ。

 俺はあの後ひとまず拘束を解いて貰うことに成功し、介護してくれるスコッチさんの話を聞いていた。


「……て感じかな。」


「……そんな状況になってたんですね」


 皆内心絶望してる。グロリアに着き、生活環境は良くなったが希望が見つからないのだろう。

 俺はこの有様。まともに動く気力すら無い無気力状態。

 過去の夢を見ていたからだろうか。自身の無力さに俺はただ呆然と現状を眺めているだけだった。


「……ユウキ君。君は過去に……何があったんだい? ここまで追い詰められた顔……見たことがない」


「……それは」


「その話俺にも聞かせてくれ」


「ボブさん?!」


 俺が悩んでいた時、更に一人の人間が病室へと入ってくる。

 ボブさん…。彼もかなりやつれていた。

 他の警察の人に聞いた話によるとリラさんが小さな頃からの仲らしい。

 そりゃあ心配だ。今にも死にそうな顔してるのも納得できる。


「俺の相棒はお前を助けるために命を懸けた。俺には聞く権利がある」


「…………………分かった。二人共……聞いて欲しい。ヘレティックが滅んだ理由。そして俺に何があったのかを」











 リラさんの事もあった。だがそれ以上に誰かに自身の境遇を話したいという気持ちがあったのだろう。

 懺悔室の囚人のように。俺は自身の過去を洪水の如く話し続けた。

 二人は俺の言葉を何も言わずただ聞いてくれた。全て話し終えた時、最初に言葉を発したのはボブさんだった。



「………………リラが、リラがお前に妙に構ってた理由。今なら分かる気がする。あいつは……お前と自分を重ねてたんだな」


「ボブさん…?」


 ボブさんは大事そうに手帳から一枚の写真を取り出した。

 お世辞にも綺麗とは言い辛いシスター。

 だが彼女の笑顔には人を惹きつける優しさがあった。


「この人は俺やリラが居た孤児院のシスターだ。俺達はヤンチャもんで良く問題を起こして怒られていたんだ。……あの日もそうだった」


 ボブさんの目が潤みだす。

 いったい何が起こったのか。その表情だけでも察せるものがあった。


「あの日も俺たちはイタズラして叱られてよ。罰として倉庫の片付けしてたんだ。そしたら急に悲鳴が聞こえて、気づけば孤児院は火に包まれた。俺達が居た倉庫は木造だったから一瞬で燃えていったよ」


 ブルリと震え、妙に肩の部分を押さえ始める。

 恐らくだがあの場所に火傷の痕でもあるのだろう。

 更に声のトーンが落ち、話を続ける。


「当時子供だった俺達は火事に関する知識が無く、外まで脱出できず廊下で倒れちまった。その時だった。ボヤケた視界に一人の女性が入ってきた。……シスターだ。自身が持てているのにも関わらず俺達全員を拾い上げ脱出に成功。…………だがシスターは助からなかった。死体はシスターなのか分からないほど黒ずんでいたよ」


 耐えきれなかったのだろう。とうとう声を押さえ涙を流しだした。

 ボブさんの背後から後悔や怒り、謝罪と言った多くの感情が渦巻き合っているのを感じる。


「俺達は後悔したよ。俺達が処罰を受けていなければ、悪戯をしなければ。シスターは生きていた。……その日からだよ。俺達の意識が変わったのは。俺達は皆、心に誓ったんだ。多くの人を助ける。それがシスターに俺達ができる弔いなのだと」


「…………っ」


 俺自身にも見覚えがあった。

 ヘレティックのメンバー。皆が遺した意思を継ぎたいと。

 皆は俺に何を託したのか…。だが答えは出てこなかった。どれだけ考えても答えは出てこない。

 その答えは皆ではなく俺が望んだ答えなのではないか…?

 そう考えてしまうのだ。


「いいかユウキ。死者に意味を与えるのは生者の役目だ。死者達が真に望む答えが分からないのは当然。だからこそ、死者達にとって誇れる生き様を送るんだ。それが俺達生者の生き様だと……俺達はそう考えている。いずれ死んだ時、誇りを持ってシスターに会う。それが俺達の夢なんだ」


 ボブさんはその言葉を最後に部屋から出ていった。

 残されたのは俺とスコッチさん。

 スコッチさんは少し居づらそうにしていたが、ボブさんが居なくなると声をかけてくる。


「僕も彼と同じ意見だ。最後まで生きる事を諦めず、戦い抜く。きっとそれが君の仲間達が望んだことだと思うよ」


「…………………………」



 俺はただ静かに、二人の言葉を咀嚼していた。

 思い出すのは仲間達との日常。皆、とても優しい人達だった。

 皆に誇れる生き方……。




 皆はどんな生き方をしていた? 皆はどんな生き方を望んでいた?



 頭の中でぐるぐると考えが巡っていく。







 そして一つの結論に至った。



 ああそうだな。俺は……決めたよ。


 俺はしばし考えた後立ち上がり、市長の下へと向かった。





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