感謝
グロリアの最上階。そこには市内全ての監視カメラの映像が映し出される巨大なスクリーンがあった。
なんと言えば良いのか…。昔映画で見たNASAのオペレーション室のようだ。
何人ものオペレーターが慌ただしくパソコンをカタカタさせているのが見える。
そういえばグロリア…。今更ながら思い出したぞ。
確か国が秘密裏に作った民衆には内緒の軍事基地。隊長がかつて一度だけ口にしたのを聞いたことがある。
だからこそテロリスト共も迂闊に侵入できなかったのだろう。
皆が忙しそうにしてる中、俺は中央で指示を出している市長の下へと向かった。
「市長。ちょっとお願いがあるんだが。いいか?」
「驚いたな…。先程よりも随分と落ち着いたように見える。一体何があったんだい?」
まあそう驚くわな。今の俺は先程までの腐りきったタマネギ見たいな顔ではなく、新品のトマトのような瑞々しさがある。
「色々とあったんだ。それより現状はどうなってる?」
「ああそうだったな。まずはこれを見て欲しい。現在のゾンビ達の動向だ」
近くに居たオペレーターと思わしき人達に市長が指示を出すと画面に新しい映像が出てくる。
ギチギチにゾンビ達が集められている。それ以外の場所にはゾンビ一体も居ない。
生存者達が集まるグロリアの側にもだ。
「あいつらは現在建物の中に入って一切動かない。恐らく死体がこれ以上腐らないようにしてるんだろう。動くとは言え死体だからな。そして一番の怪物は……こうなってる」
画面に映し出されたのはあの時あった隊長ゾンビはトラックの側で…恐らく警備をしていた。
周りには特殊部隊と思わしき重装備の男達と白衣を纏った研究員。
そして一際大きいパラボラアンテナが付いた巨大なトラックが置かれている。
あれは……なんだ?
トラックの周りに巨大な青い膜のようなものが張り巡らされている。
もしやバリアか? あのトラックは一体…?
「奴は今、ゾンビ達を動かしている電波。その発信源であるトラックの護衛中だ。いや、恐らくだが君を襲いに来たのは明らかなイレギュラーだったのだろう。護衛こそ本来の役目と言った所か。現在はトラックの周りを守っているバリアーを開く鍵を持ち、周辺の監視を行っている」
徐々に映像がトラックの下へと近づいていく。
だが映像に映って居た隊長ゾンビが一瞬でこちらを察知。
こちらを見たと思ったら大きな破壊音がスピーカー越しに響き渡り、映像がノイズで満たされる。
「この通り。一定以上近づくと壊される。とんでもない怪物だ。まだ一キロ以上離れてるというのに。だが我々は奴を倒す、または行動不能にし鍵を入手。そしてバリアを解除。中にある電波装置を操作。ゾンビ達を行動不能にし、救助要請を出す。それが今考えている作戦だ」
「救助要請じゃ上に潰される可能性があるんじゃ…?」
「それは問題無い。救助要請を頼むのは確実に今回の事件には関わっていないと信頼できる上層部の人間。こう見えてコネがあってね。それにいざとなったら配信サイトに現状を挙げたら嫌でも救助せざる終えない」
「電波装置はどんな形状なのか分かってるのか? そもそも壊した所でゾンビは止まるのか?」
「ただ壊しただけでは止まらないだろう。ナノマシンが最後の命令を聞くだけだ。だからこの装置をパソコンに繋ぐ。こいつはナノマシンを完全に壊す電波を発生させるウイルスのようなものだ。こいつをトラック内にあるパソコンに繋ぎ、電波装置から発生させゾンビを止める。もしどのパソコンか分からなかったら一番大きくていろんなコードが繋がっている物にすればいい」
そう言うと市長はこちらに妙にギラギラした赤色のUSBを見せてきた。
「…………なるほど」
少なくとも俺が考えられる限りこれ以上の良い方法はない。
……だがしかし。
「倒す以外……ないですもんね」
「ああ。奴が生きている限り必ず邪魔される。最悪トラックごと壊されるかもしれない。確実に倒さなければならない相手だ」
俺に勝てるか…?
ブランクだけでなく怪我した箇所はまだ痛い。
対して向こうは肉体改造に加えガッチガチの武装。更にヘレティック全員の才能を保有している。
まともに戦えば勝てる敵ではない。
まともに戦えば……だ。
「市長。ここって兵器の開発できますか?」
「いや。ここは元々兵器を作る場所ではない。できて改造ぐらいだ。あの車もそうして技術者達に改造してもらった物だからな」
「そうですか……。すいません。一つ改造してもらいたい物があります」
「…………正気か?」
「狂気です。しかしこれ以外に勝ちの目は思いつきませんでした」
俺の提案に市長は頭を抱え椅子に力無く腰掛ける。
無茶苦茶なのは分かっている。だがこれしか道は見えなかった。
「…………分かった。頼んでこよう」
「ありがとうございます!」
「すぐに技術者達に頼み込んでくる。その後作戦会議をしよう。アナウンス鳴らすからそしたらこの場所に」
「分かりました。それまで少し病室に行っています」
市長は俺の要望を纏めたメモを持ち、エレベーターの中へと消えていった。
俺も隣のエレベーターから目的の病室まで向かう。リラさんの病室へと。
「……リラさん」
リラさんは火傷で全身の至る個所がボロボロになり、ベッドの上で眠っていた。
今にも目を覚ましそうな様子。だが起きることはない。
「すいませんでした!」
頭を下げる。返事は来ない。そんな事は分かっている。
だが俺は頭を下げ続けた。
「俺……、ずっと怖かったんです。考えてることが…。生きる意味が分からなくて……その、すいません。上手く言葉に……出来なくて。…………今も上手く言葉に出来ないんです」
何度も言葉に詰まり、嗚咽を漏らす。
「でもリラさんやボブさん。スコッチさんのおかげで俺、決めたんです。……俺は生きます。生きて皆に誇れるような人生を送ってみせます!」
顔を上げ、再びリラさんを見る。
リラさんは目を開けずただ心電図の音だけが響き渡った。
俺はそんな彼女を尻目に病室を離れる。
俺がドアを閉めた時、その音に反応したように彼女の手がピクリと動いた。
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