生存者は抗う


 大量の生存者を避難させていた警察署。ここは今数千を超えるゾンビの群れに囲まれていた。

 悲鳴や怒号が辺りから聞こえてくる。全員がこの時、死を予感していた。


「総員戦闘配置! 近づいてくるやつは全て一発で仕留めろ!」


 副隊長のモッブが指揮を取り、ゾンビ達を向かい撃つ。

 だがこの大量の軍勢を前には無理があった。ここにいるゾンビ全てを殺すには弾薬が足りない。

 それにそもそも体力には限度がある。対してゾンビには体力が必要ない。死人だからだ。



「諸君! 彼が来るまで絶対に持ち堪えるんだ!」


 だがここにいる全員には希望があった。


 ここにいる全員にとっての希望とは本郷勇気。彼の事だった。

 彼は今ここには居ない。遠征に出てしまっている。ここに来ることは決して無いだろう。



 ……だがそれでも。全員の脳裏には門に集まった百に近いゾンビを殺した彼の姿があった。

 彼ならばゾンビの異常に気づきここまで来てくれるのではないか。彼ならばここにいるゾンビ全てを殺せるのではないか。


 彼の強さは人に希望を抱かせる何かがあった。

 そして何より後ろには民間人達がいる。俺達が引けば皆死ぬ。


 傭兵として今まで多くの戦闘をこなしてきたがそれはどれも悲惨なものだった。

 何が正義や悪なんて分からない。ドロッドロの悲惨な戦場。何時しか心は麻痺し、善性なんて消えていった。




 だがこの戦場は違う。意志のないゾンビ達から民間人を護る。

 誰かの為に戦える。その事をここまで嬉しく思えたのは初めてのことだった。



「裏門が壊された! ゾンビ達が侵入してくるぞ!」


 戦闘を始めて数十分が経過した頃、とうとう均衡は崩された。

 ゾンビ達が流れ込んでくる。しかし即座にそれに気づいた警官が近くにあったトラックを突っ込ませ、擬似的な壁を作り出す。


「くそ! これも何時まで持つかわからない! 何人か手を貸してくれ!」


「俺達も手を貸すぜ!」


 トラックの隙間から割り込んでゾンビ達が侵入しようとしてくる。警官達がいくら撃っても数は消えない。

 すると後ろから黒人の大男達が工具を持って現れる。これで向こうも少しは楽になるはずだ。


 安堵し目の前の敵に集中する。外の敵は全員門をこじ開けようと必死に突っ込んでくる。

 少しずつ…少しずつだが門が壊れていくのを感じる。

 時間がない…。余裕がある今のうちに少しでも多くの敵を削らなければ





「うわあああああ!!!!」


「「「!?」」」


 その時、後ろから悲鳴が聞こえた。あり得ない!裏門はまだ壊れていないぞ!

 壊れた裏口はトラックでふさがれている。そして何より声は警察署の中から聞こえてきた!


「中はどうなってる!」


「副隊長! 数名のゾンビが侵入しました! こいつら他のゾンビを踏み台にして登ってきています!」


「何!? 門だけでなく壁にも見張りを! 中に入ったゾンビはお前とメリーが倒せ! 正門は俺が守る!」


「ですがそれでは正面が守りきれな…」


「死ぬ気でやるんだよあくしろ!!!」


「イエッサー!」


 頼んだぞ…。俺はボロボロになっていく正門に一人立つ。

 敵は大量。だがやるしかない。


「こいやあああ!!!」


 銃を構え、ただひたすらに撃ち続けた。















「うわあああああ!!!!」


 警察署内部は現在絶賛混乱中だった。複数体のゾンビの侵入。しかもこちらに全速力で走るときたものだ。

 年の為に残しておいた二人の警官がゾンビを止めているがどうしても限度はある。


「ア〜〜〜〜〜!!!!」


「こっちに来るなああ!!!」


 一体のゾンビがギタリストの眼前へと迫る。回避は間に合わない。押し倒されそのまま柔らかい首筋に鋭い牙が…………。





「うおおおおらああああ!!! 無事か兄ちゃん!!!」


 到達する前に工具を持った大男がゾンビの頭を吹き飛ばす。

 勢いよく吹き飛ばされたゾンビはそのまま体を震わせ動かなくなった。


「な……なんでここに? …なんで俺を?」


「あ!? 死にそうな奴を見捨ててられっか! 新しい工具取りに来たら悲鳴が聞けてたんだよ!」


 彼はそういうと工具をギタリストに渡した。それなりにゴツくこれで人の頭を殴ったら確実に死ぬことだろう。

 混乱でフラフラと震えているギタリストに彼は怒鳴るように言った。


「しゃんとしろ! まだ皆諦めてないんだ! 生き残るぞ!」


「は、はい!」


 彼は新しい工具を持ち、警官の援護へと向かう。

 その姿を見たギタリストは近くでゾンビから逃げているマジシャンに工具を投げつけた。


「…!? なにすんだ!」


「ゾンビを殺す! 手を貸せ!」


 マジシャンは鍛え抜かれた動体視力で何とか投げられた工具を察知し、受け取ることができた。

 ゾンビに逃げている所にいきなり投げつけてきたギタリストに怒りを露わにする。だがすぐに彼の表情を見て、その怒りを止めた。


 ライバルとして幾度となく路上ライブでぶつかってきた男とはまるで別人。

 ギタリストは持っていた工具でマジシャンを追っていたゾンビを勢いよく殴った。


「おらあ! ……どうした?! まだゾンビはいるぞ! 怖いのか!?」


「なんだと…?! そんなわけ無いだろ! 俺の方が多く殺してやるよ!」


 二人は警察署内部に入ってくるゾンビ達に応戦する。これでかなり戦闘は楽になった。

 ……だがゾンビは彼らの予想以上に多くの所から侵入していた。







「キャアアアア!!!!」


 女性の悲鳴が聞こえる。二階の民間人が眠るフロア。

 慌てて辺りを見渡すとOLのお姉さんと小さな娘の姿がどこにも見当たらなかった。










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