皆で生き残ろう
「キャアアアア!!!!!」
二階の民間人達が宿泊していたフロアにもゾンビが複数人侵入してきていた。
お姉さんは小さな娘を抱え、何とか逃げようと走り続ける。
「………ッ!」
「キャ!」
だがゾンビ達に襲われる極限環境。彼女は限界を迎えその場で転んでしまう。
ゾンビ達が迫りくる。足をくじいて彼女はもう動けない。……ならば
「逃げなさい! 速く!」
「お、お姉さ『速く!』」
この娘だけは逃さなくては。この娘は私と彼の子に似ている。
二人共死なせてしまった…。私が逸れた間にゾンビ達に食べられて。この娘もそう。両親が死に、その事実に気づいている。
この娘は守る。絶対に。それが私が抱いた決意なのだから。
「私も生きて必ず戻るから!」
「……ぅぅ」
彼女は聡い子。私が助からないことは分かっている。けどこうするしか道はない。
彼女が悲しまないように。最後が私の怒り顔ではないように。私は精一杯微笑んだ。
「若いもんがそんな悲しい顔なさんなや」
「そーそー。死ぬのは私達で良い」
「……え? きゃあ!? なにを!?」
突然横から現れたホームレスの二人に吹き飛ばされ、部屋に閉じ込められた。
ドアには何かタンスのような物が倒れている。後ろには娘がいた。どうやら彼女もここに押し込められたようだ。
「若いの! お前さん達には未来がある。精々生き足掻け!」
「その娘を頼んだよ!」
無茶だ…。見れば分かる。二人の体はボロボロで今にも崩れそうな体をしている。
まともに栄養を摂れていない証拠だ。ここに来てからのほうが太っただろうと女医さんが二人に言っていたのを耳にしたことがある。
「駄目! 死んじゃいます!」
彼らに良い顔をしていなかったのは事実だ。だけどここで死んで良いはずがない。
私は先の事では死ぬまで抗う覚悟はしていても犠牲になり死ぬ覚悟はしていなかった。
でも二人は違う。二人は犠牲になって私達を逃がそうとしているのだ。
……ああもう遅い。ゾンビ達が迫ってきている。二人はここで死ぬ。ならばせめて私達は生き残らなければ。
この娘を連れて窓から逃げようとした…その時だった。
バン!! バン!!
派手な銃声が二度廊下になり響く。私が急いで廊下を見てみるとそこには倒れ伏したゾンビと驚いた様子で固まるホームレス達。
そして大きなショットガンを持ち、肩が外れたのかその場で痛そうに壁にもたれ掛かっている男。スコッチが居た。
「今……死ぬ気でしたよね」
二人を強く彼は睨みつける。泣きそうに…いや涙を流しながらこちらを睨みつけてくるその目には謎の凄みを感じた。
二人はその迫力に押され、言葉に詰まっている。
「駄目です…。死んだら駄目です。……彼が悲しむ」
「彼……ユウキ君のことか? しかし何でそこまで」
「彼はともかく私達のことは良いのに。…心配してくれる人なんていないよ」
「じゃあ何で彼女は泣いてドアを叩いていたんですか!」
二人はあっと言葉を失う。そうだ。少なくとも彼女は二人を死なせたくないとドアを叩いていた。
社会のゴミと蔑まれ、多くの人に嗤われてきた二人にも助けたいと思ってくれる人が居たのだ。
二人の目には自然と涙が出ていた。今までの重みが溜まっていた大きな一粒だった。
「彼は…ずっと泣いているんです。彼が眠りにつくとか細い声でずっと誰かに許しを乞うている。そして皆を助けなきゃと叫び続けている。…貴方達にももしかしたら聞いた人がいるんじゃないですか?」
「それは…」
二人が答える前にスコッチは持っていたスタンバトンを手渡す。
戦闘中に警察に頼み込み、持ってきていた物だ。
「死ぬことは許しません。それは彼だけでなく私もそう思っています。…死ぬのは絶対に駄目だ。死ぬにしても最後まで抗い続けた後、全てを出し尽くしてからです」
「……そうだな。…やるか!」
「……まずは君の怪我から治そう! 少し痛いがすぐに治す! 私は昔医者だったんだ! 権力闘争に負けてこうなったがね」
「すいません! 大丈夫ですか!?」
「助けに来たぞ!」
二人が奮起したタイミングでマジシャンとギタリストが現れる。
相当走って来たのか汗がダクダクと出ている。彼らは私達の前に来ると膝を押さえゼェゼェと形で息をしだした。
「こっちは大丈夫じゃ! 二人を安全な部屋の中に入れておいた! 我々はここを守ろう!」
「了解です! 何かバリケードになる物持ってきます!」
「私もいざとなったら戦います!」
スコッチの思いに心を動かされたのかお姉さんは近くにあった掃除ロッカーからモップを取り出すと、机に勢いよく叩きつけた。
「これで頭を刺し殺せる! 絶対に皆で生き残りましょう!」
「お……おう!!」
まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい!!!!!!
ゾンビの大群により正門がもう耐えられない! このままでは正門が突破される!
どれだけ撃っても撃っても奴らは減ることなく増え続ける。
これではもう…。
「ええいまだだ!!! 耐えろ! 全員抗い続けるんだ!!!」
「「「イエッサー!!!!」」」
泣き言を言うな!ここで耐えねば皆終わり。最後まで気合い入れろ!!!
「チィ! 銃弾が切れた!」
アサルトの弾もハンドガンの弾も使い果たした。だがまだ俺には武器がある!
ナイフを持ち、正門をこじ開けようとするゾンビたちを一体一体切りかかる。
「うおおおおお!!! くたばれえ!!!」
ただ一心不乱に抗い続ける。切る切る切る切る切る!!!!!
ナイフが血の脂で使えなくなると今度は全力で殴る!殴る殴る殴る殴る!!!!
どれくらい時間が経ったかは分からない。
ただ俺が正気に戻った時、警察署の後方側から火の手が上がっていた。
「……何が?!」
つい拳が止まる。そしてその一瞬後、何かが俺の横を跳んで来た。
「手を貸すぞ!」
門の周辺にいた大量のゾンビの頭が一瞬で粉微塵になる。
それを起こした男は私の横で獰猛な笑みを浮かべた。
「ジャックさん!?」
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