第3話世の男子の願望は僕にとって望まないものだった

 翌日の水曜日、僕は身体が重く感じ、未だ覚醒していないが瞼を上げると瞳に映ったのは佐渡の顔があった。

 瞬きをして起きた僕におはよう、と挨拶した彼女。

「えぇ……なぁ……っでぇ佐渡さんがぁっ——」

「しぃっ!そんな大声で叫ぶと親御さんにこの光景を見られて気まずいことになるよ。ねぇ、落ち着いて」

 気まずいことは気まずいが、それは彼女だって同等の危ぶいことにかわりはない。

 彼女が僕に跨り——馬乗りになり、お互いの鼻と鼻が触れそうな距離で顔を近づけているのだ。

「落ち着こうにも落ち着けないよ!なにしてんの!?昨日帰ったはず……」

「啓治に馬乗りになって起こしてんの。友達だって言ったら、お母様が入れてくれたの。昨日帰ったよ、オヤがウザい小言吐いてくるからさぁ」

「非常識だ。昨日といい——」

「非常識ぃ〜?今村くんが私を批難する?昨日……私のあられもない姿ぁ何度も撮って、アソコまで撮った……よね」

「そっそぉ……それは。佐渡さん……承諾したし、消すからぁっ!!」

「まだ消してないんだ、へぇ〜!!お母様が今村くんがそんなことしたなんて知ったらどんな反応するかぁ〜?お父様だって……ねぇ?」

「ハめたの、佐渡さん?タチぃ、悪いよそういうの……」

 彼女は小悪魔を通り越して悪魔のような顔で脅しのようなことを発した。

「ハめたなんて人聞きの悪いこと言われたら哀しい。私が非常識だって言ったこと、取り消してくれたらいいの。あと……これから起こしに来ていいって承諾してくれたら、言わないよ」

「うぅっ、酷っ……佐渡さんは常識人です。侮辱して、ごめんなさい」

「ふぅふっ、謝ってくれてありがとうね。さぁ、朝食を食べに行こう」

「あぁ……はぁい」

 僕は重りが腰から離れ、解放された。


 リビングに下りて、朝食を摂り始める僕の隣で、佐渡が既に母親を懐柔したように潤滑に会話を進めている。

 15分程経ち、父親がリビングに顔を出した。

「おはよう。今朝はやけに賑やかだと思えば啓治の友達か。啓治は朝に弱いからな、キミがいれば安心かあははっ!!」

「おはようございます。私、今村くんの友達で佐渡嘉音です。本日は朝早く押しかけて、ご迷惑をお掛けしごめんなさい。これから何卒宜しくお願いします」

 佐渡がダイニングチェアから立ち上がり父親に向き直り、挨拶して律儀に頭を深く下げた。

「おぉ、今のにしては教育が行きとどいてるな。こちらこそ、啓治を宜しく頼むよ。ああ、佐渡さんのような出来たが啓治の友人とはなぁ……良かったな、啓治!」

「あぁ、うん……」

「なんだ、浮かない顔して。腹ぁ減った……」


 佐渡は両親の前でボロを出さなかった。


 7時20分になり、佐渡と伴って登校する。

 登校の最中は会話が無く、無言が続いた。


 通う高校に到着しても普段と変わらない関係になっていた。


 調子が狂う。


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