第13話
バスは静かに走り続けていた。途中、後ろの席にいた女の子は何も言わずに降りていった。どこかで待ち合わせていたのか、それとも彼女もまた、この世界に用があったのかは分からない。
車内には再び静寂が戻り、黒青はひとり、ぼんやりと窓の外を見ながら、ふと思い返す。
「無味無臭……って、当たり前じゃない?」
自分に言い聞かせるように、呟いてみる。
「変な匂いとかしたら、すると思ったのかな? ……いや、私、そんなに変だったのかな?」
自分の匂いに意識を向けてみても、特に何も感じない。ただ少し、バスの中に漂う金属のような、乾いた空気の気配があるだけだった。
そんなことをぼんやりと考えているうちに、バスはやがてお屋敷の門前にたどり着いた。
エンジンが切られる音がして、運転手が立ち上がり、無言で手を動かすとバスのドアが静かに開いた。
黒青はゆっくりと立ち上がり、ドアの外へと足を踏み出す。運転手はまた静かに手を動かし、ドアを閉じた。
目の前には、高くそびえる鉄製の門が立っていた。誰かが操作したわけでもないのに、その門は音もなく、まるで彼女の存在を感知したかのように、ゆっくりと開いた。
門の奥には、まっすぐに延びる小道が見える。両脇には手入れの行き届いた草木が並び、奥には白く光る屋敷のシルエットが見えていた。
黒青は少しだけ息を吸い込み、その道へと一歩、足を踏み出した。
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