第12話
道を歩いていると、向こうから一台のバスがやってきた。バスは彼女の目の前で静かに停まり、運転手が降りてきて丁寧に頭を下げる。
「お迎えに上がりました。バスでよろしかったでしょうか?」
黒青は軽く頷いて答えた。
「もちろん。バスでもタクシーでも構わないわ。迎えに来てくれたってことは、私の考えが正しかったってことよね。ありがとう。」
運転手は深く頷くと、「ではお乗りください。お屋敷まで私がご案内します」と言って、ドアを開けた。
彼女がバスに乗り込むと、運転手は静かにドアを閉め、ゆっくりと発進させた。どこか懐かしいような、静謐な時間が流れる車内。ふと彼女は、後方の席に誰かが座っていることに気づいた。
後ろにいたのは、さっきの少女ではなく、別の女の子だった。その姿は、最初にこの区画に来た時、赤ん坊をおんぶしていた少女によく似ていた。
(妹? それともお姉さん……?)
黒青はそんなことをぼんやりと考えながら、バスの右側、真ん中より少し後ろの席に腰を下ろした。
バスは静かに進み、外の景色もまた静かだった。女の子は何も言わず、後部座席からじっと黒青を見つめていた。そしてしばらくしてから、そっと席を立ち、黒青の後ろの席に移動した。
その直後、女の子は無言のまま黒青の髪の中に顔を突っ込んできた。
「……また試されてるの。」
黒青は内心でそう呟いて、少しむくれた表情を浮かべる。
すると女の子は一言だけ、「無味無臭」と言って、何事もなかったかのように自分の席に戻って行った。
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