第7話
彼女が話すことを決めると、ふと地面に白い矢印が浮かび上がった。
その矢印は淡く光りながら点滅し、まるで生きているかのようにゆっくりと動き始める。彼女が一歩踏み出すと、その矢印も少しずつ前へ進んだ。
「面白い……」黒青は思わず微笑んだ。
「矢印で案内するなんて、まるで迷路ゲームみたい」
頭の中の声が応じた。
「そうだよ、まだ君が安全な人物かどうかわからないからね。矢印が進む方向に歩きたまえ」
彼女は素直にその言葉に従い、矢印の示すままに歩き出した。
足元の白い光は明滅しながら、まるで導き手のように彼女を誘う。
「どうすれば、あなたがいる場所にたどり着くの?」黒青は問いかけた。
「そうだな、もしかしたらこのマンションが消えるかもしれないけれど、そのことは気にしなくていい。矢印の道をただ歩いていけばいい」
声は落ち着いて答えた。
「状況は変わるかもしれない。こちらも隠さなきゃいけないことがあるから、全部は教えられないんだ」
「秘密厳守ってことだね?」彼女は軽く笑いながら言った。
「そうだよ、ここで見てきたことは全部秘密だからね」
黒青は深くうなずき、足元の矢印に集中した。
自分がどこへ向かっているのかもわからないし、何が待っているのかも見当がつかない。けれど、わずかな安心感を感じながら、矢印の示す方向へと歩き続けた。
周囲の景色は時折揺らぎ、見え隠れする現実と幻想の境界線が曖昧になっていく。森の影が消えたり、建物がぼんやりと浮かんだり消えたりする。まるでこの世界そのものが、生き物のように彼女を試しているかのようだった。
それでも黒青は歩みを止めなかった。
矢印はどこまでも続き、彼女を未知の世界の奥へと導いている。
やがて、矢印の先にぼんやりと人影が見え始めた。声は静かに、しかし確かな決意を込めて言った。
「もうすぐだ。君が知りたいことが、ここにある」
彼女は深呼吸をして、ゆっくりと前に進んだ。
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