第3話「好きって言ったよね?」

──なんで、こんなノートがあるんだ?


図書室の奥の棚にひっそりと置かれていたノート。

中に書かれていたのは、明らかに“自分”に関する観察記録だった。

しかも、誰にも言っていないような癖やつぶやきまで、詳細に。


ページの最後には、こう綴られていた。


※計画の再調整必要:レンくんがまだ私を完全に見ていない。

ざわついた胸のまま、その日は帰路についた。

結月の姿は見当たらなかったが、それが少しだけホッとする自分もいた。


──そして、翌日。


「ねえ、レンくん。最近よく一緒に帰ってる子、誰?」


それは昼休み、校庭の隅にあるベンチで、結月が問いかけてきた言葉だった。

少し風が強くて、彼女の黒髪がふわりと揺れる。


「え? ああ、橘さんのこと?図書委員で一緒だから、たまたま……」


「ふぅん……そうなんだ。」


結月は柔らかく笑った。

だけど、その笑顔の奥にある“無音の怒り”のようなものに、蓮ははっとした。


その日の放課後。

いつものように校門の前で待っていた結月が、少しだけ語尾を甘くして言った。


「今日は、ちょっと寄り道してもいい?」


行き先は、昔よく遊んだ公園だった。

今では誰も来ないような、少し寂れた広場。


ブランコの前で立ち止まり、結月はポケットから一冊のノートを取り出す。


「これね、レンくんと離れてたあいだ、ずっと書いてたの。」


──それは、昨日見たあのノートと同じものだった。


ページをめくると、幼い字から始まり、年を追うごとに整っていく文字。

誕生日や、初めてもらったお菓子、笑った日、泣いた日。

まるで、蓮の記憶をすべて記録したかのような中身だった。

「……これ、全部、僕のこと?」

「うん。忘れたくなかったから。」


その夜。蓮のスマホに、知らない番号からのメッセージが届いた。

“彼女と距離を置いた方がいい。

あなたの身に危険が迫ってる。

――橘美咲より”

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