第2話「放課後、秘密のノート」

「じゃあ、今日はこのへんで解散!」


放課後のチャイムが鳴り終わると、クラスメイトたちはそれぞれのグループで笑いながら帰っていく。


蓮は教室の隅でカバンをまとめながら、静かに立ち上がった。

そのとき──


「レンくん、今日一緒に帰ろ?」


また、あの声がした。

振り返ると、やはりそこには朝比奈結月。いつの間にか背後にいて、にこりと笑っている。


「……ああ、いいよ。」


断る理由もなかった。まだ再会したばかりで、よく話せていないことも多いし──

そう思って隣に並ぶと、彼女は嬉しそうに微笑んで、ほんの少しだけ腕が触れた。


「レンくん、覚えてる? 昔さ、よく帰り道で寄り道してたでしょ?」


「うん。駄菓子屋とか、空き地とか…」


「ふふ、そうそう。あのころのレンくん、すっごく可愛かったんだから。」


軽やかに笑う結月。その笑顔に、またほんの少し胸がざわついた。


「…あのとき、なんで引っ越したんだ?」


蓮は自然にそう聞いていた。結月は少しだけ目を伏せる。


「……ごめんね。急にだったから。ちゃんと伝えられなかった。」


「いや、もういいよ。会えたし。」


「うん。もう離れないから、大丈夫だよ。」


蓮が返事をする前に、結月はそう言っていた。

まるで、それが最初から決まっていたような口調で。


その夜。蓮は、ふと気になって中学時代のアルバムを開いてみた。

だが、そこに結月の姿は一枚もなかった。写真にも、名簿にも。


──まさか、違う学校だった?


何かが引っかかる。だけど、理由はわからない。


その翌日。

放課後にふとトイレに行こうとして、誰もいないはずの図書室の奥で、彼はひとつのノートを見つける。


中には、きれいな文字でこう書かれていた。


4月6日 レンくんと再会。嬉しかった。

4月7日 クラスで隣の席になった。運命だと思う。

4月8日 誰にも渡さない。誰にも見せない。

※計画の再調整必要:レンくんがまだ私を完全に見ていない。

ノートの表紙には、薄く「Y」と書かれていた。

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