君だけの檻

さこたっしゅ

第1話 「再会、そして目覚め」

4月。高校2年生の春。


朝の光がやわらかく差し込む教室で、加賀谷蓮(かがや れん)は窓際の席に座っていた。

ぼんやりと桜の花びらを眺めながら、教科書も開かず、ただその静けさに身を委ねている。


「レンくん、ひさしぶり。」


その声に、胸の奥が少しざわついた。

蓮が顔を上げると、そこには一人の少女が立っていた。

小柄で、黒髪のロングヘア。微笑みはまるで春の陽だまりのように優しい。


「…あ、結月(ゆづき)…?」


「うんっ。お隣に引っ越してきたよ。また、前みたいに一緒に登校できるね。」


彼女の名前は朝比奈結月(あさひな ゆづき)。

幼い頃、蓮の隣に住んでいて、よく一緒に遊んでいた幼馴染。

中学のときに急に引っ越して、それからはずっと音信不通だったはずなのに。


「あのとき、ちゃんとお別れできなかったから……ずっと、謝りたかったの。」


そう言って笑う結月の瞳は、どこか寂しさを湛えていた。けれど、再会の嬉しさを隠せない様子で、何度も蓮の顔を見つめてくる。


「でも、また会えたから。これでいいよね?」


その笑顔が、ほんの少しだけ、胸を締めつけた。

懐かしさと同時に、言葉にできない違和感が胸の奥をよぎる。


「…うん。会えてよかったよ、結月。」


そう答えたとき、彼女の目の奥で、何かが静かに灯ったような気がした。


それは、炎かもしれない。

それとも、檻の鍵かもしれない。

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