第4話 夜の闇

隠れ家の中は冷え切っていた。火鉢の火も消えかけ、空気はひんやりと肌を刺す。

太陽は小さくため息をつき、布団を手に取る。だが、そこに立つ蒼真が、無言で太陽をじっと見つめていた。


蒼真はぽつりと言った。

「お前、布団で寝ろ。」


太陽は驚いた。

「俺は別に……お前が布団で寝たらいいだろ?」


だが、蒼真は顔をしかめ、鋭い目で見返す。

「俺は右腕がない。寝づらい。動きづらい。布団はお前が使え。」


「そんな……俺が遠慮するよ」


「遠慮とか関係ない。寝ろ。」


言葉は冷たく、無愛想だったが、そこには譲らない強さがあった。

太陽はしばらく迷い、やがて小さく頷く。


「わかった……ありがとう、蒼真」


蒼真は目を伏せ、少しだけ顔の筋肉をゆるめたように見えた。

「……ちゃんと寝ろよ」


太陽は布団にくるまりながら、その無骨な優しさに心を温められていた。

隅の蒼真は火鉢の近くで蹲り、じっと夜の闇に溶け込んでいった。



薄暗い部屋で、太陽は突然目を覚ました。

火鉢の炎はもう消えかかり、部屋は冷えきっている。


ふと隅を見ると、蒼真が火鉢の近くで小さく丸まっていた。

右目を包帯で覆い、片腕を失った彼の姿は、まるで孤独そのものだった。


太陽は静かに布団の中で息を整えながら、蒼真が言った言葉を思い返していた。


「今は……1945年の春だ」


その言葉の意味が胸に重くのしかかる。


(1945年の春……?)


自分がいた世界からずっと昔の時代。戦争の最中の日本。


(こんな時代に、俺は迷い込んでしまったのか……)


(しかも、ここは俺の知っている日本じゃない。全然違う世界なんだ)


太陽は目を閉じ、暗闇の中で考えを巡らせる。


(どうすれば元の世界に帰れるんだろう)


(蒼真は何も知らないし、ただ俺のために助けてくれてる)


(でも、このままここにいても危険ばかり……)


遠い未来を思いながら、太陽の胸は不安と戸惑いでいっぱいだった。


そして、蒼真の背中の孤独を改めて感じ、心の奥で何かが締めつけられるのを覚えた。


静かな夜の闇に、二人の未来がまだ見えないまま、冷たい空気が流れていた。

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