4節.麒麟児(チート)
雪解けまであと1カ月とのことだったので、俺は暇な時間を全て魔力という存在に関しての調査に充てていた。
家は2階建てで、バルコニー、書斎、寝室がある。
ダナ家は代々徴税を任されていた騎士の家ということで、書斎には税に関する本がたくさん置いてあった。
難しい単語が多くて完全に理解するのは難しい。
子供はすぐ眠くなるというが本当だった。
中々読解が追いつかないが、転生後の世界を知りたい欲求が強く、読みふけった。
ここはパシフィッカ王国のレイズブルク領。
人口約40万人、暦は生前と同じで、1月から12月まで。
レイズブルク領は豊かな穀倉地帯で、魔力を多く含む黒土が広がっている。領民の多くは小麦大麦やトウモロコシを栽培しているそうだ。
ルゲーナに聞いたら、今は教歴で1,610年だそうだ。
なんでもカリウスト教が始まってからの暦らしいが、難しいことはよくわからなかった。
現在既に領主の荘園制は崩壊し、農奴はいなくなり、農民が自由に都市に農作物を売買する貨幣制度が完成していた。
『国税徴収総論』
『地方領税概論』
『国民皆魔力徴税義務法について』
これらの本で記載されているのは、教会は領民から所得の1割を、領主は領民から所得の3~4割を税として徴収することが出来るとあった。領主は同時に領民の魔力を徴収しなければならないとも書かれていた。領主は集めた貨幣と魔力の半分を国に納める義務があるらしい。
他にも結婚税や死亡税、兵役といったものも合わせると、頭がこんがらがってきそうだった。
にしても、民衆は所得から5割も税で持っていかれるのか。
しかも、これに加えて、領主は魔物や他国からの侵略に対する備えとして、幾分か多めに課税することを許されている。
酷い領主が就いたらとんでもないことになるぞ。
父アンカラは領主からダナの丘周辺の半径23kmの土地、合わせて農村3つの管理を任されている。アンカラは領民から徴税したもののうち、年間3,500テーリンを報酬として受け取ることとなっている。
ちなみに貴族に納税の義務はない。
かわりに有事には溜めた魔力や金を使って戦を行わねばならないとされている。
道路整備や上下水道の点検修繕、戸籍や住所の異動の管理も貴族の仕事である。
アンカラの仕事は徴税が主のようだが、年間報酬の中からかなりの金が経費として必要となるようだった。
うーん、テーリンとか貨幣の単位については、まだ意味不明なので、そのうち親に尋ねよう。
「おーい! 本ばっか読んでないで、素振りを始めるぞ!」
「はーい!」
おっと、もう日が沈んでいる。
朝夕のアンカラとの剣の稽古の時間だった。
といっても、まだ素振りしかさせてもらっていないがな。
¥¥¥
雪が大分解けてきた。
庭に積もっていたものが水へと変わり、ブーツにピチャピチャとした感触が心地良かった。
俺は父アンカラと並んで木剣を振っていた。
ルゲーナが二階から洗濯物を干しながら、俺達の様子を見守っている。
アンカラが振った木刀は、その風圧だけで舞い散る粉雪を吹き飛ばし、雪解け水に濡れる木々を切り裂いていった。
振り下ろされる剣は目に追えず、ブンという音が遅れて聞こえてくるほどだった。
いや、普通にありえない威力だろう。
俺のなんて、ヘロヘローンって音が付きそうなくらいに遅いのに。
「父上、何か魔法とか使ってます?」
「ん? わかるのかい? 父さんは今魔力で筋力を倍加させているからね。それに剣にも魔力を込めて威力を上昇させているんだ」
「それ僕にも出来ますか?」
「うーん、筋力強化と武具強化の魔法は低位で1つ200テーリン、今僕が使っているのは中位のものだから400テーリンくらいかな。よし、いいだろう。少しくらいなら貯蓄もあるし、確定申告の時にニールに魔法を一つプレゼントしてあげよう」
「うわー! 父上、ありがとうございます!」
本を読んでいるうちに段々わかってきた。
この世の中、要は金のある奴が勝者なのではなかろうか。
魔法を覚えるのに、修練は一切必要ない。
領庁でお役人様に登録手数料を払って魔法習得許可をもらい、魔道具店から魔法のスクロールを買い、ぼーっと眺めるだけで魔法ゲットだ。
ちなみに魔法の登録は事後でもOKで、習得後1カ月以内に料金を払えばいい。
「父上、テーリンってなんですか?」
お金の単位ということは分かるが、果たしてどこまでの価値があるのか。
「3歳なのに、お金に興味があるのか。凄いね、君は。ルゲーナに似たのかな? まぁいいか。貨幣にはヘグリ、ナラ、テーリンという3つの種類があるんだ。まだ算数も教えてないから理解できないだろうけど、100ヘグリで1ナラ、100ナラで1テーリンの価値がある。100ヘグリで大体小さなパン一個分くらいの価値かな」
「あら、あなた。昨年は少し不作だったじゃない。今はパン1個120ヘグリはするわよ。お野菜や卵だって段々と高くなっちゃって。また節約しないとじゃない」
家の二階からルゲーナの少し怒った声が聞こえてきた。
転生後も物価上昇の話題が尽きない。嫌になってくるな。
でも、貨幣の価値は理解できた。
「つまり今、家族3人分。パン3個買おうと思ったら、3ナラと60ヘグリが必要になるってことですね」
その俺の確認の声に、両親はそろって茫然とした。
俺の顔をマジマジと見つめて。
『うちの子は麒麟児だー!』
二人そろって歓声をあげた。
「あなた、この子の将来は騎士もいいけど、試験を受けさせてみたら国士や哲人なんて道もあるかも! 難しい法律の本もよく読んでいるし!」
「落ち着いて、ルゲーナ! まだ分からないけど、剣筋も悪くないし、魔力量も歳の割には多い方だ。将来は将軍なんてこともあるかも!」
息子ほったらかしではしゃぐ両親。
おっと、まだ習ってない掛け算をしてしまった。
自重しないと……。
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