第三話 本牧埠頭

初蔵と蓮治は赤い靴を後にすると、路地裏に止めてあるシボレーに乗り込んだ。


帰りは初蔵が運転する事にした。


横浜へ向かうときに運転をし疲れているだろうと、蓮治に気を使っての事だ。


初蔵にはこういうやさしい一面がある。普段あまり笑わないニヒルな表情からは想像できない。


そしてエンジンキーを廻した。


シボレーの6気筒エンジンが唸りを上げ、車体がブルブルと、まるでライオンが眠りから覚め、体を震わせているようだ。


半年ぶりの運転だ。初蔵は緊張気味にシボレーを発進させた。

横浜から東京までは、本牧埠頭を走らせ浜崎橋を抜け横羽線から首都高速に入り、さらに二十分ほど走ると初蔵らのいる新宿に辿り着く。

優に1時間40分は掛かる。


初蔵は浜崎橋に差し掛かったところで、何気にバックミラーを見た。

すると、先程から同じヘッドライトが後方にいることに気が付いた。


「蓮治! 後ろの車に気をつけろ。付けられているかもしれん」


「 !」


「いいか蓮治、後ろは振り向くんじゃねぞ! サイドミラーで様子を窺え!」


蓮治の背中に、一気に緊張感が走る。


—————————*


「ナニッ、安齋ニニタオトコガ赤靴ここニアラワレタト・・・」


 その頃、安齋俊の命を狙おうとしている男の耳に、安齋俊らしい男が現れたと情報がもたらされた。


「初めサングラスを掛けていたので、判らなかったのですが、あれは安齋に間違いないと・・・」


 手下の張岩は口篭るように言うと、


「オマエタチ、ナゼスグニ、コロサナカッタ !」


 安齋の命を狙う男は、立ち上がり、手下の肩に、手にした杖を強く押し当て、安齋を殺せと、手下の張岩に向かって怒鳴った。


「いや、先生も来てましたから、あの場では・・・でも大丈夫ですに後を付けさせましたから、それにパーメラに叉来ると約束してましたから、赤靴ここには叉必ず来るはずです」


「ヨカロウ、コンド、アンザイガ、アラワレタトキニハ、ワタシニスグニシラセナサイ」


 そう手下に命令すると、男は、蓄えた顎鬚を撫でながらゆっくり肘掛の椅子に腰をおろした。


—————————❄︎


「蓮治! シートの下に拳銃がある。何か仕掛けてきたら、そいつで応戦しろ」


初蔵はスピードを上げ様子を見ながら走らせ、都心に入った。

車はまだ後方にいる。

初蔵は、乗っている人物を確認しようとしたがヘッドライトの光で確認できない。


初蔵も、まだ見ぬ敵に驚嘆の思いがぎった。

シボレーは麹町の信号で止まり右折させると、つけてきたと見られる車のヘッドライトは直進して走り去っていった。


新橋の福寿荘に着くと、蓮治は一目散に水道の水で顔を洗い、手で水をすくってかぶりつくように飲んだ。


水を飲み、少し落ち着きを取り戻した蓮治が、緊張で眼を吊り上げたまま、初蔵に拳銃が欲しいと嘆願した。


初蔵は、窓から外の様子を窺いながら、胸のポケットからコルト35を取り出し無言で蓮治の足元へ投げつけた。


「あッ、 兄貴いいんですか・・・」


「奴等も拳銃を持っているだろう、万が一の為だ、丸腰では自分の身を守る事もできねえだろうよ、持っときな。 ただし、やたらに撃つんじゃねえぞ」


 しばらくして木嶋と國光が戻って来た。初蔵は帰りの車のことを話して聞かせると、木嶋は、近くに怪しい車が居たと話した。


「なんやて、・・・ほな儂ら帰って来よったときに走り去ったあの車か? 國光、まだおるかもしれんから様子見てこいや」


「ほいな!」

 

國光は木刀を掴むと背中に忍ばせ、アパートの階段を下りていった。

 少しすると國光が戻って来て、誰も不信な者がいないことを告げた。

「初っちゃんも、少し神経質になっとるのかもしれんなぁ、まあ、用心に越した事はないやろがな・・・」


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