第9話 英雄の帰還
駐屯地に着いたステラはすぐに手配されていた汽車に乗り込み、王都まで戻った。
五日間の長旅であったが、高級士官用の一等客車のお陰で疲れ知らずであった。
王都に到着すると、多くの国民が歓迎の為に中央駅に集まっていた。
ステラを王宮まで連れてゆく為に近衛師団から1個騎兵中隊が派遣され、王侯用の豪奢な白い馬車が用意されていた。
ステラは国民に手を振りながら、馬車へと乗り込む。
「姫様、とても心配していたのですよ」
乗り込んだ早々、最も親しい侍女のメイが涙目でステラに言う。
「悪かったわ。だけど、あんな光景を見て、黙っていられないじゃない」
ステラは悪びれずに答える。
「だけど、無謀過ぎます。真夜中に飛行するなんて、自殺行為だと聞きました」
「そうだけど・・・一部の冒険家とかやってるわ」
「それは冒険家です。あなたは一国の姫様なんですよ」
「わかったわよ。とりあえず、王に会わないとね」
「国王様も王妃様も大変心配しています」
「そう・・・」
何となく、怒られるんだろうとステラは思い、嘆息した。
ステラ一行はまるで祭りのように騒ぐ民衆の間を通り抜け、王宮へと入った。
馬車から降りたステラは真っすぐに謁見の間へと通される。
玉座には父である国王、その隣には母の王妃が座っている。
その前にステラは歩み寄り、儀礼に従い、傅こうとすると国王と王妃はステラに涙を流しながら駆け寄り、抱きしめた。
「本当に心配したんだぞ。この馬鹿娘がぁぁああああ」
「そうよ。なんて無茶な事をするのよ。あんたって子は」
王としてのメンツも何も無く、ただの親子として、抱き合う姿は家臣たちを微笑ましく見ていた。
それらはその場に居た新聞社のカメラに収められ、翌朝には新聞に大々的に載せられた。それは内務省広報部の戦略でもあった。
広報部は首都爆撃のイメージを逆手に取るつもりだった。その為に撃墜された飛行船の残骸もいち早く回収、王都へと運び、一般公開をした。
翌朝の記事にはステラの無事帰還だけでなく、飛行船撃墜の戦果など、詳細に、または誇大に書かれていた。
残骸から帝国が誇っていた最大級の飛行船であった事が解ると広報部は更にステラの功績を高めて喧伝し、いよいよ、英雄として祭り上げるに至った。
ステラは僅か1か月で英雄となったのである。
その為、彼女は国内各地や前線へと足を運び、国民や兵を労うといった公務を課せられる事になってしまう。
さすがのステラも毎日、公務で列車や車、馬車を乗り継ぎ、街や前線へ出向くのは疲労で倒れそうになった。
「もう、3か月も飛んでいないわね」
ホテルのベッドで寝転びながら、ステラは空を思う。
失った機体はすでに新しい機体が用意されたと聞いている。だが、空を飛んでいる暇が無い程に公務に忙しい。次に王都に戻れるのは1週間後。それも公務でやはり飛行機には乗れないだろう。
「英雄なんて言われるけど・・・正直、どうでも良いわ」
ステラからすれば、当然の事をやっただけで、英雄になりたかったわけじゃない。
そして、戦争は続いている。
英雄の登場で、劣勢だった前線は盛り返し、再び、拮抗した状態となった。
帝国側は前線を押し返され、獲得したはずだった支配地域の殆どを失った。
無論、元々、補給が途絶えかけていたのだから、こうなる事は必然だったと言えよう。その結果、戦争が長引く事になる。
ステラには何となく解っていた。多くの損害を出して、始めた戦争でまったく戦果を挙げれずには帝国は戦争を終わらせられないと。
もし、今の段階で停戦すれば、現帝王は下手をすれば、失脚する可能性もある。
それほどにこの戦争は帝国にとって、大きな意味があった。
だが、王国もこれ以上、戦争を継続する力は無かった。
全ての国民は疲弊している。国力からして、無理のある戦争なのだ。
これほど、長きに渡っての戦争など、過去にも例が無かった。
早く終わらせないといけない。
誰もがそう思っていた。領土の殆どを回復した現状は最良とも思えるのだ。
父や兄達はそう願いながら、毎日、戦っているのだろう。
ステラはそう願いながら、眠りに就いた。
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