第7話 敗者の帰還
味方に拾われたドット大佐達はそのまま、帝国軍の陣地へと運ばれた。
王都爆撃の成功は帝国軍の中で大きく扱われていた。
ただし、飛行船が撃墜された事は知れ渡っていない。
ドット大佐は陣地の指揮所へと呼ばれた。
そこには部隊の最高指揮官であるシュナイダー大佐が居た。
彼はトッド大佐を見ると、厄介そうな顔をした。
「ドット大佐。飛行船は撃墜されたようだ」
シュナイダー大佐に言われて、ドットは残念そうな表情をする。
「そこで・・・この件は極秘扱いになっている。濫りに口外しないで欲しい。君たちの任務についてもだ」
「極秘扱いですか・・・」
ドットは不満な顔をする。
「あと、司令本部から出頭命令が来ている。すぐに本国に戻り、出頭せよ」
嫌な物言いだとトッドは思った。
ドットはすぐに用意された荷馬車に乗り込み、国境を越え、鉄道の最終停留所に向かった。
そこからは鉄道の貨車に他の帰還兵と混じって、雑魚寝をしながら、1週間を掛けて、帝都バラウンジ市へと到着した。
まともに風呂にも入れない状況で到着した彼は家族に会う事も許されず、陸軍司令本部へと連行された。
作戦で帰って来たのは僅か二人。
ドットは陸軍の重鎮達の前に引き摺り出された。
「ドット大佐。任務ご苦労」
ドット大佐の正面には陸軍の最高責任者であるグランド大将。
「はい。飛行船に関しては残念でありますが、私と部下は最大限、迎撃に上がって来た敵と戦いました」
トッドはそう口にした。
「敵機は落としたのかね?」
幕僚がそう尋ねる。ドットは渋い顔をした。
「いえ・・・確認はしておりません。何発か、命中はさせたと思いますが」
「だろうな。これを読んでみろ」
幕僚から渡された新聞は王国内で配布された物だった。
そこには帝国の飛行船を撃墜した旨の記事が大きく載っている。
「我々は記事を読んだ時、何の冗談かと思ったよ」
幕僚の言葉を聞きながら、記事を読むと、飛行船を撃墜する為に夜間にも関わらず、飛行機で飛び立ったのは王国の姫だと言う。
「あの赤い飛行機・・・王族の証か」
ドットは何故、飛行機が赤く塗れていたのかに気付いた。
「赤い飛行機・・・君らは敵の姫様を堕とし損ねたわけだ」
「なるほど・・・彼女も生きていたわけですね。それは英雄扱いだ」
「帝国内では極秘事項だが、こんだけ王国内で騒いでいれば、いずれ伝わる」
幕僚達はため息をついた。
王都爆撃は軍や国内の気運を高めるため。だが、それを王国の姫様が撃墜して、英雄となっているとなれば、逆風になるかもしれないのだ。
「本来なら、飛行船も戻り、英雄として、印象付けるはずだったのに・・・」
グランド大将もとても悔しそうな表情であった。
「そこで君と部下の処分だが」
「処分?」
ドットは忌々しそうに幕僚を見た。
「飛行教育隊で教官をして貰う」
「飛行教育隊?私に後方で悶々としていろと?」
「しばらく、人目に付くな。じっと黙っていろ」
グランド大将はただ、そう言い放った。
それでドットは室外へと連れ出された。
ドットは左遷されたと感じた。
かつての撃墜王の名はすでに帝国には無い。
長らく続く激戦で多くの撃墜王が生まれている。
少し、前線に出ていないだけで、彼の撃墜数はすでに何人にも抜かれていた。
それでも自分は幾つもの紛争で飛び、多くの精鋭とやり合った。
王国のヒヨコ相手に撃墜数を稼いでいる連中とは違う。
だが、それ以上に自分は軍内部から疎まれているとも思った。
強い正義感が悪いのか。勢力争いに無頓着なのがいけないのか。
不幸中の幸いは左遷されたが、飛行船撃墜の責任を負わされて、軍事法廷に引っ張り出され、ある事無い事を並べられ、罪人されなかった事ぐらいか。
ドットは諦めたように用意された車に乗り込む。
若い兵士はドットを尊敬の念を込めて、挨拶してくれた。
「青き撃墜王と言えば、誰でも知ってますよ」
彼が言うようにドットは自らの飛行機には青色を塗っていた。
パーソナルカラーが選べるわけでは無い。軍紀に反して、勝手に塗っていただけだ。
青は貴族である彼の家を代表とする色でもあった。
彼は代々、騎士の家系に生まれた。
男爵の爵位を持ち、辺境とは言え、領地もある。
武勲を挙げ続ける家柄らしく、彼も軍人となった。
最初は騎士らしく、騎兵であったが、飛行機と出会い、その可能性に惹かれた。
帝国は飛行機導入が遅れた国ではあったが、ドットの活躍もあり、すぐに強国へとのし上がった。
ドットは帝国における飛行機の祖のような存在であり、多くの経験を積んだベテランだった。
ドットの屋敷に到着する。
家では妻と5歳になる息子、3歳の娘が待っていた。
「おかえりなさい」
久しぶりに会う妻。そして、もう会えないかと思っていた家族。
ドットは妻と子ども達をしっかりと抱きしめた。
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