第6話 英雄
ステラを乗せた荷馬車は村役場へと到着した。
人口100人弱の村役場はとても小さい建物だった。
「小さいですが、村で電話があるのはここだけですから」
電話は近年、開発された技術だ。電線を伸ばす必要があるため、王国では行政施設、軍施設などを中心に普及している。
ステラが役場の扉を開くと3人の役人が居た。
「何か用ですか?」
彼等も姫の顔を知る事は無かった。だが、軍の飛行服を着ている事から彼等はステラが軍人だと察する。
「王城に連絡を取りたいから電話機を借りるわ」
ステラがそう言うと、役人は電話機へと案内する。
電話機は壁に掛けられており、受話器を取り、ハンドルを回す。
交換手と通じた。
「どちらにお繋ぎしますか?」
女性交換手の声を聴いたステラは王城と伝える。
「王城ですか・・・電話口の方はどちら様でしょうか?」
「ステラ・・・とだけ伝えれば、伝わります」
暫くすると、電話が繋がった。
「姫様ですかっ?本当に姫様ですか?」
驚いた様子の声が受話器に響き渡る。
「その声はロイドね。そうよ。飛行機は失くしたけど、無事よ」
「今、軍と警察を挙げて、捜索をしている最中ですぞ」
「でしょうね。申し訳ないわ。すぐに車を用意して貰える?」
「軍に指示を出します。お待ちください」
「ありがとう」
ステラが受話器を置くと、話を聞いていた役人達が大慌てで、ステラの前に跪く。
「姫様とは存じ上げず、申し訳ない対応でした」
彼らは深々と頭を下げ、そう告げた。
「気にしないで頂戴。突然、訪れたのは私の方なのだから。迎えが来るまで、ここで待たせて貰うけど、構わないかしら?」
「無論であります。すぐに準備を致します」
役人達は大慌てで、ステラが休憩が出来る準備を始めるが、それを聞いた農夫も大慌てで、村長の家へと向かった。
僅か30分も立たずに村長がやって来て、自分の家で寛ぐようにステラに提案をするので、手狭な役場より、その方が良いと思ったステラは彼らに案内されて、村長の家に向かう。
村長の家は確かに村役場より大きいが、所詮は農家。ステラが通されたのもちょっとした居間と言った感じの客間だった。
出されたお茶も田舎でよく飲まれる麦から作ったお茶。
突然の王族の来訪に何とか対応しようとしたのだろう。色々とお菓子などが並べられた。ステラは少し、申し訳ない感じになる。
「王都が爆撃を受けたのですか?」
村長はステラの話を聞いて、驚く。
王都空爆の知らせなど、こんな田舎に届くには数日は掛かる。
「それで、姫様が飛行機に乗られて、飛行船を堕としたのですか・・・」
信じられないという顔を村長はしていた。
当然と言えば当然の反応だろうと思う。
16歳の少女が飛行機に乗るのでさえ、田舎の人からすれば、信じられないし、ましてや飛行船を撃墜なんて、夢物語のようだろう。
そんな会話をしている内に家の前にバタバタと言うエンジン音が聞こえた。
「姫様、軍から迎えの者が参りました」
村長の家族が教えてくれたので、ステラは村長にお礼を言って、席を立つ。
玄関に向かうと、そこには側車付自動二輪車があり、傍に若い少年兵が立っていた。
「ビビオ二等兵であります」
彼はステラに向かって敬礼をする。ステラは応えるように敬礼をした。
「ご苦労様です。その側車に乗れば良いのですか?」
「はい。すぐに用意が出来る車両がこれしかありませんで」
ビビオは申し訳無さそうに応える。
「構わないわ。ここは最前線に近い場所。殆どは前線に投じられているでしょうから・・・これだけ早く来てくれて助かったわ」
ステラはそう言うと、側車に乗り込む。置かれていた鉄兜を被った。
側車には7ミリ機関銃が装着されている。
「偵察部隊の仕様ね」
ステラがそう言うと、自動二輪車に跨ったビビオが驚いたように答える。
「お詳しいですね。自分は第32偵察中隊の一員です」
「そう。かなり痛んでいるわね」
「最前線を3か月程、走り回っております。何度か被弾して、修理が終わってない箇所もあります」
「物資不足ですか?」
「はい。交換部品が滞ってます。応急処置で胡麻化したり、共食い整備で何とか維持している有様です」
「なるほど。苦労を掛けているわね」
「仕方がありません。王国の工業力は諸国よりも大きいとは言え、限度がありますから。それに補給路の確保も難しく、鉄道も敵の空爆で前線近くの補給処まで来れないのです。馬車やトラックに積み替えて、20キロ以上は運んでいる有様ですから」
ビビオはクラッチを握り、燃料タンク横の変速レバーを動かした。
アクセルを回し、自動二輪車はバタバタと音をさせながら、走り出す。
村人達がステラ達を歓喜を挙げて、見送る。
「なんだか、大袈裟な見送りね」
ステラはその様子を見て、微かに笑う。
「いえいえ、大袈裟じゃありませんよ。飛行船撃墜は大戦果であり、姫様は立派な英雄ですよ」
ビビオに言われて、ステラは何となく自分を誇らしく思った。
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