幼馴染みトリオ



 算数、国語、理科、社会。んで体育。

 授業はいつだって眠くなる。

 メインに置かれた選択授業の職業訓練。

 週に二回はサバイバル授業。契約共生者がいるならその特性を考慮した高等学習か基礎体力づくり。

 共生者がいないなら体力づくりに農業従事や家畜の世話。料理(生徒の昼食になる)や家具づくりの授業と教師によって配分される。適性と教師からの好悪だと思われる。

 おれは幼馴染みふたりとの三人組で料理のクラスだった。

 基本の食材に授業で育てた作物を足して料理はできていく。

「調理班に名乗り出なくてよかったの?」

「明日の仕込み班も大事だと思うし、人少ないから」

 玉ねぎの皮をむく作業とじゃがいもの泥を落とす作業はあまり人気はない。

「週末アンデッドバスターやってきたんだろ? 話聞きたくてさ」

 チラッとふたりを見れば『さぁ、包み隠さず吐け』という好奇心いっぱいの視線をむけられていた。

「そんなに興味あるのかよ」

「うん!」

「もちろん」

 勢いよくふたりとも食いついてくる。

 まぁ、正直言って悪い気はしないし。

「しょーがねぇなぁ」

「うん。なにがあったの?」

 素直ないい子モード全開のみっちゃん。(玉ねぎむきは止まっていない)

「言いたがらないから気になるんだよね」

 腹黒インテリメガネ(ファッション)のむっちゃん。(じゃがいも洗いの手が止まっている)

 んでおれトラブルメーカー扱いされ気味な(誤解)たまきの三人でよくつるんでる。

 三人とも共生契約はきめていて『調査員予定』なので選択授業は自由に受けることができる。

 授業料として一定の情報提供とできうる限りの自治体規律に遵守がある。

 共生契約者が自由に活動することで現地治安維持が不可になれば力で抑えるしかなくなるから見た目の『普通の生活』は変わるよ。とむっちゃんが許諾のサインを書きながら言っていた。

「あくまで、『善意』で『一定』のだからね」

 にっこり笑うむっちゃんには逆らい辛いものを感じるんだよな。

「行ったのは山あいにある町跡だったよ」

 じゃがいもの泥落としをしながらおれはゆっくり話しだす。


 町跡って言ったのはそこには町の痕跡はなかったし、住んでいるのは共生契約者の親子の二人だけだったから。

 国道と電車は通っていた形跡はあったけれど、整備されていないし落石や崩落で使えない陸の孤島になった場所だったよ。

 たぶん共生者が外部を分断したんだろうな。よくあるヤツ。

 管理しているおじさんはあんまり気にしていない風でさ、もとはホームセンターや工場が数軒があるベッドタウン寄りの町だったって教えてくれた。

 今ではちょっと広めの家庭菜園がある山あいの一軒家っていうていだったけど。

 生活範囲外の外周部分に夜な夜な死体が徘徊するらしいっていう状態は確認できたし、退治させて欲しいって頼んだワケ。やっぱ土地の主がいるんなら意図を持って放置してることもあるからさ。許可取らないとな。

 昼寝と食事と風呂を強要されて、親の了承とかなんか確認されて……混ざる前の常識だなって帰ってから親父に言われた。いいおじさんだったみたいだ。

 うるせぇって思ったけどさ。

 んで、夜の狩りになったワケだけどさ。

 まぁ、ゾンビわらわらでさー。

 もしかしたら町の住人のナレノハテだったのかもしれないけど、意志はなにも感じないタイプだった。

 低知能共生種が意味なく肉を動かしている感じで。

 まぁ、ロクサーヌなら一発なんだけどさ。

 んでひと眠りして朝飯もらってロクサーヌに連れて帰ってもらったってワケ。

 おかげでここからの地理関係データも取れないままなんだよな。ロクサーヌのぶっ飛び移動だからさ。



「三人組〜、下準備どこまでできたー? おしゃべりばっかじゃだめよー」

「ノルマ分は終わりましたよ。じゃがいもの泥落としと玉ねぎの皮むき」

 むっちゃんが泥落とししたじゃがいもの入ったバケツをかかげて先輩に返事している。

 むっちゃん、ろくに作業してない。

「玉ねぎもこちらに準備万端」

 だから、それをしてたのはみっちゃんでむっちゃんじゃない。みっちゃんは笑ってていいのか?

「あら、お利口ね! おしゃべりもほどほどにね!」

 先輩、サボり気味だったのはソイツです!

 下処理を終えた明日の素材は先輩達によって運ばれていった。

「あとでむっちゃんにはオヤツ作ってもらうんだからいいんだよー。たまちゃんもなんか大変だったみたいだし。流れはわかったけど細かいエピソードも聞きたいよね」

 のほほんとほざくみっちゃんは意外と抜け目ない。

「アンデッドバスターの装束は間違いなく不審者だしね」

 むっちゃんがファッションメガネを煌めかせながらニヤリと笑う。むっちゃん、感じ悪いからな。

「アレルギーと感染対策なんだからしかたないだろ」

 おれは動物の毛にアレルギーがあるらしく、くしゃみ鼻水目の痒みが引き起こされ、猫をさっきまで抱いていた姪っ子に抱きつかれて強発作を起こしてヤバいことになりかけたこともある程度に。

 猫は猫でも共生体な猫なら大丈夫なんだよなぁ。アレ不思議。ただし、対話可能な知能持ち共生種に限るっぽいという事実をむっちゃんに話したら「それ、存在隠蔽工作じゃないの? アレルギー持ちがアレルギーを起こさない事実で存在バレててウケるね」といろいろひどいこと言ってた。

 まぁ、おれとしては敵意がなくて撫でさせてくれるなら、うん。許容範囲。

「それに、おれを心配した父さんが手配してくれたんだからいーんだよ」

 不審者スーツであろうが、個人情報遮断、アレルゲン侵入遮断を優先し、転がった時に打撲の衝撃を緩和するプロテクター。全部父さんからの心配と愛。

 料理クラスで作った昼食を食べた後は適当な班分けで学舎清掃をして下校である。

 下校後はだいたいみっちゃんの家でおやつしたり遊んだりしている。

 細かい会話もそこでしている感じである。

 みっちゃん家は電車とバスを乗り継いで、ついでに小船に乗っていく。この小船の船長さんが帰りも送ってくれる。

 学校までは片道一時間ってところである。(小船時間は短い)

「女の子におとしもの迷子扱いされたの? たまちゃん面白すぎ! アンデッドバスターの不審者ルックを拾う女の子強いね! で、そのお父さんにダサいって言われたっておーもーしーろー」

「おもしろくねぇよ! それにダサいとは明言されてねーよ! むっちゃん、笑いすぎだろ!」

 ソファーに転がって笑い転げるファッションメガネやろーを怒鳴りつけながら、チラッとみっちゃんを見れば幼児な弟ふたりに「おもしろいねー。仲良しさんだよねー」とおれらを見世物にしてやがった。

 幼児たちも「あい」じゃねぇよ。くっそかわいいな。



 古い地図やみっちゃんチの誰かが集めた情報をまとめたデータベースに今回おれが集めた情報を追加していく。

 おれがロクサーヌでアンデッドバスターをはじめてからこのデータベースを使わせてもらっている。

 複数の共生種がそれぞれの情報を共有するために理解度のチャンネルを合わせた出力装置らしい。入力はそれぞれの理解収集法で問題はないらしい。

 聞くところによれば呼応している言語、行為が理解外の場合怪文書が出力されるのでなんかわからない内容が存在するという気づきにはなるそうだ。

 わかんねぇもんはわかんなくないか?


「いわゆる、『山姥の領域』だったようですね。一定区画を定弱共生体の群に徘徊させ、周囲の森に罠を敷く森の魔女と呼ばれている共生種でいろんな土地ですでに記録があるようです。ちなみに七割人喰い種です」

「あのおじさんが山姥!?」

 ばばぁじゃなかったぞ!?

 ごついおっさん!

 二十七インチ自転車が小さく感じる系の!

「まぁ、山姥は人に敵意を持った個体の呼び名っぽいですね。森とか山でしたらエルフとかゴブリン、ボガート、木霊、ドライアドなんかも候補にあがりますね」

 むっちゃん、物知りぃ。

 ファッションメガネは伊達じゃないんだなぁ。

「ファンタジーっぽいね」

「共生種との言語理解がイマイチなので全ておいて仮称。仮の名称なのでわかりやすい親和性のある名称になっているんですよ。共生種ではない混ざった先で生きていた種も流れてきていない訳ではないらしいですしね。ただ、共生種ほどの強者感はないので優位性を保ちたい種族はリーダークラスが共生種になっていくそうです。その時にもとの人の人格を認めないので共生種というよりは寄生種と呼ばれるようですね」

 うわぁ。新しい隣人こえぇ。

 そう、結局のところ世界は混ざってしまって分離は不可能。ともに同じ世界を生きる隣人となるのである。

 すぐ隣にいるけれど、それは敵か味方か理解できるか理解不能かもわからない存在。

 共生種と契約したおれらだって先々どうなるかわからないと大人たちが心配しているのを知っている。

 その『契約』が気がついたら成されていてそれがあたりまえの世代と混ざる前をちゃんと覚えている大人たちとの感覚は違う。

 学校の授業でも「親世代との分断を避けるために」と言って混ざる前の教育過程もちょっとは習う。

 前を知り、変わったことを理解するためだと言われている。

「共生による体力向上してるたまちゃんを確保できる怪力はその女の子が共生契約者だってことだね。食べられなくてよかったね」

 みっちゃんにこにこ怖いこと言うなよ。

 やっぱりみすずちゃんが共生種かぁ。

 おともだち認定だから喰われず……戦わずに済んだのか?

 みすずちゃんにはまた遊びにきてねって言われたんだよなぁ。おじさんも複雑そうな表情で「きてもいい」って言ってたし。狩るものはもうないはずなんだけどさ。

「どうしました。たまちゃん。地理データはないようですが?」

 むっちゃんが情報を確認しながら聞いてくる。

 まぁ、おれの目的のひとつに地図を広げるもあるのは事実だし。

「おじさんがさ、侵入者増は困るってさ。あと方向はわかるけど、正確な距離がデータに残ってない」

「ああ、山姥の領域効果ですか。とりあえず方向登録して開示拒否対話可のマーキングしときますね」


 端末を閉じたむっちゃんが奥に一度引っ込んで戻ってきた時にはみっちゃんの妹のつーちゃんを連れて焼き菓子の大皿を持っていた。


 おやつだ!

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