赤塚病院編 cha. 2
・潜性能力について知ったのは入部直後だった。潜性能力とは顕性遺伝子に隠れて通常は表に出ない能力の事。でも何らかの事情で発現する事があるようだ。発現した人を陽性、発現していないが潜性遺伝子を持つ人を保因者、潜性遺伝子を持っていない人を陰性と呼ぶ。教官はこれについて研究しているようだがまだそれが何なのかは分かっていないようだった。現段階では進化の一つの可能性が高いそうだ。
私に素質があるって言ったのは潜性遺伝子があるって意味だったのだろう。まだ発現していないから私は保因者なんだろうけど…
初めて潜性能力を見た時はそれはもう驚いた。
時雨が5秒も経たぬうちに教官と全く見分けのつかない姿に変化したのだ。それは人間ができるモノマネの域を明らかに超えていた。見分けがつかないというより、全く同じであると言い切れてしまう。それに声だって同じだった。
驚いている私の側で教官は保因者自体が本当に珍しい為、いずれ私も発現すると告げた。でも潜性能力は人それぞれだから時雨と同じ百面相の力ではないとも。
9月18日
今日は久しぶりの集会。私がメンバーに加入して半年が経とうとしている頃。夜の7時、私は集会場所まで歩いていた。だがそこに何度言っても聞かないバカが走っていた。今度は何を盗んだのだろうか。別にこいつ金に困っていないだろ。だが今回はいつもとは違った。
追手が速い…
時雨が変装した女の速さに警察が追いつきそうになっているのだ。いくら変装しているとはいえ捕まってしまえば元も子もない。大丈夫だろうかとは思いつつ特に足を止めなかったが、足を止めざるをえない状況になった。
グァッッッx
突如悲鳴が聞こえて来る。声の方向を見れば警察官が女(時雨)の両腕を掴み、押し倒していた。首元を掴まれ地面に体を押さえ付けられると時雨は変装を解いてしまった。だがそれで逃げられるような事もない。時雨は腕を背中で固定されていた。
「これまで何件も被害にあったが、ようやくこれでお終いだ。まさか女装した男だとはな。どうりで女を探しても見つからないわけだ。署で全部償ってもらうぜ。」
警察は勝ち誇った顔で時雨に勝利の言葉を浴びせる。だが勝利宣言には少し早かったようだ。
バァッtん
私は持っていたバックで警察官の頭をブン殴った。突然通行人の女に殴られて困惑してるような顔にもう一撃。応戦しようとした瞬間にもう一撃。こめかみにもう一撃。
時雨も起き上がり警察官を取り押さえる。幸いにもこの警察官は時雨より小さく二人で何とかできた。だが問題はこれをどうするかだ。
「ど、どうする?」
「と、とりあえず部屋に連れてこ。」
何とか二人で押さえ付けゼムを呼び集会の部屋に連れ込んだ。悪人じゃないから殺しもできないし、放っておく事もできない。とりあえず教官に何とかしてもらおう。
「離せ、ここにいる奴全員逮捕してやる。」
警察は取り押さえられながらもうるさく喚く。そんな彼を見て教官は面倒くさそうだった。
「まぁ、そんな事があったんですね。今日は大切な話があったけど…。いいえ、むしろ好都合か。ゼム、この男を動けないようにしながらこっちに持って来てくれる?」
ゼムは言われた通りに警察官を身動きが取れないようにしつつ、教官の前のソファに座らせた。それはまるで半年前の私のようだった。
だが教官は警察官をクラブに参加させるのではなく、言っていた大切な話を始めた。
「ゼムが組織から赤塚病院のある先生から薬の成分を送るように言われたらしいの。それが何の薬かは言われてない。でも良くない薬である事は間違いない。それに赤塚病院はこれまでに数々問題も起こして来てるから、何か組織と関わりがあってもおかしくない。特に赤塚病院の過去の事件は警察によって迷宮入りにされてる。組織が関わっているのを知ったなら臆病な警察はすぐ逃げ出すでしょうね。」
「警察は臆病じゃねぇ。この日本の正義だ。」
この警察官は自分の置かれている立場を分かっているのだろうか。教官はこんなうるさい奴にはいつも容赦ないが…。
「んーでも警察は裏組織を捕まえるどころか、逃げているようにしか思えないの。あの*赤塚病院の事件、解決が難しい訳じゃなかった。でも警察は深い調査もせず事件を迷宮入りにした。」
「そんなのたかが素人がよく言う。あれは解決が本当に不可能だったんだ。」
「素人とは失礼な。私達は悪を捕らえるスペシャリストですよ。」
「バカ言うな、そこの男は連続万引き犯だ。今すぐ罪を償わせなければならない。」
「正義感が強いんですね。」
「何だ急に」
「素敵だなと褒めたのですよ。あと私達にはそんな人が欲しいと丁度思っていたんですよ。貴方にも素質はありますし。」
「俺はこんな犯罪クラブには入らないぞ。」
教官は突然会話を止め、机の中にあった紙を取り出した。それを警察官に渡すと私が強制的に加入させられた時と同じ微笑みを浮かべて言った。
「じゃあ取引をしましょう。私達は裏の組織の情報を貴方に差し上げます。そのかわりこのバカ(時雨)は今回見逃してください。次やったらちゃんと署にぶち込みますんで。」
「そんな情報嘘かもしれないだろ。それに平の俺がそんな情報上に出したって門前払いされるだけだ。」
「この情報には正しい事も間違っている事もあると思いますが捕まえるのを手助けする鍵にはなる事を誓いましょう。正義はこの裏組織を捕まえる事にありますよ。」
警察官は時雨を捕らえると言う目的から裏組織というエサに釣られていった。警察官も悩んでいるようだったが正義という言葉を出されては動けなかった。
「取引を受けよう。情報を教えてくれ。」
「私達のクラブに入ってくれるって事ですね。」
「いや、裏組織を捕まえるまで協力するだけだ。参加はしない。」
「それは残念です。でも仲間にはなれましたね。お名前を伺っても?」
「前田史郎。今年警察官になった者だ。」
*赤塚病院事件
・病院の勤務医が感染症により5人連続で亡くなる。あまりにも不自然だった為警察が調査したが途中で捜査取り止めに。
百面相 @tutimoko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。百面相の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます