第4話 七人の予兆と新たな出会い

暦との出会いから数日後、悠斗は依然として自分の未来跳躍の力について模索していた。意図的に発動させることはまだできないが、疲労が溜まっている時や、強い集中状態に入った時に、不意に起こることが分かってきた。


暦とはその後も何度か連絡を取り合い、互いの体験について語り合った。彼女もまた、自分の能力の全容を把握しているわけではないようだったが、悠斗よりも先にこの力に目覚めていた分、いくらか経験があるようだった。


「悠斗くんの夢に出てくる少女は、もしかしたら未来の私かもしれません」


ある日、暦は電話でそう言った。「私も、過去に何度か、知らない誰かの夢を見たことがあるんです。それが、まだ見ぬ誰かの過去なのか、あるいは未来なのかは分かりませんけど」


彼女の言葉は、悠斗に新たな疑問を投げかけた。夢の中で見た暦は、本当に未来の彼女なのだろうか?もしそうなら、彼女が言った「苦しんでいる」未来とは、一体どんなものなのだろうか?


そんなことを考えながら、悠斗はいつものように大学の講義を受けていた。その日の科目は、社会心理学。教授が群集心理について熱く語っている最中、悠斗はまたしてもあの奇妙な感覚に襲われた。


今回は、いつもよりもほんの少し長く感じられた。周囲の音が消え、人々が静止する。その中で、悠斗はふと、前方の一人の女子学生に目が留まった。


彼女は、講義の内容とは全く関係のない絵を描いていた。可愛らしい動物のイラストだ。その表情はどこか寂しそうで、悠斗はなぜかその絵に強く惹かれた。


時間が戻り、世界が再び動き出した時、悠斗は無意識のうちに、その女子学生の姿を目で追っていた。彼女の名前は、確か……二階堂 楓。同じ経済学部の学生だが、これまでほとんど話したことはなかった。


その日の午後、悠斗が大学の図書館で課題に取り組んでいると、背後から優しい声が聞こえた。


「あの……雨宮くん?」


振り返ると、そこに立っていたのは二階堂 楓だった。彼女は少し恥ずかしそうに、手に持ったスケッチブックを差し出した。


「これ……さっきの講義で描いてたんですけど、よかったら見てください」


悠斗が受け取って中を見てみると、そこには先ほど見た動物のイラストの他に、様々な風景や人物のスケッチが描かれていた。どれも繊細で、温かいタッチだった。


「すごいね、二階堂さん。絵が上手なんだね」


悠斗が素直にそう言うと、楓は嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます。でも、こんなことばかりしてて、なかなか講義に集中できなくて……」


彼女の言葉に、悠斗は共感を覚えた。自分もまた、集中したいのに、別のことが頭から離れない日々を送っている。


その日の帰り道、悠斗はまた別の予兆を感じた。駅のホームで電車を待っている時、隣に立っていたショートカットの活発そうな女子学生が、ふと何かを探すような仕草をしたのだ。その瞬間、悠斗は一瞬だけ、彼女の未来を見たような気がした。


それは、彼女が何か大切なものを失くしてしまい、必死に探している光景だった。焦燥感と不安が入り混じった彼女の表情が、悠斗の心に深く刻まれた。


そして数日後、悠斗は大学の食堂で、そのショートカットの女子学生と偶然再会した。彼女は一人でテーブルに座り、何か困ったような表情を浮かべていた。


意を決して、悠斗は彼女に声をかけてみた。「あの……何か困っていますか?」


彼女は少し驚いた表情で顔を上げた。「え?あ、あなたは……確か、駅で……」


「雨宮悠斗と言います。もしよかったら、話を聞きましょうか?」


彼女の名前は、水瀬 藍里。体育会系のサークルに所属しているらしく、日焼けした肌が健康的だった。藍里は、昨日からずっと探している大切なペンダントが見つからないのだという。それは亡くなった祖母から貰った、かけがえのないものらしかった。


悠斗は、駅のホームで見た未来の光景を思い出し、藍里にいくつかの質問をした。ペンダントのデザインや、最後に見た場所などを詳しく聞くうちに、悠斗はある可能性に気づいた。


そして、数時間後、悠斗は大学の構内にある落とし物センターで、藍里のペンダントを見つけ出したのだ。


「うわああ!ありがとうございます!雨宮さん!」


藍里は目を輝かせ、何度も悠斗に頭を下げた。彼女の心からの感謝の言葉を聞きながら、悠斗は自分が感じた予兆が、単なる偶然ではないのかもしれないと感じ始めていた。


暦に続き、楓、そして藍里。彼女たちは皆、悠斗が未来の一瞬を見たような気がした女子学生たちだった。まさか、彼女たちもまた、自分と同じように、何らかの力を持っているのだろうか?


そして、夢の中で暦が言った「他にも、何人かいると思います」という言葉が、悠斗の脳裏に蘇った。七人――暦を含めて、あと四人の「超能力彼女」が、この大学のどこかにいるのだろうか?


悠斗は、まだ見ぬ彼女たちとの出会いに、期待と不安が入り混じった複雑な感情を抱き始めていた。自分の身に起こっていることは、まるで現実離れした物語の序章のようだ。平凡だった彼の日常は、急速にその姿を変えようとしていた。

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