第3話 邂逅、そして予期せぬ再会
大学の構内に入り、悠斗は周囲の様子を注意深く観察しながら歩いていた。もしかしたら、昨日夢で見た少女が、この中にいるかもしれない。根拠はないが、そう思わずにはいられなかった。
講義中も、アルバイト中も、悠斗の頭の中は昨日の夢と、今日体験した時間跳躍のことでいっぱいだった。集中しようとしても、どうしても意識がそちらへ引っ張られてしまう。
その日の夕方、アルバイトを終え、疲労困憊で帰路についていた悠斗は、駅のホームで偶然、見覚えのある姿を見かけた。
長い黒髪が夕焼けに照らされ、どこか憂いを帯びた瞳がこちらを見つめている。
「まさか……!」
悠斗は息を呑んだ。そこに立っていたのは、昨夜の夢で出会った少女だった。夢の中では名前も知らなかったが、今、目の前にいる彼女は、夢で見た印象と寸分違わない。
少女もまた、悠斗の存在に気づいたようだ。少し驚いたような表情を見せた後、儚げな微笑みを浮かべた。
「やっぱり、悠斗くんだったんですね」
その声を聞いた瞬間、悠斗の全身に鳥肌が立った。夢の中で聞いた、あの優しい声だ。
「君は……一体?」
悠斗は戸惑いを隠せないまま、問いかけた。
「私の名前は、時村 暦(ときむら こよみ)と言います」
暦と名乗った少女は、悠斗に深々と頭を下げた。
「あの……もしかして、昨日、夢の中で会いましたよね?」
悠斗が恐る恐るそう尋ねると、暦は少し困ったように微笑んだ。
「ええ、まあ……厳密に言うと、少し違うかもしれませんけど」
彼女の言葉の意味が理解できず、悠斗はさらに混乱した。夢で会ったのは確かだ。彼女は自分の名前を知っていたし、自分も彼女のことを、初めて会ったはずなのに、どこか懐かしいと感じている。
「あの、少しお話できませんか?」
暦はそう言って、悠斗を近くのカフェに誘った。
カフェに入り、向かい合って座ると、暦は少し緊張した面持ちで話し始めた。
「悠斗くんは、時々、時間が止まったように感じることはありませんか?」
彼女の最初の言葉に、悠斗は驚きを隠せなかった。まさに、自分が昨日から体験していることそのものだったからだ。
「え?あ、ああ……実は、昨日と今日、そういうことがありました」
悠斗が正直に答えると、暦はわずかに目を潤ませた。
「やっぱり……私だけじゃなかったんですね」
彼女の言葉から、暦もまた、悠斗と同じような体験をしていることが伺えた。
「それは……一体どういうことなんです?」
悠斗は身を乗り出して尋ねた。
暦は少し間を置き、覚悟を決めたように話し始めた。
「私たちは、ほんの少しだけ、未来に跳躍する力を持っているんです」
悠斗は自分の耳を疑った。未来への跳躍?それはまるでSF映画のような話ではないか。
「未来に……跳躍する?そんなことが、本当に起こるんですか?」
「ええ。私も最初は信じられませんでした。でも、何度も同じような体験をするうちに、それが現実だと気づいたんです」
暦の話によると、彼女が初めてその力に気づいたのは、数年前のことだったという。最初はほんの一瞬の出来事だったが、次第にその頻度が増え、最近ではある程度の予兆を感じられるようになってきたという。
そして、昨夜の夢について、暦は少し曖昧な言い方をした。「あれは夢というよりも、私がほんの少し先の未来で、悠斗くんを見たのかもしれません」
彼女の言葉は、悠斗の体験と奇妙なほど一致していた。自分だけが時間を止めているように感じた現象。夢の中での暦との出会い。そして、今日、現実世界で彼女と再会したこと。
全てが、信じられないような繋がりを持っている。
「でも、なぜ僕に?」
悠斗はそう問いかけた。なぜ自分が、こんな特殊な力を持っているのだろうか。そして、なぜ暦は自分のことを知っていたのだろうか。
暦は少し悲しそうな表情を浮かべた。
「それは……まだ、私もよくわからないんです。ただ、夢の中で、あなたがとても苦しんでいるのを見たんです。何か大きな困難に立ち向かっているような……だから、どうしてもあなたに会って、話をしたかった」
彼女の言葉に、悠斗は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。自分の未来が、そんなにも困難に満ちているのだろうか。
「あの……昨日、夢の中で、君は何か言っていたような気がする。『待ってて』って……」
悠斗がそう言うと、暦はハッとした表情を見せた。
「ああ!そうでした。私は……『必ず、また会えるから』って言いました」
それは、未来の暦が、過去の悠斗に語りかけた言葉だったのだろうか。
暦は少し考えて、真剣な表情で悠斗に言った。
「悠斗くん、あなたもきっと、これから色々なことに巻き込まれていくと思います。私と同じように、未来への跳躍を繰り返すうちに、もっと多くのことが見えてくるはずです」
彼女の言葉には、経験に基づいた重みがあった。
「あの……他に、同じような力を持っている人はいるんですか?」
悠斗が尋ねると、暦は少し躊躇した後、静かに頷いた。
「ええ、おそらく……他にも、何人かいると思います」
その言葉に、悠斗はさらなる驚きを感じた。自分と暦だけではない。他にも、未来に跳躍する力を持つ人間がいるのだとしたら……一体、この力は何を意味するのだろうか?
その夜、悠斗は暦と別れた後も、興奮と困惑でなかなか寝付けなかった。夢の中で出会った少女が、現実世界にも存在し、自分と同じような力を持っている。それはまるで、非現実的な物語の中に足を踏み入れてしまったような感覚だった。
しかし、暦の存在は、悠斗にとって一筋の光でもあった。自分だけが抱えていた奇妙な体験を共有できる相手が見つかった。そして、彼女は、自分の未来に何らかの困難が待ち受けていることを示唆してくれた。
「暦さん……彼女は、一体何者なんだ?」
悠斗は暗闇の中でそう呟いた。まだ多くの謎が残されている。しかし、一つだけ確かなことは、彼の平凡だった日常は、もう二度と戻らないということだった。
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