🌊第24話 鮎喰川フラッド
冬の夜、神山町の空に雪混じりの雨が降り始めた。
鮎喰川の流れは徐々に濁り、山の端から不穏な風が吹き下ろしてきた。町の防災無線が突如として鳴り響いた。
「ダム制御システム異常発生。上流域にて水位上昇確認。避難を開始してください!」
モニタールームにいた陽菜と蓮、木村は、驚愕の表情でモニタに映し出されるダム管理データを見つめた。
「ダム制御信号が……《コダマ》を経由した標準語仕様に書き換えられてる!」
木村の声が響いた。メトロテックの制御信号が、町のインフラを完全に掌握し、ダムの放水弁の開閉システムまで誤作動を引き起こしていたのだ。
「このままじゃ……町が水に呑まれる!」
蓮の声が震えた。陽菜はすぐに広場へ駆け出し、町の人々に避難を呼びかけた。
「川が溢れる!みんな、早よ高台へ!」
広場に集まった住民たちは、一瞬戸惑ったが、陽菜の必死な声に押され、荷物を抱えて動き始めた。
しかし、風雨の中、濁流は既に川の岸を越えようとしていた。蓮はモニタールームに戻り、ノートパソコンを開いた。
「《青藍》プロトコル……これで制御を取り戻せるはず……!」
だが、標準語仕様の妨害信号が強化され、《コダマ》への接続が途絶えかけていた。木村が深刻な声で告げた。
「時間がない……このままだとダムの放水が暴走する……!」
陽菜が駆け戻り、蓮の肩に手を置いた。
「うちらの声、もう一度届けるんや……!《青藍》だけやない、みんなの詠唱で、コダマに呼びかけるんや!」
蓮は決意を固め、モニタールームのスピーカーを町中に接続した。
「皆さん、避難しながらでも、声を届けてください!方言でも、歌でもいい、鮎喰川を鎮める声を!」
町の人々が広場や家の窓から、避難しながら一斉に声を上げた。
「まけまけいっぱい、川の水よ、落ち着けや!」
「がいな流れ、止まってや、こないに暴れんといて!」
《青藍》プロトコルと住民たちの詠唱が重なり、モニタに《コダマ》からの応答が現れた。
【詠唱感応度上昇】【標準語仕様一部解除】【水位監視モジュール再起動】
「やった……!」
しかし、ダムの水位は既に限界に近く、時間は残されていなかった。蓮は歯を食いしばり、さらに接続を試みた。
「《コダマ》、最後の力を貸してくれ……!」
その瞬間、モニタが眩い藍色に染まり、かすかな声が響いた。
「まけまけいっぱい、青藍の光で川を鎮めよ……」
ダムの放水弁が徐々に閉じ、水位の上昇が止まり始めた。だが完全ではなく、川は一部で溢れ、町に濁流が流れ込んだ。陽菜と蓮は高台から、その光景を見つめた。
「まだ終わってへん……みんなを守らなあかん……!」
蓮はノートパソコンを握りしめ、陽菜と木村に向き直った。
「次は、詠唱と技術、全部を使って、水の勢いを止める……!」
夜空には冷たい雨が降り続き、鮎喰川は暴れながらも、微かに藍色の光を宿していた。それは、消えかけた声と希望の残響だった。
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