第2話
「くそっ……今日って、本当に最悪だな……」
中学生のキリトは、いつか世界を舞台に活躍するサッカー選手になることを夢見る少年だった。
しかし、現実の彼はチームの控え。ベンチを温める日々が続き、出場機会はほとんどない。たまに試合に出てもミスを連発し、結果を出せずに監督に叱られてばかり……。
今日は久々に途中出場のチャンスを得たものの、数分で痛恨のミスを繰り返し、相手に4点を許してしまった。
結果、チームは惨敗。監督からは激しい叱責を受け、仲間の視線も冷たかった。
恥ずかしさと悔しさで胸がいっぱいになり、地面にでも潜ってしまいたいと本気で思ったくらいです。
「はあ……まだ午後4時か。父さんはまだ帰ってこないし、ちょっと公園にでも行こうかな……」
キリトは気分転換のために母親に声をかけた。
「お母さん、公園に行ってくるね」
「いいわよ、あまり遅くならないようにね。ほら、お小遣い。おやつでも買ってきなさい」
母・エミはいつでもキリトの味方でいてくれる、優しくて頼りになる存在だった。
もらった1600円をポケットに入れ、キリトは外へ飛び出した。
公園を歩くうちに少し気持ちが落ち着いたが、思わぬタイミングでチームの仲間と鉢合わせてしまう。
陰で自分の悪口を言っているのを聞いてしまい、キリトはその場から逃げるように立ち去った。
帰り道。ふと立ち止まったのは、クラシカルで高級感のある一軒のレストランの前。
店内には、バレ、カントナ、ラモス、そして本物のUCLボールが飾られていた。
だが、何よりも彼の視線を釘付けにしたのは――
クリスティアーノ・ロナウドとメッシのユニフォームだった。
その神々しさに心奪われ、気づけばキリトの足は店内へと吸い寄せられていた。
そのとき、背後から声がかかる。
「いらっしゃいませ、小さなお客様。ご利用ですか?」
「い、いえ……あの、ただ見てただけです。すみません……」
料理が高そうで、気後れしていたキリトに、店員は優しく微笑んで言った。
「本日は特別なお客様に限り、100円でご提供しておりますよ」
「ほんとに!? ……ちょっと、考えてみます」
夕食前に食べるのはどうかと思ったが、好奇心が勝り、つい口をついて出た。
「いただきます!」
「では、こちらへどうぞ。私は“デザイア”と申します」
(デザイア……欲望、って意味だったっけ?)
そう思いながら席に着いたキリトの前に、奇妙な名前のメニューが並ぶ。
フィッシュ&チップス・権威のティータイム
バノフィースリープ
怒りのスパイシータコス
剣士のおにぎり
そして、デザートには2つの選択肢――
夢のままの蜂蜜ウェハース
努力のレモンソルベ
どちらも魅力的で選べない。
「この2つ……ください!」
「申し訳ありませんが、1回のご注文につき、1品限りとさせていただいております」
デザイアが意味深な微笑を浮かべて言った。
「なぜですか?」
「当店では、“1つの願い”につき、1つの料理のみをご提供しているのです」
「願い……?」
「あなたの、今いちばんの願いは何ですか?」
キリトは少し考えたのち、心の奥にある本音を口にした。
「ぼくは……世界に名を轟かせるサッカー選手になりたいです」
「ふむ。それなら、どちらも適したメニューですね」
デザイアは柔らかく微笑んだ。
「“夢のままの蜂蜜ウェハース”は夢を叶える近道。
“努力のレモンソルベ”は、その夢にたどり着く力をくれます」
キリトは迷いに迷った末、指でチョイスすることにして、運命の選択は――
「努力のレモンソルベ……でお願いします!」
「素晴らしい選択ですね」
意味深に微笑むデザイア。
レモンソルベは爽やかで、酸味と塩気が絶妙だった。
だが数口食べると、体に不思議な感覚が襲ってきた。
「な、なんだこれ!?……やばい……でも……美味しすぎて、止まらない……!」
最後の一口を口にした瞬間、キリトの意識は暗闇へ――
「助言が必要ですか?」
「……お願いします!」
「努力こそが、夢を叶える唯一の鍵です。
あなたは正しい選択をしましたよ。
もし“夢のウェハース”を選んでいたなら、努力なき夢は破滅をもたらしたでしょう。頑張ってください」
次の瞬間、彼は現実に戻っていた。
目の前には干物屋があり、魚を並べる老婆がいた。
「さっきのレストランは……夢……?」
そのとき、自分の中から声がした。
「明日から朝4時にランニングな。毎日だぞ」
「え!?誰っ!?」
驚くキリト。
あの“謎の物質”が、彼の体に融合し、語りかけてきたのだった。
それからキリトは、毎日努力を積み重ねていった。
あのときの言葉が、ずっと彼の中に生き続けていた――
「努力なくして、夢は叶わない」
――15年後
「現在、88分! 日本対フランス、0-0のまま!」
「ここでボールはキリト! 左足に切り返して……撃たない!? フェイントからの――シュートォォォ!!!」
「ゴーーーーール!!!日本、ついに先制です!!!」
数分後、試合終了のホイッスルが鳴る。
日本代表が、史上初のワールドカップ優勝を果たした瞬間だった。
歓喜に沸くスタジアム。
その中で、静かに微笑む一人の男がいた――
Desire
彼に気づいたキリトは、涙を浮かべながら呟いた。
「ありがとう……本当に、ありがとう……!」
そしてキリトは、その後も伝説を築き上げていった。
バロンドール 6回
UEFAチャンピオンズリーグ 8回
プレミアリーグ 4回
ラ・リーガ 5回
セリエA 1回
コパ・デル・レイ 3回
FAカップ 3回
カラバオカップ 3回
ヨーロッパ・ゴールデンシュー 6回
プスカシュ賞 4回
そして――W杯優勝
彼は、真の「伝説」となったのだった。
願いの食堂デジデリウム HaYongYong @HaYongYong
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