願いの食堂デジデリウム

HaYongYong

第1話

「また上司に怒られたし、彼女とも別れたばかりで、もう最悪だ。仕事も疲れるし、何か食べて気分転換しようかな。」


ナト、大学を卒業して2年目の独身の青年は、オフィスで働きながらも疲れ切った足取りで歩いていた。すると、彼は毎日通っているはずの通りに、見慣れない店を見つけた。


「新しい店かな?今まで見たことなかったけど。」


彼は小さくつぶやいた。


『レストラン・デシデリウムへようこそ』


「看板がいい感じだな。ちょっと入ってみよう。」


ナトは無意識のうちに、その店の魅力に引き寄せられていた。


店のドアを開けた瞬間、ナトはその場から離れたくなくなった。


店内はシンプルに装飾されていたが、ナトは目を離すことができなかった。店の細部には言葉にできない神秘的な雰囲気が漂っていた。俳句、自然の絵画、着物を着た女性の絵、古い花瓶、刀、古書、古銭、お守りなど、彼の目を引くものばかりだった。


「レストラン・デシデリウムへようこそ。本日のお食事が、あなたの人生で最も特別なものになりますように。」


「えっ!」


ナトは驚いて声の主を振り返った。


そこには、着物を着た美しい女性が立っていた。彼女の顔は魅力的で、目を離すことができなかったが、同時に神秘的な力を感じさせた。


「特別なお客様、驚かないでくださいませ。私はヨクボと申します。」


「ヨクボ…『欲望』って意味か。」


ナトが心の中でつぶやくと、彼女は答えた。


「そうです。私は『欲望』を意味するヨクボです。」


「そうなんですね。変わった名前ですね。ところで、ここはレストランですか?」


「…」


「看板を見て入ってきたんですけど。」


「はい、そうです。あちらのお席へどうぞ。メニューをお持ちします。」


ナトは彼女の案内に従って席に着いた。


『でも、他にお客さんがいないな。こんなに素敵な店なのに…』


ナトが考えていると、ヨクボがメニューを持ってきた。


「じっくりお選びくださいませ。」


ナトは少し不思議に感じながらも、メニューを開いた。


レストラン・デシデリウム


幸運を呼ぶ鯛の塩焼き丼


願いを叶える鯉の寿司


辛さを和らげるヤンニョムチキン


過去を辿るスパゲッティ


幸せバーガー



彼はメニューを読み進めていった。どの料理も変わった名前で、何かを意味しているようだった。すると、彼の目に留まったのは、


『恋人たちのクロックムッシュ』


『これにしようかな。』


ナトは心の中で考え、注文した。


「クロックムッシュをお願いします。」


「恋人たちのクロックムッシュですね。これを食べると、運命の相手に出会える可能性が50%増えます。ただし、恋愛は焦らず、ゆっくりと進めてください。急ぎすぎると、何も得られませんよ。」


「ヨクボさん、面白いことを言いますね。でも、僕なんて誰も相手にしてくれませんよ。ははは…」


「そうでしょうか?でも、あなたは毎日、恋愛のことで悩んでいるのではありませんか?」


「ヒサノさんは、イケメンでお金持ちの男性と一緒になりましたね。あなたは恋愛に落ち込み、毎日愚痴を言っていました。お寺で願掛けをしたり、占いを見たり、自分を魅力的に見せようと努力しても、誰も興味を持ってくれませんでしたね、ナトさん。」


「ヨクボさん、どうして僕のことを知っているんですか?名前も教えてないのに…」


「気にしないでください。私は、あなたの願いを叶えるだけです。特別な食事を楽しんでください。」


「あなたは一体…」


「怖がらないでください。私はヨクボです。では、料理を準備してまいります。」


ヨクボはそう言って、キッチンへ向かった。


「ヨクボ…『欲望』…恋愛…ナトさんの願いを叶える…」


ナトの頭の中で、彼女の言葉が響いていた。


『この店、なんだか変だな。他にお客さんもいないし…』


ナトは店内を見渡した。そこには、彼の好きなものばかりが飾られていた。何か意味があるのだろうか。彼は不思議に思いながらも、どこか懐かしさを感じていた。


「お料理をお持ちしました。どうぞ、お召し上がりください。」


ヨクボが料理を運んできた。


クロックムッシュはとても美味しそうだった。香りだけで、味が想像できるほどだった。ナトは一口食べた。


外はカリッと、中はハムとチーズがとろける。ベシャメルソースの味が絶妙で、ハムとチーズの味と調和していた。しかし、奇妙なことに、食べるたびに味が変わるのだった。甘い、苦い、爽やか…そして、彼の頭の中には、過去の記憶が映し出された。


一口食べるごとに、彼の過去の出来事が頭に浮かんだ。忘れていたこと、覚えていたこと、喜び、悲しみ、後悔…さまざまな感情が交錯した。そして、最初の一切れを食べ終えると、映像は消えた。


『これは、僕の過去の記憶?クロックムッシュの効果なのか?』


ナトは二切れ目を手に取り、口に運んだ。


今度は、味は変わらなかったが、頭の中には恋愛に関する記憶が映し出された。幼い頃に好きだった隣のミコト、中学時代に好きだったクラス委員長…彼の恋愛の記憶が次々と映し出された。


そして、最後の一切れを食べたとき、彼の頭の中には、彼女の姿が映し出された。


『これは…エリカ?大学時代の同級生で、大富豪の娘だった彼女?でも、彼女とはあまり仲が良くなかったはず…』


映像の中で、彼女はこう言っていた。


『彼のことが好き…』


『待っててね。準備ができたら、あなたに伝えるから、ナト。』


『どうしてそんなことを言うの?』


『うぅ…どうして私を怒るの?』


ナトは驚いた。彼女の感情が、彼の頭の中に直接伝わってきた。


『まさか…エリカは僕のことが好きだったのか?』


そのとき、彼の頭の中に声が響いた。


「恋愛はタイミングとチャンスです。あなたが運命の相手を見つけた今、成功の可能性は50%増えました。少しアドバイスをしましょう。この願いを受け入れますか?」


ナトは即答した。


「はい。」


「では、彼女と連絡を取り、南部の地方へ旅行に誘ってみてください。旅先では、彼女を笑わせ、明るい雰囲気を作ってください。ただし、やりすぎには注意してください。さもないと、大きな不幸が訪れます。善行を積み重ねてください。それがあなたを助けるでしょう。さようなら。」


最後の一切れを食べ終えると、ナトは我に返った。


『お会計:1000円』


テーブルの上に紙が置かれていた。彼はすぐにお金を支払い、店を出ようとした。


「えっ?ここはどこだ?」


彼は再び店の前に立っていた。しかし、そこには焼肉店があるだけで、デシデリウムの姿はなかった。


「さっきのは夢だったのか?」


彼は自分の口元に何かが付いているのを感じた。


「これは…ベシャメルソース?」


彼は財布を確認した。


「1000円減ってる…じゃあ、あの店は…」


彼は自分の頬を叩いた。


「痛い!ってことは、夢じゃないのか?」


『デシデリウムはどこへ行ったんだ?』


彼は家に帰ると、インターネットで店の情報を探した。しかし、どれだけ探しても、あの店の情報は見つからなかった。


しかし彼は、これまで一度も勇気を出せなかったことに、ついに踏み出した。

それは――エリカに話しかけることだったのだ!

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