番外編:雨音のリズムで恋をする

外は朝から本格的な雨。

濡れたアスファルトに雫が跳ね、窓の向こうはすっかりグレーに染まっていた。


「……今日、ずっと雨だってさ」


怜がソファに座りながら、スマホの天気予報を見て呟いた。

ゆるめのスウェット姿、髪は寝ぐせのままで、なんとなくぼんやりしている。


「出かける予定なくてよかったな」


コーヒーを淹れながらそう言った拓也は、マグカップをふたつ並べてテーブルへ戻ってくる。

怜の前に置いてやると、怜は無言でカップを手に取り、ひと口飲んでから――


「……好き」


「は?」


「コーヒーもだけど、淹れてくれた拓也も」


拓也は少しだけ目を見開いて、吹き出しそうになるのをこらえた。


「……雨の日って、そういうモード入るんだっけ?」


「入る。ずっと家にいるって、拓也独占できるから好き」


そう言って、怜はソファにごろんと寝転がり、拓也の膝に頭を乗せてきた。

薄い毛布をかけて、まるで猫のようにまったりと甘えてくる。


「雨の音って、いいよね。拓也の声と一緒に聞くと、落ち着く」


「どっちかっていうと、俺は怜が寝てると静かで落ち着くかな」


「それ悪口」


「冗談だって。……俺も、この時間、けっこう好きだよ」


窓の外はずっと降り続ける雨。

でもふたりの空間は、ぬくもりと笑い声で満ちていた。


---


お昼はふたりで焼きそばを作り、洗い物はじゃんけんで決めた。

午後はゲームをしたり、漫画を読んだり。

何気ない時間が、やけに愛しい。


夜になり、ふたりでお風呂に入って、ベッドへ入る。

外の雨はまだ止まない。


「明日も雨だったら、また一日こうしてたいな」


「そうだな。でも……晴れてても、一緒にいたいって思うだろ?」


「……そうだね。晴れでも雨でも、拓也がいるから大丈夫」


怜が毛布にくるまりながらそう言って、胸に顔を埋めてくる。

静かな雨音の中、心臓の音だけが重なって響いた。


「拓也、好き。雨の日って、ずっとくっついてていい理由になるから、好き」


「じゃあ、明日も雨でいいな」


ふたりはそう言って、そっと目を閉じた。


――この静けささえ、君となら、特別な記念日に変わる。


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