プロローグNo.2~動画の中の世界~
僕の視界は暗くなってどんどん感覚が鈍っていく。
本当に死んじゃったよ。
死んだらどうなるんだろ。天国とか地獄とか本当にあるならできれば天国に行きたいな。
生前、別に悪いことしてないから大丈夫だと信じたいけど。
「あんた早く起きなさいよ。」
遠くで誰かが僕を呼んでいる気がした。
でも誰が?
声の感じからして家族ではなさそうだ。
でも聞き覚えのある声。
ずっと僕のそばにいたようなそんな声だ。
でも、実際僕にそんな人はいない。
一人暮らしで実家からは離れてるし、友達も最近は全然遊んでない。
恋人なんてできたことすらない。
そういえば、僕ってあと少しで魔法使いになれたのか。
惜しいことしたな。
「おい、さっさと起きろ。」
また声が聞こえた。
さっきとは違う声。
でもやっぱり、身近にいた人のように感じる。
「ちょと、うp主。」
「起きないならぶん殴るぞ。」
ん?うp主?
それにこの声…
そうか、この声はあいつらだ。
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僕のチャンネルではオリジネルキャラクターに人工音声を当てていた。
僕は生前、広告代理店で働いていた。
それは元々自分でポスターとかを作るのが好きだったから広告関係の仕事が向いてると思ったからだ。
恥ずかしながら僕は結構テキトーに生きていたから広告代理店は広告作る会社だと思っていたのだ。
実際、広告は作るけど、その他の業務もある。
それがとにかく嫌だった。
絵だけ描いて稼ぐつもりだったのに。
今思えば、僕は会社にとっての爆弾だったのかも。
そんなわけで、僕は自分の動画に出てくるゆっくりを自分で作成した。
立ち絵を描いて、性格を考えて、声を当てて。
そうしてできたのがハナとアイだった。
ハナは自分が世界一可愛いと思っているタイプで、わがまま。
アイは一見常識人のようでただのクズ。
この2人で実況していた。
たまに僕自身を模したキャラのチーズも実況に参加していた。
ちなみにチーズという名前は初期の頃からいた視聴者の方が僕のことをチーズさんと呼んでいたことがきっかけだ。
正直、僕は自分を模したキャラを実況のメインキャラにするつもりはなかったから、立ち絵はかなりテキトーにしていた。
黒のTシャツにジーンズ。
頭は黒い丸の中にチーズのイラストがあるだけ。
ハナとかアイの衣装とかはこだわったけど、チーズはめんどくさかったから手抜きにした。
ちなみに、ハナは白のワンピース、アイは仕事ができる女性って感じのあまりキャピキャピしてないやつ。
懐かしいな。2人のキャラに上手くギャップを作って動画を面白くしようとしたんだっけか。
でも、なんで今あの2人の声が聞こえたんだろう。
そんなことを考えていると自分の感覚が戻っていることに気づく。
僕は今床に寝そべっているのだろうか。
背中の下が平面であるように感じる。
そうか。
きっと病院に運ばれたんだ。
奇跡的に一命を取り留めたんだ。
嬉しくなって目を開ける。
が、そこは病院ではなかった。
真っ白な空間。
目の前に1つの扉がある。
え?何ここ?
「やっと起きた。」
「わたしを待たせるなんていい度胸じゃないか。」
僕は驚きで声が出なかった。
目の前にハナとアイがいる。
2人に実体がある。
声も人工音声特有の機械っぽさがない。
完全に人の声だ。
「ねえ。ちょっとうp主。ここはどこ?」
「ぼーっとしてないでさっさと答えろ。」
「えっ?いや、僕も何が何だか。」
「わからないの?」
「使えねえな。」
状況が飲み込めない。
でも、それは2人も同じなようだ。
とりあえず一つずつ理解しよう。
「えっと、なんで2人は実体を持ってるの?」
「はあ?何言ってんのよ。あんたがアタシたちを作ったんでしょ?」
「ついに頭がおかしくなったか。」
僕が2人を作った。
それはそうだ。
キャラデザを考えたのも声を選んだのも性格を決めたのも僕だ。
「てかあんた、今週の動画大丈夫なの?」
「週1投稿くらい守れよ。」
「あっ、そうだ。編集しないと。」
いや、僕は死んだはずだ。
動画編集なんてできない。
と思ったその時。
「コマンド編集。」
どこからか声が聞こえて動画の編集画面が現れた。
編集ができる。
今週の分の動画、途中までできていたものが表示された。
とりあえず編集した。
日付を見ると僕が轢かれた日の次の日だった。
前にあげた動画を確認してみると再生できた。
コメント欄も見れる。
コメント返信もできる。
登録者数を確認すると、僕が死ぬ直前から3人増えていた。
さらに驚いたことにSNSも開ける。
投稿もできる。
もしかして、僕は死んだはずなのに動画やSNSを通して前世に干渉できるのかもしれない。
だったらやることは簡単だ。
とりあえず、動画を投稿しよう。
でも、録画データはどうやって集めよう。
それに目の前の扉はなんなんだ?
「ねえ、うp主。あそこ行ってみよう。」
ハナは興味津々のようだ。
そういえば好奇心旺盛な設定だったっけ。
「おい、こういうのは慎重になるべきだろ。」
アイが少し焦ったようにそう言った。
アイはビビリだったっけ。
「ビビってるの?」
「そんなわけねえだろ。ただこういうのは罠かもしれねえってことだよ。」
ビビってるんだ。
「いいじゃん。進んでみようよ。」
ハナは進みたくてしょうがないようだ。
「そうだね。このままここにいても何も変わらないし、とりあえず進んでみよう。」
「正気かお前?」
アイはすごく嫌そうだ。
「ありがとう。うp主。」
ハナは上機嫌。
狙って作ったとはいえ、この2人のギャップは凄まじいな。
「ああ、そうだ。僕のことはチーズって呼んで。視聴者みんなみたいに。」
「わかった。よろしくねチーズ。」
「しょうがねえな。」
「じゃあ、扉の先へ行こうか。」
この先に何が待っているのだろう。
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