ゆっくり実況者、動画の世界に転生する。

葉巻

プロローグNo.1~1人のゆっくり実況者~

「「それでは次回の動画もゆっくりしていってね。」」

やっと終わった。

これで今週の分の動画はできた。

今はもう3時か。

明日も早いからさっさと寝よう。

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僕は遅井実(おそいみのる)。

27歳の会社員だ。

広告代理店で働いている

でも、僕には裏の顔がある。

それは、ゆっくり実況者だ。

ゆっくりーむチーズという名前のチャンネルで動画を投稿している。

ゆっくり実況というのは動画形態の一つなのだが、人工音声を利用してセリフを後付けするというスタイルだ。

生声の実況と違って後付けのセリフだから素の反応が見たいという人には好まれないが、ちゃんとセリフを考えられるのは大きなメリットだ。

あと、地声にコンプレックスがある人や、身バレが怖い人なんかがゆっくり実況をしていることが多い。

実際僕も会社にバレるとまずいからゆっくり実況をしている。

僕が働いている会社はそこそこ給料がいいが、残業が多い。

ちゃんと休みはあるし、ブラックとまではいかないが、それなりに忙しい。

じゃあなんでゆっくり実況をしているかって?

それは僕がゆっくり実況が好きだからだ。

そこそこの大学を出て今の会社に就職したのだが、思った以上にきつかった。

仕事の多さというよりは職場の人関係に苦労した。

それで僕は結構メンタルを弱らせていたんだけど、そんなときにゆっくり実況に出会った。

もともとゲームが好きだったから休日はよくゲームをしていたし、ゲーム実況の動画とかは結構見ていた。

ユーチューバーだって、資格とかはいらないだろうけど結局センスがある人が生き残る世界だ。

僕はもともとそんなにリアクションがいいような人じゃなかったからできるわけないと思っていた。

というか、やろうという選択肢を持っていなかった。

でも、ゆっくり実況には可能性を感じた。

これなら僕もちょっとはできるかもなんて思って始めてみたんだ。

もちろん、現実は甘くなかった。

動画投稿を始めて半年くらいは全く動画が伸びなかった。チャンネル登録者数も3桁だった。

はっきり言って失敗だった。

でも、ひとつ誤算があった。

僕はゆっくり実況の動画を作るのにハマってしまった。

僕が考えた会話や、僕のゲームのプレー画面を見て面白いと思ってくれる人がいた。

もちろん僕が夢見ていたほど大勢ではなかったけど。

ちなみに僕は普段、パソコンでやるカードゲームを元にしたゲームをしていた。

ちょっとマイナーなゲームだ。

今考えるとこれも動画が伸びなかった原因だ。

そんな僕に転機が訪れた。

僕が普段実況していたゲームが有名なアニメとコラボして話題になったのだ。

もともとそのゲームを知らなくて、これから知ろうとする人の一部が僕の動画を見た。

そこで、ゆっくりの掛け合いが面白いからとか、プレーが参考になるからという人たちが僕のチャンネルに登録してくれた。

そういう人たちのリクエストで、僕も新たなゲームの実況を始めたこともあった。

苦手だからやっていなかったFPSやレースゲーム、パーティーゲームとか活動の分野をかなり広げた。

そんな感じで活動3年目を迎えた僕のチャンネルは収益化を達成し登録者数1万人を突破した。

年内には2万人も夢じゃないかもしれない。

そのくらいには成長した。

この活動で気づいたのはゆっくり実況ってあまり知られていない。

僕自身、社会人になってから知ったし、どうしても実写や生声の人たちと比べるとゆっくり実況自体の知名度が低い。

まあ、実写とか生声の人たちと比べると顔や声という特徴が動画に出てこないから、そういう部分で知られることがないし、しょうがないところではあるんだけど。

それに、ゆっくり実況はセリフが後付けだからどうしても編集量が多くなって投稿頻度が落ちる。

僕自身週1本あげるのが限界だ。

まあ、そんな感じで僕は会社に通いながら週1本の動画を投稿するという生活をしている。

休日は動画のためにゲームをするんだけど、ゲームはもともと好きだからそれがお金になるってすごく嬉しい。

それにゆっくり実況のネタを探すために本を読んだり、ネットで情報収集をすることが増えて前より博識になった。

勉強なんて好きじゃなかったけど、今ゆっくり実況のために知識を増やすのは楽しい。

大学入試の時もこのテンションで勉強できてたらよかったな。

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今日はいつもより遅くなったな。

終電はギリギリ間に合いそうだ。

動画の編集もあるんだからあんまり残業したくないんだけど。

僕は今日も残業を終わらせて家へ向かっていた。

少し急いでいた。

信号を渡ろうとすると猛スピードでトラックがこっちに突っ込んでくる。

おいおい、ふざけんなよ。

暴走したトラックに轢かれるとか僕はラノベの主人公じゃない。

急いで渡り切ろうとしたが、あろうことかトラックは僕の進行方向に向かってきた。

あっ、これ終わったかも。

なんて考えていると体に強い衝撃が走り、僕の視界は反転していた。

えっ?こんなに吹っ飛ばされるもんなの?

運転席が見えた。

なんで寝てんだよ。

お前今人殺してんだぞ?

そんなことを考えているうちに僕に再び衝撃が走った。

多分頭から落ちたのだろう。

僕の視界は暗くなった。

どうしてこんなことになったんだよ…

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