鎖に繋がれた少女
*
時は現在まで遡り
「本当にこんな作戦でいいの?」
ルーシッドは不思議そうな様子で尋ねた。
「あたしがお母さんになりすますだなんて…これがお姉ちゃんの望んでたことなの?」
セレナーデは静かに黙っていたが、やがて口を開き
「…この世界が偽物であることを、いつかは伝えなくちゃならないのよ」
バーガーマンと蜘蛛の女は同一の存在、それを示すためにあたしに…?
「…わかった。お姉ちゃんがどうしても言わなくちゃならないっていうなら演じるよ」
これでいいのかな。創られた世界、偽物…お姉ちゃんはきっと受け止めたくない事実な筈なのに。お母さんが居ないなんてそう思いたくないからあたしに演じさせてるんだよね…?
偽物だって伝えたいのは建前で、きっとお姉ちゃんは心底寂しくて_
*
「こんなの倒せるのかな!」
私はバーガーマンを見てそう思った。
「…やるしかないよ。頑張ろう、奈々!」
テルルちゃんはこちらを向いて、そう言った。
「…っ!強すぎるわ」
咲ちゃんはバーガーマンをみるなり、脅威の強さに震え上がっていた。
「どうした、手も足も出ないのかしら?」
馬を捨てた筈の彼女とは思えないほどのスピード力で近づいてくる。
「一気に向かうよ!」
テルルちゃんの合図と同時に私達は向かっていく、が。
「居ない?嘘、さっきまで居たのに!」
私がそう言うと
「おかしいわね…痛っ!?」
咲ちゃんの叫びがこちらに伝わってくる。
見ると、咲ちゃんは奥の方の壁まで吹き飛ばされていた。
「なんで?どこから攻撃されてるの!?」
右往左往してしまう私にテルルちゃんは何かを察知したように
「危ない!」と私を庇った。
「…え?」
ゆっくりと自分が居た場所を見るとそこにはバーガーマンが待ち構えていた。
「なんで分かったのー?」
さっきとはテンションがガラリと変わり、軽い雰囲気のバーガーマンが居た。
「まあいいよ、次は本気で行くから」
まるでさっきが本気じゃなかったみたいな口振りをして彼女は言った。
「…嘘、でしょ」
あっけらかんとした様子で咲ちゃんは呟いた。
「逃げよう、奈々…」
テルルちゃんは必死に訴えかけるように言った。こんなの勝てる相手じゃないと言わんばかりに
「まあ逃げてもいいよ!逃がさないけどね〜?」
愉快そうな彼女の様子は狂気的にも見えてくる。
「また居なくなっちゃった。」
私は何も見えずに再びそう言った。
「きっとどっかに居る。奈々は空から確認してきて」テルルちゃんの指示通り、私は空から見ることにした。
「どこにいるの?…どこに隠れても一緒だよ!」
テルルちゃんはそう言い辺りを探した。
「…本当に居ない?」
テルルちゃんがそう呟いたその時、テルルちゃゆの後ろの辺りが軽くガサガサと音が聞こえた気がした。気のせいかもしれないけど、私は異変に気づいて
「テルルちゃん後ろ!」
私が叫ぶと同時にその方から攻撃が飛び交った。
「…ごめ…んね」
呆気なく倒れてしまうテルルちゃんに私は冷や汗をかいて
(どうしよう…テルルちゃんを守らないと)
でも上から監視してても敵を見つけるのが今みたいに遅れちゃうかも。
テルルちゃんの歌で攻撃できても、居場所発見には至らない…
「そうだ!咲ちゃんはこのエリア全体を放電して…!」私はある作戦を思いつき、言った。
「全体を放電?そしたらテルルが…」
躊躇う咲ちゃんに私は言った。
「テルルちゃんは私が避難させるから、その間にお願い!」具体的に伝え、私はテルルちゃんを急いで運んだ。
「だいじょうぶ…?」と問いかけてくるテルルちゃんだったが、私は起き上がらないでと言い無事にエリア外へと案内した。
「行くわよ!…321」
の合図で放電がされた。バーガーマンの居場所は電気の光であっさりと特定することが出来た。
「観念しなさいバーガーマン!」と咲ちゃんは言いバーガーマンを追い詰めたと思ったその瞬間
「残念だったね〜!あたしは逃げるよ」
バーガーマンだったと思っていたが仮面が剥がれ中からはルーシッドが出てきた。
そして次の瞬間、前にもあったような煙幕がかけられて闇夜に彼女は溶けていった。
「もー!やられた!」
悔しがる咲ちゃん。
「どんまいどんまい!次頑張ろ」
私が戻ってきてそう言うと
「…あら?何やってるのアンタ達」
とどこからともなく出てきたのはバーガーマン本人だった。
「って…本物の方のバーガーマン!?」
テルルちゃんは驚き、目を見開いた。
事情をバーガーマンに説明すると、彼女は
「ふーん、そういうことなのね。でも、彼女が言っていることはよくわからないわ。」
「そうですか。なら良かったです」
私はそう言うと咲ちゃんは
「もうシャルロック取ろうとか言いませんよね?」と睨みつけた。
「…もう、そういうのはないわ。」
しんみりとした様子で彼女は答えた。
「…なら良いのよ」
咲ちゃんは安堵したように言った。
「どうしてですか?あれだけ言ってたのに」
私が不思議に思って尋ねると
「シャルロックを求めることだけが“正しさ“とは限らない。だからこれも返すわ」
と、あっさり身につけていたシャルロックをテルルちゃんに渡した。
「パパはシャルロックを求めていたけれど、私にその良さは分からなかったから…それだけよ」
「ありがとうございます!」
テルルちゃんは軽くお辞儀をしていった。
「ああそうそう。次のエリア、頑張ってね」
随分優しくなったバーガーマンに私達は不思議な気持ちになりながらも、こうしてハッピーラッキーエリアでの戦いは終わりを告げた。
*
「ねえ、そういえばなんだけどさ」
歩いている途中、私はふと思ったことを尋ねてみることにした。
「どうかしたの?」
二人は不思議そうな目でこちらを見てきた。
「私が捕まってた場所…咲ちゃんは知らないかもしれないけどね」
「他の人達ももしかしたら皆あの場所にいるかもしれないの」
あの時は忙しくて辺りを確認することができなかったものの、今なら何があったか見ることができるかもしれない。そう思って私は二人に伝えた。
「…確かにあの場所、何個も牢屋みたいなのがあった。」テルルちゃんがそう言うと、咲ちゃんは目を丸くして
「そうなの!?知らないのだけれど、二人は私が戦っていた間どこに行ってたの?」と言った。
テルルちゃんと私の二人であの状況について説明することにした。
「ラビリンスっていう簡単に言うと迷路。セレナーデによって奈々がそこに閉じ込められていたんだ」
「何故か分からないけれど、セレナーデって人は子供の姿だったんだよね」
私がそう言うと、テルルちゃんは腕組みをして少し悩んだような顔をして
「妹のルーシッドもだね。この遊園地は謎が多いけど、これに関しても意味が分からない」
「セレナーデって人が私達をここに連れて来たのよね?何を考えてるのか全く分からないわ」
咲ちゃんも首を傾げてそう言った。
「…とりあえず、迷宮に行ってみないと手がかりが掴めそうに無いから行ってみないかな?」
「テルルちゃんの言う通り、手がかりを少しでも探すべく行こう!」
私達は手がかりになることを一つでも入手すべく、迷宮に再び向かった。
*
「あまりに大変すぎじゃないかしら!?」
咲ちゃんは罠が仕掛けてある険しい道のりに早速疲れて来ている様だった。
「なんとも無いよ?」
けろっとした調子で話す私にテルルちゃんは訝しんだ様子で言う。
「おかしく無いかな。何で奈々はここの罠が効かないんだろう?」
「な、何でだろう…ちっとも分からない」
私は思わずたとだとしい態度になってしまう。
「安全にする機械を奈々にだけ取り付けられていて、それで大丈夫とかかしら?」
咲ちゃんは推理した答えを言ってみせた。
「だったらいつから!?」
私は驚き目を見開いた。
「…いつだろうね。もしかしたらこの遊園地に来た時からかも」テルルちゃんは考察している様だった。
「どうしてそんな事をするのかな…」
私に安全装置をつけたところでセレナーデっていう人達に関係あるのかな
「奈々を速やかに捕まえる為とかかしら」
「他の人達にもそういう装置を取り付けているっていうこと?」
私が二人に聞くと
「さあね」とどっちつかずの様な返答をテルルちゃんはした。
「…でも良かったな。奈々がVIPルームとかに閉じ込められてなくて」
突然、テルルちゃんは少し揶揄う様なそんなことを言った。
「え?」
私がきょんとしたような態度をすると
「奈々だったらあっさり『VIPルームなら』とかってなんとか言って向かって行っちゃいそうだからさ」
「そんなことしないよ!…いややっぱりするかも」
私が曖昧に返事をすると咲ちゃんは笑って
「ふふ、確かにそうかもしれないわね」
と言った。
「もー!咲ちゃんまで」
二人に揶揄われて私は少し顔が赤くなった。
数分してから
「で、話を戻すけど安全装置ってどこに取り付けられてるのかしらね?」
そう咲ちゃんは問う。
「…どこだろう?」
「うーん、私はシャルロックだと思ったけど」
テルルちゃんは意見を出した。
「シャルロック!?どうして…」
私は驚いた。
「重要で手放しにくいし、変身で服が変わって機械の部品が一時的に消えることもない」
確かに言われてみればそうかも…。私達はシャルロックを身につけると武装して一時的に服装が変わってしまう。
それは良いことで戦う為のユニフォーム的な存在でもある。しかし、敵が私に身につけさせるには不便すぎる。
服につけてたとしても変身したり解除して変わったり安全装置が常に付けられるとは限らない。そう考えても、やはりシャルロックにつけるのが一番利点が高い。そうテルルちゃんは考え出したのだろう。
「テルルちゃんの言う通り、あり得るかも」
私がそう言うと、テルルちゃんは少し試す様に
「シャルロック、一時的に交換してみる?」
と言われたので、渋々応えることにした。
「…しょうがない!」
安全が無くなると考えると、急に怖くなるけどね。
「ちょっとだけ、歩いてみたらどうかしら?」
咲ちゃんの歩幅に合わせて、ゆっくりと歩いた。
「怖い、怖いよ…!」
今にも罠が発動すると考えると怖くて仕方がない。
「大丈夫だから。いざとなったら守るし」
テルルちゃんの言葉を信じて、ゆっくりゆっくり歩いた。すると
「…やっ!」
急に矢が飛んできて私の頬を掠めた。
「咲、これって当たりってこと?」
テルルちゃんはそう言って彼女に聞いた。
「そうじゃない?」
平気そうな顔をして言うテルルちゃんに対して咲ちゃんはそう答えた。
「ごめん、これは返すよ」
再度シャルロックを交換をして安全に戻った私。
「…こ、怖かった」
ガタガタと足が震えた。
「これでシャルロックに何かしらの装置が取り付けられていることが証明された。」
「何の目的かは分からないけれど、セレナーデは奈々にだけ大丈夫な様にしていたってことね」
咲ちゃんがそう言うとテルルちゃんは
「奈々のこと好きなんじゃない?」
と言い出した。
「ちょ、テルルちゃん!?」
慌てふためく私を楽しむ様にテルルちゃんは言った。
「…テルルの方が奈々のこと好きなんじゃない?」
揶揄う様にして、咲ちゃんが言うと
「…何それ、全然違うけど」
と言った。耳が真っ赤になっていたのは本人には言わないでおくことにしよう、そう奈々は心に決めて。
「まあ、そんな話は置いておいて。手がかりを調べるんでしょう?」
話を戻して、咲ちゃんはそう言った。
私達は罠を回避しながら進んでいく。正確には、私以外の二人が回避しているのを見ていただけだけど。
再び牢屋のところまでやってきて、一つ一つ調べていく。
「うーん、牢屋には誰もいないね」
テルルちゃんがそういうと
「それどころか、何も無いわね」
と咲ちゃんが言った。
牢屋だから当たり前かもしれないが殺風景で何も置かれていないし、誰かが使ったような形跡も残されていなかった。
「ねぇ!あっち見て」
私はあることに気がついてその方向へと指を指して示した。
「ここから先は立ち入り禁止?」
テルルちゃんはその方向まで向かって看板に書いてあった文字を読み上げた。
「どうする?」
明らかに何かありそうだけど、と彼女は告げたけれども、あまりに中の様子が私達は気になってしまった。
「何があるのかしら?」
お宝を探すような、キラキラとした目で咲ちゃんは言った。
「行ってみようよ!」
私はそう言ってテルルちゃんを説得した。
「わかった。少しだけだよ?危険だったら直ぐに戻るから」そう彼女が許可してくれたので、私達は進んでみることに。
長いトンネルの中を進んだ。シーンとしていて雰囲気が怖い。無機質なようなそんな雰囲気さえ感じる。
(うぅ…なんでこんな所に)
入ろうと言ったのは自分だったけれど、こんな不気味な空間だとは思いもしなかった。
「だ、大丈夫だよ」
テルルちゃんは震えた声をしていたけれど、私の手をとってぎゅっと強く握ってくれた。
「大丈夫よ!」
いざとなったら雷で痺れさせればいいのよ、と言った彼女は脳筋思考であった。
彼女のコントロールのミスで私達にまで被害が喰らったらきっととんでもないことになってしまう。
私はお化けよりも彼女の雷の方が途端に恐ろしくなり不思議とお化けに対する恐怖が薄れた。
そんなこんなでトンネルを抜け出し、辿り着いたのは一つの部屋。
明らかに異様な雰囲気を纏う大きな牢屋が存在感を放っていた。
「誰か...いるの?」
小声で私は呟き、牢屋の中を見た。
そこには一人の少女が鎖に繋がれ閉じ込められていた。
「お姉ちゃんじゃないんですか」
繊細な声で彼女は言った。まるでお姉ちゃん以外はどうでもいいと言わんばかりに
「…何でここに閉じ込められてるの?」
私が尋ねると、彼女の表情は曇って
「お姉ちゃんが閉じ込めたんです。私の能力が危険だからと」
確かに、よく見ると彼女の髪には黒色のシャルロックが着いていた。
「危険信号…だね」
テルルちゃんは重苦しい様子でそう言った。
「私は…ずっと迷っています。何をするべきなのか私はどちらを取るべきなのか、と」
「どちらって何の話なのよ?」
咲ちゃんは尋ねた。
「私のお姉ちゃん達と離れずにいるか、それともお母さんに会うために離れるか…です」
「お母さんに会ってから戻ってくるっていうのはどうなんだろう」私がそう言うと彼女は無理ですと言った。
「出来ません。どう頑張っても…」
「大丈夫、ここから出してあげるよ!」
私がそう言うと、彼女は辞めてくださいと言ったのとほぼ同時に
赤い光線のような物を放ってきた。
「伏せて!」
テルルちゃんの声を聞いて対応したおかげで無事だったものの、あれを喰らっていたらどうなっていたのか…想像しただけで恐ろしかった。
「…ごめんね。」
私は彼女に向かって謝った。
「ここから私を出そうなどという浅はかな考えは辞めてください。」
彼女は冷たく、そう言い放った。
「…」
彼女も彼女なりに考えて行動している。だから、無理してその鎖を切ろうだとかきっとしてはいけないのだと思う。
お姉ちゃんとの日々を無駄にしたくない。それが彼女の考えなのだろうから
「お姉ちゃんのしたことは間違っていたんだと思います。ですが、だからといってお姉ちゃんとの日々を…縁を切ろうとは到底思えませんでした。」
「何故なら、それくらいお姉ちゃんが大好きだったからです。」
彼女の姉に対する思いが伝わってくる。だけど、それと同時に
「ですが、それを消そうというのならこちらも容赦は致しません」冷たくて、重くて…とても悲しい感情さえ伝わってきた。
姉に閉じ込められているのに、何故そこまで愛せるのか。私は不思議で仕方がなかったけれど、受け止めることにした。
*
「結局、分からなかったね」
私がそう言うと咲ちゃんは
「彼女が言っていた姉ってセレナーデのことなのかしら」と言った。
「きっとそうだと思うよ」
「セレナーデと彼女の間に一体何があったのか、謎だね」とテルルちゃんは言った。
「また会うことになりそうよ」
と咲ちゃんは言った。
『次会った時は今以上に容赦しませんから、覚悟しておいて下さい。』
私達が帰ろうとしたタイミングって告げた彼女の言葉を思い返す。
(あの子とも、仲良くできたらいいんだけどな)
私はそう思わずにはいられなかった。
彼女の意思はとても硬かった。だけれども、悪人には見えなかった。
姉を意地でも信じようとする清き心まできっとある。
黒いシャルロックになってしまっていたけれど、彼女の心ならきっと戻ってくる。
そうとさえ信じていた。
あと3つのエリアをクリアしたらこの旅は終わる。
私達はミュージアムエリアへと急いで足を運ぶのだった
シャルロックサーカス もみじあおい @Momiji_Aoi42
★で称える
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