過去編 崩れ去る日常
私はセレナーデ。お母さんとお父さん、そして妹のルーシッドがいる四人家族。
今度の休み、遊園に行くことになった私たちはウキウキとした気持ちで張り切っていた。
*
「わーい!」
遊園地についてははしゃぐルーシッド。ルーシッドは物心ついた時から、元気で明るい性格をしていた。
「こらこら、あんまりはしゃぐんじゃないぞ」
お父さんは真面目な性格。真面目すぎてちょっと心配になる時もあるけど、頼りになる。私たちの事を考えてくれて優しいよ
「セレナーデはどこ行きたい?」
そう問いかけてきたのはお母さん。お母さんは普段優しいけど怒った時は鬼の形相ですっごく怖い。
お母さんはこの家庭をすっごく大事にしているみたい。かけがえのない、大切な物。
お母さんはお父さんが大好きだからお父さんを絶対傷つける真似は何があってもしないと思う。
「私、メルヘンエリアの観覧車がいい!」
私がそういうとお母さんはうーんと唸って
「メルヘンエリアは後にしましょ?まずはハッピーラッキーエリアに行きたいわ」
「ハッピーラッキーエリア!?なにそれ、楽しそう!」私はワクワクとした気持ちになった。
「ハッピーラッキーエリアは色々売ってるからな。セレナーデの大好きな白うさぎのメリーもあるだろう」
お父さんが言うと、ルーシッドも反応して
「ねえねえ!魔法少女ドリーミィも売ってる?」
と目を輝かせて言った。
「ああ、もちろん売ってるぞ」
「やったー!」
元気に言うルーシッド。
「もちろん、お勉強はちゃんとするのよ?」
お母さんは少し厳しめにそう言った。
「はーい」
私とルーシッドはそう返事をした。
*
るんるんるん、楽しいなー!
ジェットコースターに乗ったり、バーガー屋さんでご飯を食べたり。その時は、バーガーマンとコラボしてたっけ。
「バーガーマンよー!」
お母さんがふざけてバーガーマンのふりをしていたのは面白かったなぁ。
*
「ぷはー、お腹いっぱい」
ルーシッドは満足そうにそう言った。たらふく食べて、すっごく美味しかった。
「もう終わりなのかしら?」
私は寂しげに、そう言った。
「最後に観覧車に乗りましょう?」
「お化け屋敷はまた今度?」
「ルーシッドが幼いからまた今度。それとも、ホラー得意だったかしら?」
ぶんぶんぶんと、首を横に振る私。
「もう夕方なんだね」
外を見つめて私は言った。
「早いなぁ、今日は楽しかったか?」
お父さんがそういうので私は
「すっごく楽しかった!!また四人でどっかいこうね!」と言った。
「そうだな。今度はどこに行こうか?」
お父さんがそう考えていると
「お父さんの誕生日に博物館へ行くのはどう?」
お母さんはそう提案した。
「誕生日プレゼントはお皿とかいいんじゃない?日頃から使えそうだし!お父さん食器好きでしょ?」私がそういうと
お父さんは喜んだ様子で
「それはいいな!そうしようか」
「決まりね!」
お母さんはそう言った。
これは幸せが崩れ去る前の、そしてセレナーデとルーシッドが悪になる前の出来事。
*
あの遊園地に行った時から少し月日が流れて。
「今日はお父さんの誕生日!とっても素敵なプレゼント選んだもんねー」
ルーシッドは喜んだ。そう、今日はお父さんのための日。私のお父さんは日用品が好きみたいだから、使いやすいものってことで食器になったんだったかしら?
「よし。今日はみんなで久しぶりのお出かけだ」
そう。私の家庭は両親が仕事で忙しいため、四人揃って出かけることは本当に少ない。だからこそ、こうしてルーシッドもはしゃいでいるわけなのだ。
博物館に到着して
「博物館といえば、色んなものが展示されているのよね?」
私が尋ねると、お父さんは
「ああ。ここは恐竜について、色々展示されているぞ。折角だからセレナーデも見たらどうだ?」
「恐竜は面白いぞ。まだまだ知らない事がたくさんある」
お父さんは本当に恐竜とかそういうのが好きなんだな、私はそう思った。
知らない知識が知れるって、よくわかんないけど多分面白いのかな。私はそう思って館内を見て回った。
「お母さん見てみて。この恐竜さん面白いよ!」
ルーシッドは楽しそうにお母さんに見せていた。
暫く館内を眺めていると、お父さんがこんな事を言い出した。
「先に見ていてくれないか?少しだけトイレに行ってくるから」それだけ言い残して、お父さんは居なくなった。
ルーシッドは絶好のチャンスと言わんばかりに期待の目をして、お母さんに言った。
「ねえねえ!お父さん帰ってきたらそれ渡そうよ」
ルーシッドはお母さんがこっそり持っていたプレゼントの品を指差して言った。
「ええ?もう早くないかしらねぇ。館内出てからにしましょ?」お母さんはそう言っていたけれど、ルーシッドはサプライズだからね、ねっ!と説得した。
お母さんは渋々、しょうがないわね。と答えてくれたので私たちは帰ってきた瞬間に渡すことに。
なんとも急な作戦?ではあったものの、私達はわくわくしながらお父さんが帰ってくるのを待った。
数分、数十分の時が流れてから雲行きが怪しくなり始めて私たちはお父さんの様子が気になった。
「お父さん、遅くない?」
私が言うとお母さんは
「‥もう少し待ってみましょうよ」と言った。
もう少しって何分?そんなの分からないけれど、私たちはひたすら待つことにした。
でも、お父さんは一向に戻ってこない。流石に遅い、そう思った時お父さんが戻ってくるのが見えた。
「お父さん遅いよー」
私がそう言ったその時、お父さんは突然その場で倒れた。
え。どういうこと?頭の中でいくつもの事柄が駆け巡る。
「パパ!?パパしっかりして」
お母さんはお父さんの身体を軽く揺さぶり、声をかけた。
「‥誕生日‥プレゼント、受け取れそうになくて‥ごめん‥な」そう言って、お父さんは生き絶えた。
「そんなこと気にしてる場合じゃないわよ!早く、セレナーデは救急車を呼んで!」
私は携帯電話に119番の数字を入れて、電話をかけた。
「もしもし!大変なんです」
*
「お父さんは‥大丈夫なんですか!?」
私は病院に居た看護師さんに問うが、看護師さんは残念そうな顔をしてから
「申し訳ありませんが…」
と言ってお父さんにもう寿命が残されてない事を告げた。
「そんな…お父さんは…」
もう、お父さんとは会えないの?
「…どうして」
横にいたお母さんはひどく辛そうな顔をした。
「過労だそうです。」
静かにそう、彼女は伝えた。
「…嘘でしょう。そんなこと信じないわ!」
お母さんは耐えきれない様子で言った。
「お母さん…辛いのは私も同じよ」
私がそういうと、ルーシッドは頷いて
「そーだよ!お父さんのためにも笑顔でいよう?」
「…そうね。」
お母さんは納得してないみたいだったけど、なんとか受け止めて言った。
*
数日後、お父さんは過労で亡くなった。結局プレゼントも渡せずお皿はルーシッドが代わりに使うことになった。
そんな時、第二の悲劇が巻き起こった。
「美味しいー」
いつも通り、食事をしていた時のことだった。
「ご馳走様!」
ルーシッドがそう言って、食器を台所に戻そうとした時
ぱりん、とお皿が砕け散る音がした。
「…ぁ」
ルーシッドが小さく言葉を発して、お皿を自身が割ったのだと気づいたその直後。
背後で鬼の形相をしていたのは、お母さんだった。
「ごめんなさいごめんなさい…おかあさん」
ルーシッドは泣きながら謝り続けた。
お父さんへのプレゼントのために買った大切なお皿やコップが無惨にも一瞬で砕け散ったのだ。
お母さんはお父さんの想いが強い。それに、お父さんが亡くなったことによりそれに関しての後悔や未練が形となって怒りとして今現れている。
お母さんの怒りはきっと収まることがない。お父さんにもう一度合わせることがもし出来たのなら、お母さんの辛さが解消されたのかもしれない。でもそんなの、今になって無理なのはわかっていることだった。
*
だから、私達はお母さんと約束した。今度、サーカスを見に行こうって。私は覚えていないけれど、私達がまだ幼い頃に家族四人でサーカスに行ったらしい。
お父さんの死は忘れられなくても、あの頃の楽しい思い出がせめてせめて思い出せれば。
お母さんはきっと前を向けると思ったからだ。
そう、その時は信じていた。
お母さん、いつからおかしくなってしまったの?
お父さんが亡くなった時から?ルーシッドが食器を割った時から?わからない、わからない。きっと答えなんて出てこない。
でも私はずっと想う、お母さんにもう一度会いたいって。
*
お父さんが亡くなってからというもの、お母さんは何かと私達に向ける愛情が重くなっていった。どんどんどんどん、それは終わりを知らないくらいには。
「お母さん、もう辞めてよ。疲れたよ」
「逃げないで。私から…居なくならないで」
切実な、お母さんの願いは子供の私達には重すぎた。
もういいよ、私達でここから逃げ出そう。
*
「お母さんの重い愛情には…もう私達懲り懲りなの」
長い月日が経過した後、決心して告げると
お母さんは寂しそうに
「そう…。もう行ってしまうの?」
旅立ちには、まだ早すぎる年齢だけど
お母さんの気持ちにはもう応えられないから。私達はお母さんの行動が、辛くて耐えられない事を伝えた。
「迷惑かけてごめんなさい。お金はあげるから、だから。どうか幸せに生きて」
私達は、未練があったもののお母さんがそう言ってくれたのだから。家から出て行く事を決めた。
*
「出て…良かったのかしら」
家を出てから数日後になってもやはり後悔があった。
「しょうがないよ。もう決めた事なんだから」
ルーシッドはあっさりと言ったが、きっと内心ルーシッドだって後悔しているはず。
だって、重い愛情になってもお母さんはお母さんだから。私達を産み育ててくれた母親であることに変わりは無いから。
「…はぁ」
大きく、ため息をつく。サーカスに行くっていう約束…果たしたかったな。
お母さんにもう一度会いたくて一回実家に帰ってみたけれど、お母さんは引っ越してしまったみたいだった。きっと、私達に迷惑をかけてしまった事を後悔しての行動だけど、それが私達には辛かった。
行く宛もなく彷徨い続けて、辿り着いたのは一つのサーカス。
名は″シャルロックサーカス″というらしい。シャルロックって、どういう意味だろう?ちっとも分からないけれど。
サーカスに詳しく無い私達だったけれど、チラシを見てみた。
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「なあに、それ」
ルーシッドは少し訝しんで言った。超能力の類いなんか少しも信じてないみたいにして
よく分からないけれど、どうやら人気のサーカスのようだ。
お母さんに会いたい、サーカスでお母さんに会いたい。約束を果たしたい、それだけの感情のはずだった。
シャルロックを使えば、お母さんに会えるの?そう、一個の考えが頭をよぎった。
「ねえ…ルーシッド」
「ん?どしたの」
「これをすればお母さんにもう一度会って約束を果たせるかもしれないわ」
*
練習中のところ…ごめんなさい。私達はサーカスに乗り込み、シャルロックを奪うため。もっと正確に言うならお母さんにもう一度会うため
無実の姉と弟、(小桜姉弟)に攻撃を仕掛けるのだった_そう、今のテルルとその弟だ。
それから私達はシャルロックを見事奪うことはできたものの暴走してしまった。
シャルロックが暴走したことにより、新たな世界的な物を生み出した。それがあの遊園地である。
私達の過去の記憶がバラバラになって紡がれて出来た。いわば偽物で白うさぎのメリーも、全て全て存在しない。いや、私達が出て来ているところは実際にいるけど。
幼くなれたのは、時間を変えたから。まあ、シャルロックは未知数だから彼女らは気づいてないかもしれないけれどとても最強なアイテム。
そんな過去の世界を再現して生み出すくらいの力がある。まあ、とりあえず話を戻して
″記憶世界″とでも言おう。私達はその世界に引き篭もり、子供達のためと称して閉じ込めた。
結局、お母さんの重い愛と何も変わらなかったわけだけれど。
あの子たちならきっと、シャルロックを取り返してここからあっという間に脱出してしまうかもしれない。
そんなの、知っていたこと。あの子たちには私達のやり方が間違っていることを証明して欲しい。百瀬奈々、テルルそして森谷咲。そんな、ただの我儘
そして、正義を示して欲しい。こんな事しなくたって、お母さんに会えるって言って欲しい。
こんなこと、私達敵側が面と向かって言えることではないけど。
_いつか、お母さんにもう一度だけ会えますように。私達の間違いを証明してくれる正義のヒーローが現れますように。
私達はただ、それを今日も願っている。
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