強気なカウガール


「まずは、自己紹介するよ。私はテルル、こっちが奈々」紫髪の少女へとテルルちゃんはそう説明した。


ぺこり、と私こと百瀬奈々も挨拶した。


「私は森谷咲…それで、さっきの力のことについて聞きたいのだけれどいいかしら?」

そう話す森谷咲さんはスタイルが良く美人さんだった。


「シャルロックといって、特殊な能力が付与されるアイテム。説明してなかったけど、付与される能力は人によってバラバラなんだ」

テルルちゃんがそういうので私もと思って説明し始める。


「それでね、私たちはこっちのテルルちゃんが代々受け継がれてきた大切な代物であるシャルロックを返してもらうために日々頑張ってるんだ!」

私がそういうと、森谷咲さんは突然テンションが上がってぱあっと太陽の様な眩しい笑顔を見せた。


「なんだか面白そうね!私も混ぜて!」

楽観的な森谷咲さんとは裏腹に私達は少し曇った表情をしてうーんと唸った。


どうしたの?と不思議そうな目で見つめられてしまったが以前の状況を知ってればこういう気持ちになるのも当たり前だった。


「…ええとね、これは危険にもなり得るの。森谷咲さん、咲ちゃんには言ってないけど敵は能力を持ったとはいえ人間なの」

人間という言葉を聞いた途端、咲ちゃんは落ち込んだ。


「…そうなのね!人間だとしても、精一杯話し合ってみてそれでダメなら勇気を出して戦ってみるわ!」


「人と人同士の戦いだし、命懸け。楽しいばっかじゃないけれど一緒に来てくれる?」

私がそう言って彼女に手を差し伸べると、彼女は迷う様子もなく手を取った。


「勿論。ここから抜け出すためにも、戦うしかないんでしょう?ならやってやるっきゃないわよ!」

彼女はいつもの元気な表情に戻って言った。


「ありがとう…」

私は少し涙混じりになりながら言った。



「あと、咲さんに言いたい事があるんだけどいいかな。」


「ええ、何かしら?」

テルルちゃんはそう言って、咲ちゃんを連れて行く。


多分あの、シャルロックに関して気をつけたほうがいいと点についてだろう。 うっかりだとしても長期的な悪意や負の感情でシャルロックを使うと最悪使用者の精神に悪影響を及ぼすと言うものだ。


それに関して、私は少し疑問だった。 


白うさぎのメリー、魔法少女ドリーミィ、蜘蛛の足を持った女性。みな黒いシャルロックを所持していた、つまり


みな長期的な悪意、もしくは負の感情で使用して精神がおかしくなってしまった者たちの筈だ。


それもそのはず、白うさぎのメリーは謎だけれども魔法少女ドリーミィは明らかに上の空で挙動不審だった。蜘蛛の足を持った女性はわかりやすい例。恐ろしい執着心でこちらを追いかけまわしそこで咲ちゃんに奇跡的に助けてもらった。


でも、なんかわからないけれど謎だ。この遊園地に私達を呼び寄せて何の意味があるのか。


精神がおかしくなる、といってもそこまでおかしくなる狂気的な代物なのか。


シャルロックによって自身の目的さえわからなくなるのか? 


それはあり得ないと思う。なぜなら、黒いシャルロックを持っていた人は皆共に″私達の持つシャルロックを欲しがっていた″つまり、何らかの目的でこれを欲しがっていたということ。


シャルロックに取り憑かれて欲しがっていた可能性もあるけれど、うーん。


ここはどこなのか。この遊園地は誰が作ったものなのか、他の人たちはどうしているのか。


考えても仕方がない様な謎が次へ次へと浮かんでくる。



そうして頭の中を巡らせていると、テルルちゃんと咲ちゃんの声が聞こえた。


「こっちよ、奈々!」

咲ちゃんはいきなりだけど呼び捨てで私を呼んだ。彼女はフレンドリーな人なんだなぁ、と思った。


「奈々、行くよ。」

テルルちゃんが私のところまで来て私の手を優しくひいた。



ハッピーラッキーエリア、名前通りパレードで賑わい、メルヘンエリアとは大きく違って明るい雰囲気だった。辺りは開けており、太陽の光が差し込んでいた。


「お腹も空いたしご飯食べよーよ!」

咲ちゃんは自分のお腹をさすってそう言った。


「あー、そっか!咲ちゃんはここ来てから一度もご飯食べてないもんね」

と言ってる私も食べてないのだけれど、どうにもここへ来てからお腹が減らない。


「…そうだね!奈々も、なんかそろそろ食べたくないかな。」私の気持ちを察した様にテルルちゃんは言った。


「うん!ちょっと食べたいかも、ご飯近くにないかな?」

私はそう言って辺りを見回すと、すぐ近くにハンバーガー屋さんぽいのを見つけた。


「あれじゃない?食べよ、食べよ!」

一目散に咲ちゃんがお店へと駆け込んでいく。


その様子を見たテルルちゃんは少し考えたそぶりを見せ、こう言った。


「怪しく、ないかな。今まで散々メルヘンエリアで私達を倒しに来たんだよ。こんなとこ、普通じゃないに決まってる」

真剣な表情で言うので私は確かにそう思う気持ちもわかるけど、と言ってから


「咲ちゃん楽しそうにしてるし、邪魔できないよ。それにテルルちゃんだって何か食べたいでしょ?」私はそう言ってテルルちゃんの肩に手を置き


「大丈夫、きっとなんとかなる!今は休む時だよ」テルルちゃんは小さく頷いてから、納得したのかわかったと言った。



「うーん!美味しい♡」

咲ちゃんは幸せそうな笑みを浮かべて言った。


私はチーズが入ったハンバーガーを頼んだ。チーズがとろけてハンバーグと絡み合い、よりおいしさを引き立てていた。


「最高!やっぱりチーズっていいよね」

私はそう言ってモグモグとハンバーガーを食べ進める。


咲ちゃんが頼んだのはボリューミーな沢山の種類のお肉が入ったハンバーガー。咲ちゃんはどうやら大食いらしく、沢山の量のメニューを頼んでいた。


そんなに食べて、大丈夫なのかな?


テルルちゃんはというと、さっきからポテトと野菜しか食べていない。サクサクと出来立てポテトを食べ進めるけれど、ハンバーガーはどうやら食べないみたい。


「食べないの?」

私はそう声をかけたけど、食べないと言って首をぶんぶんと横に振った。


「ぷはー!やっぱこれよね!」

と言ってコーラを飲む咲ちゃんは大人、どちらかというとおじさん?がお酒を飲んでいる様なそんな雰囲気に似ていた。


「行くよ。」

テルルちゃんがそう私達に声をかけるけど、咲ちゃんはまだ食べると言って席を離れようとしない。


「もう…」

ため息をついて、テルルちゃんは咲を見た。


とその時


「助けてー!バーガーマン!みんなが襲われてるよ!」

とお店の店員の人がそう言い出した。


何かのイベントだろうか?私がそう思っていると


「ウヒャヒャヒャ!この店はオレ達が支配してやる」戦隊モノとか、特撮で出てきそうな見た目をしたそいつはそう言った。


「何しにきたの!支配とかそう言うのはダメだよ!」

私はそう言って手でバッテンのマークをしてみせた。


「うるさいぞー!邪魔すんなピギ!」

ピギといった語尾をつけ、話すその辺のスライムくらいの立ち位置をした敵。


「…」

敵が店員を拘束した瞬間、ハンバーガーの見た目をしたバーガーマンと言われるであろう彼女は現れた。


「そこのアンタ。止まりなさい」

カウボーイの見た目をした女性は、強気な口調でそう言った。


「さもないと、これで撃ちぬいてあげるわ」

銃を片手に持ち、彼女は言った。


「わかったから、黙るピギ!」

ピギ君(勝手にそう呼んでいるだけ)はそう言って店員さんの拘束を解いた。


「これでいいピギ?」

カウボーイの女性は頷いてからピギ君の頭を問答無用で撃ち抜いた。


「なっ!」

その状況に皆、誰もが困惑していた。


「助けてあげたから感謝なさい?さあ、お礼の品を寄越して」

彼女は今度こちらへと銃を突きつけてきた。


「そんな、お礼の品なんて持ってません!」

私達がそう言って否定するとカウボーイの女性はそんなことないでしょ?と言ってから



「私が欲しいのなんてそんなの一つに決まってるでしょ?…そう、シャルロックよ」


ここでもやっぱこれなの!?そう思いながら私はみんなに耳元でこっそり囁いた。


逃げよう、その四文字を



「逃げようたって許さないわよ!」


店へ隙をついて出た後、私とテルルちゃんは空を飛んで逃げていた。咲ちゃんはと言うと、私が担げないので足で逃げてもらってしまっている。


「なんで私だけなのよ!?」

咲ちゃんはそう言って全力ダッシュを決めている。咲ちゃんは平均よりも身体体力が高いのか、文句を言いつつスピードとしてはすごく速かった。


たぶん、テルルちゃんじゃなくて咲ちゃんを担いでいたらきっと。テルルちゃんが全然走れなくて今頃捕まっていただろうなと、そう予測してしまった。


「はぁっはぁ、出てきて!」

そう言ってカウボーイの女性は馬を召喚した。

よくよくみると、彼女もシャルロック持ちだ。


まあ、なんとなく今までの流れからしてわかっていたことだけれど


「ちょっ!こんなの追いつかれるに決まってるじゃない!」

そう言って咲ちゃんは後ろを振り返り、全力で向かってきている馬をビームで撃ち抜いた。


といっても、軽く痺れさせるくらいだろうが


「もう、使い物にならないじゃない。」

馬に乗っていた彼女は降りて、素の足で歩いた。


彼女ことバーガーマンはじっくりとじっくりと確実に咲ちゃんを追い詰めてゆく。


「行き止まり!?」

咲ちゃんはそう叫ぶ。


「どうしよう奈々?」

テルルちゃんは不安気に後ろからそう尋ねてくる。私にはどうしようもない、何せ…


「くだらない事を…″逃げないで!!″」

バーガーマンはそう言って咲ちゃんのすぐ側まで行き、拳銃を後ろから突きつけた。


にげ…ないで?なんかどっかで似たようなのを聞いたことがあるような…でも、思い出せない。


「逃げるよ!」

私は急いで上空から咲ちゃんの手を掴んだ。どうしよう、重い


背中はテルルちゃんを背負ってるから無理だし、かと言って無理矢理手で引っ張るのもーー


「…あ」

テルルちゃんの声がかすかに聞こえた。落下したんだ、無理もない。


けど!


どうしよう、″また″落下しちゃった。手は塞がってるし…もう…ダメなのかな。


「まだよ!」

咲ちゃんは突然握っていた私の手を離した。

このままじゃ、咲ちゃんまで…!と思った矢先


咲ちゃんはビームでバーガーマンを横に倒し、その上に乗っかった。が…


「透けた!?」

なんと咲ちゃんはバーガーマンの体をすり抜けたのだ。すり抜けてしまったものの耐性を整えて彼女はしゅたっとヒーローの如く降り立った。


その後咲ちゃんはビームでバーガーマンが操作していた馬を引き寄せてから、それに乗った。


すかさずテルルちゃんの落下を受け止め、テルルちゃんは馬に乗った。


そんな一瞬で!?しかも、ビームで引き寄せるだなんて凄技をシャルロック手に入れてからそんな立っていないのにできるなんて…。


私は咲ちゃんの才能に驚いた。私はゆっくりと地面に着地し、馬のところへ向かった。



「テルルちゃん、咲ちゃん!」

私がそういうと同時に


「急いでここを離れないとね」と咲ちゃんは言った。


「ごめん。足手まといになっちゃって」

そんなことないよとテルルちゃんの言葉に私は返す。


「乗って!」

咲ちゃんの言葉に私は頷いて、馬に乗った。


咲ちゃんは凄かった、ここに来てまだ浅いはずなのに私達よりも判断能力に長けている。一瞬で私達のメンバーのリーダー格になっている咲ちゃん。


咲ちゃんに感謝して、私は馬を操作する咲ちゃんを見守った。



10分くらい、経った頃だろうか。ハンバーガー店からはかなり離れた所まで来て、テーマパークのような場所に来た。


「綺麗ね」

咲ちゃんは辺りを見回した。自然豊かな野原に、色とりどりの花が咲き誇っていた。


馬を降りて、私達は馬を森の方に隠した。ここに来たとバレないようにするためだ。


「そうだ、シャルロックを探さなくちゃ」

私がそういうとテルルちゃんは


「一つはバーガーマンが持ってたよね。ここは広そうだし全部で四つくらいありそうじゃないかな」それならあと三つはありそうだと思い、射的の景品を見た。


「え!?シャルロックだって!?」

テルルちゃんは目を見張った。何せ、射的にシャルロックが景品として置いてあるのだ。


「あの、この景品…実はテルルちゃんの物なんです」私が他の人に取られるのを防ごうと、店員さんに話しかけた。


「いやいやこれは俺たちの物だ、俺らが最初に見つけたんだよ。それに、売ったら金になる」


お金、というワードを聞いてテルルちゃんは店員さんを睨んだ。


「…っ、これは私達が代々受け継いでいる大切な物なんだ。お金とか、素朴に扱わないでください!」


テルルちゃんの強い気持ちも、この店員さんの前では響かない。


「はっ!返してほしければ俺と戦うんだな。まーどうせお前らが負けるに決まってるさ」

そう嘲笑う店員さん、絶対こんなの普通じゃない。


今までだって、時間が勝手に変わるとかあった。ここ日本なはずなのに拳銃があるとか変すぎる…変なことばっかだ。


だけど、こんなのおかしい!間違ってる。こんな簡単に、適当にシャルロックを扱っていいわけない!


テルルちゃんの詳しい事情なんて、話してくれないから私にはちっともわかんないけど、でも!


「テルルちゃんの大切な物を返してください!」

私とテルルちゃんはあの日、すでにボロボロになってしまった廃サーカスで出会った。


それで仲間である咲ちゃんも増えた。きっと、今の私たちに不可能なんて存在しないはず!


「私達と戦って!」


「断る」

店員さんは冷たく、そう言った。そして、


後ろの小さなお客さんである子供達二人を指さして、とっとと出てけと言わんばかりの表情だった。


こそこそと私達は作戦会議をすぐお店の端っこ

でしていた。


「これやりたい!」

銀髪の小さな女の子がそう言った。


にこやかな表情を浮かべ、店員さんはこう言った。「一回100円だよ」



「絶対とろーね!お姉ちゃん」

猫モチーフが可愛い魔法少女のお面に目を輝かせながら、彼女はそう言った。


黒髪をしたお姉ちゃんっぽい子は魔法少女には興味があまりないようだった。


銀髪の女の子がおもちゃの銃を持ち、お面めがけて撃った。さっ、と景品は落ち


少しだけ背伸びをして銀髪の幼い少女が猫モチーフが可愛い魔法少女のお面を店員さんから受け取った。


「やったー!!」

元気に走り回る銀髪の少女。


「…欲しいな」


お姉ちゃんは財布をポケットからそっと取り出して店員さんに渡した。


「取らなくちゃ!」

兎の方をおもちゃの銃がめがける。慣れた手つきで撃ち、景品を取った。


「やった!」

彼女は空に向けてガッツポーズした。


「あっママ、パパ!あのねあのね、これ取ったの!」銀髪の女の子が近くにいたお母さんに向かって言った。


お母さんは優しく娘の頭を撫でた。

「いい子ね、流石私の娘よ」


「あなた、この子達はきっと優秀に育つわ」

お母さんは自身の夫にそう呼びかけた。


夫は「ああそうだな。いい娘達だ」というのだった。




「微笑ましい家族ね」

咲ちゃんがそう言って笑った。


「そうだね。幸せそうで何よりだよ」

テルルちゃんはそう言った。


「うんうん!幸せニコニコが何よりの1番だもんね!」私も釣られて笑った。


シャルロックのことなんて、笑顔の溢れる家族を見てしまったからが故に一時的に忘れて攻撃できなくなってしまったのだ。


まあ、後でいっか!とりあえずこの家族達を見守らなきゃね!


私はそう、その時は軽く見ていた。後で起こる悲劇に気づかないで…




優秀な子…かあ、そんなのなれたら今頃もっと幸せになれたのかな。


「はあ」ため息をつく、一人の少女らしき人物。

辺りは森で覆われており、檻が一つあった。しんしんと雨が空から降り注ぐ、冷たい。


「もう大丈夫だよ」

私は檻の中にいる″その子達″に向かって呼びかけた。


檻の子達は泣いている、悲しそうだ。でも、仕方ない、貴方達が悪いんじゃなくて他者が悪いから。


環境のせいなら、変えようがないのだから。

私が救いの手を差し伸べるしか、なかったのだから。


虚像の、過去の幸せを見つめる3人。私の、私達の幸せなんてもうとっくに失ってしまっているのに。


だからこそ、私は檻の子達を。今の幸せをこの子達だけでも味わって欲しくて閉じ込めたのに。もう2度と、私たちの苦しみを繰り返さないよう…


彼女達は救えるのだろうか。こんな間違った道に進んでしまった私を、止められるのだろうか。


それは、分からない。ただ、今の私にできることは祈るだけ。


過去の幸せなんて、もう戻らないけれど。今の幸せを願って。貴方と共に歩むことを決めたからーー

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