夕暮れの観覧車

私達はメルヘンエリアの最終地点の場所へと向かっていた。


あの魔法少女ドリーミィの悲痛な叫びが頭を巡るが気にしてはいられなかった。私達は一刻も早くシャルロックを全て集めて


元の場所に帰らなければならないのだ。


「ねえ奈々」

テルルちゃんがふと声をかけてくる。


「この場所って変じゃないかな」

そう彼女は言った、実は私も少し思っていたことだった。此処はどこか変で普通じゃない。


何故ならさっき2人と戦ったもののそんなに体力が減った気がしない。シャルロックの力のお陰か分からないけれどこんなに減らないものなのか。それに、どれくらい時間が経ったか分からないけれどそれにしては時間が変化してなさすぎるのだ。


近くにあった時計台を見つめてみる。時計の針が壊れているのか秒針はぐるぐる回って止まらない。


これじゃあ時間がわからない。直そうとする人もいないものか


「…今、何時だと思う?」

テルルちゃんに私はそう言ってみた。


「体感ではもう夕暮れになってもおかしくないはずだけど」彼女はそう言って空を見上げる。



花が咲き誇る道を私達は歩き続けた。

童話に出てくるお菓子の家が並んでいたが毒でも入っていそうで食べなかった。


虫も小鳥も動物達も居ない。あるのは植物とお菓子の家だけで私達は静かな土地をただ歩いた。


歩き続けていると大きな観覧車が見えた、それと同時に辺りが夕暮れになった。今まで雲一つ動いた感じがしなかったのにだ


変だ、普通じゃありえない。それしか考えることができなかった。



メルヘンというとハッピーでふわふわとした女の子らしく可愛い場所、そうイメージするだろう。でも此処は違う。可愛らしい雰囲気なのに爆弾を投げてくる白うさぎのメリーだったり、

愛らしい絵が描かれたコーヒーカップの中には牙が生えていて私達を本気で倒しにくる。


どこかメルヘンだ、幸せだ。こんなとこ早く抜け出したほうが得じゃないのだろうか


顔を歪めてしまっていたのかテルルちゃんは心配そうに見つめてきた。


「…奈々。無理だけはしないようにね」

彼女が居てくれて本当によかった。私一人でこんな世界に閉じ込められていたらきっと今頃…


そう、嫌な想像をしていると優しく手を握ってくれたのはテルルちゃんだった。


「…!」

人からの温もりってこんなに暖かいんだ。そう感じた。


彼女と居れるならばきっとどんなことも乗り越えていける。私はきっと大丈夫、そう思えた。


「ありがとう…テルルちゃん」

私はそうか細い声でお礼を言って観覧車に向き直った。


「こんな所に、シャルロックなんてあるのかな」

私はそう言った。


「とりあえず乗ってみよう?何か手掛かりが掴めるかもしれないしそれに…」

テルルちゃんはそう言ってから言葉を続け





「二人でならきっと大丈夫だし!」

と言ってくれた。


彼女の言葉が私の勇気を後押ししたのか、乗ってみようという気持ちになった。  


観覧車はどこか錆び付いていていたし少し破損している箇所があったけれど気にせず私達は乗った。



がたんごとん、がたんごとんと観覧車は揺れながら上昇していく。私達はごく普通に綺麗な夕日を眺めていた。


1番上まで上がると同時に″そいつ″は現れた。


「っ…」

髪の長い女性だった。それも腰より下の長い髪で私達は恐怖した。それだけじゃない、彼女は蜘蛛の様な足を6本身体に付けており窓越しだが壁に張り付いていた。


「…どどどうしようテルルちゃん」

私は彼女を揺さぶりながら言った。


「落ち着いて、外だし入ってくることは無いはず」テルルちゃんが安堵させるように言ったその時、窓が突如として突き破られた。


「…ミツケタ」 

彼女だ、彼女がやって来たんだ。


恐怖して凍りつく空気の中、私はテルルちゃんを背負って化け物が此処に近寄って来ると同時に窓から飛び降りた。


「…クダランコトヲ…」

化け物はそう言って窓の下を見つめるのだった。



テルルちゃんをゆっくり降ろすと


「此処から歌ってみる」

そうテルルちゃんが言ってマイクを持ち歌い始める。


しかし、彼女には効かないのかビク共反応を見せず、前の様に辺りが爆発することもなかった。


「どういう…こと…?」

テルルちゃんは動揺していたが


「とりあえず走るよ!」

私はそう言った。テルルちゃんは頷き、私と同様に走った。


走って走って走って走って、入り口まで私達は歩き続けた。


化け物はじわじわと追ってきていた。



ここどこなのかしら。紫のロング髪をした少女はあの恐ろしいサーカスを観た後気づいたらここに来ていた。時間帯はわからないが、なんとなく昼の様だった。


辺りを見渡すのと同時に二人の少女達がこちらへ走ってくるのが見えた、疲れていたのか息をぜえぜえついていた。


一人は肩くらいのピンク髪でオッドアイの目をしており、もう一人は金髪で紫の瞳におたんごを二つしていた。


こちらへ二人の少女が歩み寄るのと同時にこう叫ぶ様に言った。


「化け物が来てる…!これを使って」と

月の形をした黒色の物を差し出された私は訳がわからなかった。


化け物?これって?

「…どういうこと?」


そう言ってるのも束の間で例の″化け物″がやって来ていた。


蜘蛛の様な足が六本あり髪型はおだんごが一つ結びに異常なほどのロング髪。頬にはダイヤ型のマーク、手には鎌を持っていた。


「ニゲナイデ!!」


恐ろしい、あの鎌で攻撃されたらひとたまりもないだろう。


「いいから早く、これを使って!」

金髪の少女にそう催促されるので私は月の形をした物を受け取った。


瞬間、黒色をしていた月は黄色に変化して

キラキラと瞬く間に輝いた。


髪につけてと言われたのでこれをスッと髪にバッジのように付けると不思議とみるみる力が湧いてきた。


何をすればいいのか分からない筈なのだが身体はさっと動き始める。指先に力を込め、敵めかげてビームを指先から発射させた。


自分も何が起こっているか分からないけれど

相手はビームによって痺れたのか動きが止まった。数分後辺り一帯が爆発したが建物は無事だった。


「…やった…良かった!」

二人の少女は安堵し互いを抱きしめあった。


「この力はなんなの!?」

私は二人の少女が私と同様に月のバッジを髪につけているのに気づいた。


「あーそれはね」

金髪の少女はそう言って事情を説明し始めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る