第二部:時を彷徨う女 第9章 闇より深い眼の色
ヨネの瞳は、普通の人とは違っていた。
その色は、漆黒の闇よりも深く、無限の宇宙の奥底のように暗かった。
村人は昔から、その眼を見ては遠ざけた。
「何かを知っている」「何かを背負っている」と感じたからだ。
ヨネ自身もまた、その眼のせいで、孤独と呪いのような運命を感じていた。
なぜ、自分は生きているのか。
なぜ、死ねないのか。
彼女は幾度となく死を試みた。
川へ飛び込んだ。
首を吊った。
崖から身を投げた。
しかし、どんなに絶望し、命を絶とうとしても、死は彼女を迎えなかった。
それはまるで、魂に深く刻まれた“罰”のようだった。
彼女の過去は霧に包まれ、誰も知らなかった。
ヨネ自身も、自分の生い立ちを忘れてしまった。
ただひとつ覚えているのは——
彼女が若くして、多くの男たちの愛を受け、そして失ったこと。
その度に、彼女の命は引き延ばされ、永遠に続く旅へと変わっていった。
ヨネは時折、自分の眼に映る世界を呪った。
「私の命は誰のものなの? 私は誰の罰を背負わされているの?」
そんな問いに答えはなく、ただ深い孤独と冷たい闇が彼女の心を包んだ。
だが、彼女が時空を超えて彷徨う間に、ある真実を知る。
それは、人の心の奥にある“愛”と“喪失”の繰り返しの連鎖。
ヨネの眼は、その繰り返しを見つめ続ける永遠の証人だったのだ。
村の夜空を見上げながら、ヨネは静かに呟く。
「私は何度でも生きて、何度でも愛し、何度でも失い、そしてまた彷徨う」
闇よりも深いその眼の奥に、わずかな光が宿る。
それは、いつか終わることのない旅に、ほんの少しの希望を灯す灯火のようだった
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