冷たいにわか雨が街を容赦なく叩きつける。

 パトロールカーのエンジン音が低く唸り、車内に緊張が漂っていた。

「この辺はクソ溜めだ、気をつけろよ」

 ライリーたちは、陰湿な空気の、要警戒地帯へと進んでいた。


 運転席に座るライリーの上司は、濡れた額を手の甲で拭いながら前方の視界を睨みつけている。

 助手席のライリーは、拳銃のグリップを確かめ、ライフルに指をかけながら、呼吸を整えていた。


「どうだ、この地域は普通じゃないと思うだろう?抵抗組織の連中が仕切っている場所だ。死んで当然の人間が至る所に潜んでる」


 雰囲気の暗さはライリーにもすぐにわかった。

 早速今朝のニュースに反応したのか、「正義の裁きを受けるのはお前たちだ」と、おそらく政府側に向けて書いたのであろう立て看板が設置してあった。


「ここの人たちって確か、銃とかをいくつも所持しているんでしたっけ」

「そうだな、最新型のアサルトライフルに、狙撃銃、そしてショットガンからランチャーまで持ってるって噂だ。対抗するには油断は禁物だな」

「やっぱり...戻った方が...」

「落ち着け、ちょっと大袈裟に言っただけさ。警察が本気を出したら、こんなところ、すぐに制圧されるさ。向こうもそれをわかってる」

 上司の声には冷静さが漂う一方、微かな緊迫感が混ざっていた。


 主人公は小さくうなずく。窓の外では、街灯のぼんやりとした光に雨粒が幾筋も走っていた。

 パトカーは路地をゆっくりと進み、壁に貼りつくようにして車体を寄せながら、敵の気配を探る。


 すると、暗闇の奥から低い声で話し合う人影が見えた。

 上司が反応する。

 「なんだ!?」


 その瞬間、路地の向こうから一斉に銃撃が始まる。


「敵襲!」

 上司は即座に車のドアを開け、雨に打たれながらもライフルを構える。

 ライリーも迷うことなく車外に飛び出し、拳銃を腰から抜いた。


 雨の中、銃声は轟音の如く鳴り響き、赤と緑の弾丸が路地の壁に炸裂する。

 主人公の心臓は激しく打ち、視界はわずかにぼやけた。だが冷静に呼吸を整え、狙いを定めて射撃を開始する。


 敵は数十人。強烈な火力をもって襲いかかってくる。

 狙撃銃のの単発の重厚な銃声、アサルトライフルの凄まじい連射音、そしてショットガンの近距離射撃が複雑に混じり合う。


「くそ、武器を持ってなきゃ、一人ずつ耳を引きちぎって顔面を破裂させてやるところだ」


 上司は的確に射線を切り、バースト射撃で敵の動きを封じる。

 ライリーも腰を低くしながら震える手で拳銃の引き金を引き、反撃する。

 銃撃の激しさに瓦礫が舞い上がり、血煙が雨に溶け込んだ。


 しかし、敵の数は多すぎた。包囲される恐怖がじわじわと忍び寄る。

「こっちに来い!しっかり援護しろ!」

 上司が低い声で指示を出す。

 ライリーは彼に従い、路地の奥へと身を潜める。


「右側、物陰に二人確認!」

 敵の声が響く。


 反撃の火線は的確だったが、相手はただの市民ではない。手際がよすぎたのだ。敵は容赦しなかった。

 息が詰まるような緊張感の中、ライリーは反射的に拳銃を抜き放ち、どことない方向へ銃声を連射する。


「くそっ……やっぱりだ、民兵崩れめ……!援軍がいれば今頃、バラバラに引き裂いてやるってのに」

 上司は睨みつける。


 突如、上方から何かが転がり落ちた。閃光が目を眩ませる。


 バンッ!!と視界が真っ白になる。耳が割れるような爆音に、思わずライリーはうずくまった。


「フラッシュバンだ、ライリー、後退だ、後退!くそっ……」


 その刹那、闇の中から黒いフードを被った敵が一人、素早く接近していた。

 ライリーはそれに気づかず、銃撃の応酬に気を取られていた。

「ガンッ!」――鉄パイプが頭蓋骨に叩きつけられる重い音。


 背後から迫る気配。ライリーと上司が振り返るより早く、後頭部に鈍い衝撃が走る。


 次の瞬間、ドン……!と足元が崩れる感覚。床が傾くように世界が横に回り、そのまま、意識が暗転した。

 二人は、雨が滴り落ちる地面に倒れ込んだ。

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