6
「ねえ、アレックス、こいつどうする?」
「試してやる」
「さっさと殺しちまった方が...」
「待てよ、使えるかもしれないだろ?」
アレックスという男とその部下だろうか、何人かに囲まれて、ライリーはいつの間にか拘束椅子に縛り付けられていた。
「ようやくお目覚めか」
殺される。間違いなく殺される。ライリーはそう察した。
周囲の人間は銃やナイフを構えているのだ。
「ま、待ってくれよ、な?」
ライリーは最早正気ではなくなる寸前だった。
そこにアレックスが口を開く
「ここに連れ込まれた汚職警官どもがどうなったかわかるか」
「は...へ...し、知るわけが...ないだろ」
「そうか」
奥から重そうな物体を持ってくる人影が見える。
「彼は、いや、この生ゴミは君のそばにいた警官だ。見せてやる。上司なんだろ?」
机にどさっと何かが置かれる。
蛍光灯の白い光が、木製の机の上に異様な陰影を落としていた。そこにあるのは、人間の頭部だった。
「うわああ!!!!」
完全に頚部で切断された生首。皮膚の切断面は不自然に赤黒く、皮下組織がズタズタに裂け、ところどころから筋層が露出している。
「こいつの最後の叫び声は、助けて〜、嫌だ〜、だそうだ。退職金でも払って欲しかったのかな」
頚動脈と内頚静脈は、まるで太いチューブを無理やり引き千切ったかのように、断面から血の糸を引き、机の上に黒ずんだ血溜まりを作った。その中には凝固しかけたフィブリンの塊が浮かび、時間の経過とともに血液が脱水してゼラチン状に変わりつつある様子は君が悪い。
顔は、まだ表情の残滓を湛えていた。驚愕か、あるいは苦悶の痕跡か。眼窩からは硝子体液が漏れ、左眼球は半ば陥没し、まぶたの筋肉の緊張が抜けたことで半開きの目は宙を見つめていた。口元はかすかに開き、舌根部が喉の奥からわずかに覗いていた。喉頭蓋も断面近くに露出しており、空気が抜けた笛のような虚しさを湛えていた。
ライリー本人は医学的なことは知らなかったが、この生首の頚椎、特に第3から第5頚椎、は乱雑に断裂され、脊髄が白く露出している。その先端からは、髄液がとろりと漏れ出し、血と混じってねっとりとした粘液となって垂れていた。
切断は粗雑だった。訓練学校で見たどの死体よりも無惨だった。電動工具か、あるいは鈍重な刃物によって行われたのか、鋸歯状の痕跡が骨表に残っており、明らかに一撃では終わっていない。
腐敗の兆しはまだ見えない。死後硬直は顔面の咀嚼筋に残っており、頬に不自然な張りを感じさせた。だがその生命の残滓は、もはやただの肉塊にすぎないという冷厳な現実によって、見る者の精神をじわじわと侵してくる。
この頭部は、確かに生きていた。ついさっきまで自分の上司として生きていたのだ。だが今は、人体構造の断面図として、恐るべき正確さと悲惨さをもって、そこに沈黙している。
女が近寄ってきて身分証を見つめる。
「新任の警察官ね。ライリーっていうの」
ライリーの呼吸は早く、そして荒くなっていく。
「や、やめてくれ、お願いだ、頼む...」
アレックスはじっとライリーを見つめ、
「さあ、ライリー、この汚いクズはトマトになったのに、どうして君が生きているかわかるかね」
「わ...わからない...な、なんで」
「ウィリアムを覚えているかな。嘘はつくなよ、追っていたから全部わかってる」
「は...わかる...知ってるよ」
アレックスはしっかりとその怯えを見る。
「君は手を下さなかった、だから、チャンスを与えている」
「い...生かしてもらえるのか...」
ゆっくりとため息をついて
「そうだな、君の態度と決断によっては、五体満足で帰らせてやる」
そしてアレックスは、強い怒りを目に宿し、そばに置いてあった金属製のパイプを持ち上げ、目の前の生首に叩きつけた。
乾いた鉄の音が空気を裂いた。振り下ろされた金属パイプが、生首の側頭部に叩きつけられた瞬間、頭蓋骨がバキリとひび割れる鈍い音がした。
最初の一撃では完全に砕けなかった。だが、側頭骨が崩れたことで中耳腔が露出し、血とともに半規管の一部が漏れ出すように破裂したのだ。眼球は衝撃に耐えきれず、右目が眼窩から飛び出し、視神経をぶら下げながら机の上に転がった。視神経の白い線維は、まるで濡れた細いゴム紐のようにぶら下がり、血の中に沈んだ。
ライリーは思わず嘔吐した。
アレックスは殴り続ける。
次の一撃は額に命中した。前頭骨がパイプの圧力に耐えきれず陥没し、脳脊髄液が鼻腔を通じて勢いよく噴き出す。鼻柱が潰れ、皮膚が裂け、軟部組織が赤黒い筋を引きながら剥離していく。
三度、四度、乱暴に振り下ろされる鉄パイプの衝撃で、頭部の形はすでに、”人間の顔“と呼べるものではなくなっていた。頭頂部が粉砕され、脳の灰白質と白質が飛び散り、ねばつく塊が机と床を汚す。大脳皮質の断片が、パイプの先端にこびりついたまま血を滴らせていた。
口は開いたまま動かず、歯列は半分が折れ、歯が血の中に転がる音がかすかに響いた。下顎骨は関節から外れ、無様にぶら下がっていたが、五度目の打撃で真っ二つに割れ、血と粘液の混じった泡が喉から逆流した。
やがて、ライリーの上司だったものは、ただの破砕された骨片と軟組織の塊と化し、肉と骨の判別も困難な状態で机に貼りついていた。鉄パイプの先は赤黒く染まり、異臭を放つ血液と脂肪組織がべったりと付着している。
それはもう”人間の一部“としての形すら留めておらず、ただの破壊された肉体構造の残骸にすぎなかった。
「さあ、ライリー」
「ひっ...」
「ウィリアムとその家族に何をしたか言うんだ」
ライリーの心臓はバクバクと音を立て、彼は呆然としている。
「言え、彼に、何をしたか、言え!!!!そして、謝罪を述べろ!!!!」
アレックスの怒号が響く。
「ウィリアムを殴った!上司が!何度も殴って、もう元の姿がわからなかった!それから赤ん坊も、銃で吹き飛ばした!僕は見れなかった!内臓の管みたいなのが弾け飛んだようなものが見えた、ああと、それから彼の妻はサメの餌に!本当に申し訳ないと思ってる!本当に!」
アレックスがため息をつきながら、ライリーの頭を撫でる。
「よおし、良いだろう。君は確かに手を下さなかった。だが、止めもしなかっただろ。腰には正義を執行するための銃をぶら下げておきながら。違うか!」
「今考えても、僕は悪魔だ。でも許してくれ...お願いだ...」
女が口を開く
「どうやら、まだ政府側に染まってはないらしいわね」
アレックスはライリーに迫る。
「俺たちは、容赦はしない。だが選択肢をやる。一回しか言わないからな。よく聞けよ。その1、俺たちと協力してセンチネルシステムズを潰す。その2、皮膚を全て剥がされ、化学の実験台にされる。その3、指を一本ずつ折られた後で、その他の骨も肋骨から順番に砕いていく。その4、顔面の凹凸を削ぎ落として...」
「1番!1番にする!最初の選択肢だ!わかったから!」
アレックスはじっと睨み
「よく言ったな、小僧。ルーシー、拘束を解いてやれ」
ライリーは自分の手足がちゃんとあるのを確認しながら、恐怖の震えを実感する。
「は...は...ありがとう...」
「君の携帯の番号も住所も全て知らねさせてもらった。どうやらこのレーナ・アンドレアっていう奴とは親しいらしい」
「やめてくれ!お願いだ、それだけは」
「好きか、惹かれてるのか」
「彼女だけは巻き込まないでくれ、頼む」
「わかった。君が約束を守るなら、そうしよう。いいか、守りたいものがあるなら、その身でもって、抵抗しろ!」
別の男が取り上げたライリーの私物を投げ渡す。
「ほらよ、車両は元のままだ。おまえは連絡があるまで普段通りにしていろ。警察署に戻ったら、ありのままを伝えれば良い、襲撃されて、クズの上司が挽肉になったってな。だが俺たちのことは言うなよ」
ライリーは巡回車両の鍵などを返され、そのまま帰投することになった。
「いいのか、アレックス、あいつは裏切るかもしれない。計画がバレるかも」
「彼にとっては、俺たちを裏切っても、警察を裏切っても、まあ、楽しい人生じゃないだろうな。あいつの心が何を望むかだ」
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