第53話 エピローグ
狗ヶ岳の戦いを終え、数日後。羽田家の縁側で、舞子は温かいお茶を淹れていた。隣には、以前のような無理な明るさではなく、穏やかな表情の雫が座っている。奈緒と鳴海は、猫島に戻った貞子と栞を見送るため、博多へ向かっていた。今は、この縁側に、舞子と雫の二人だけがいた。
鶯の声が響く静かな午後、雫はゆっくりと口を開いた。
「舞子……あなたに、ずっと話しておかなければならないことがあったの」
舞子は雫の真剣な声に、そっと茶碗を置いた。雫の瞳には、迷いと、そして深い愛情が混じり合っていた。
「舞子と栞は、水野家の長女と次女だったのよ」
その言葉に、舞子の心臓が大きく跳ねた。意味が理解できず、雫の顔をじっと見つめる。
「羽田家と水野家は、遠い親戚なの。昔、水野の家系に生まれた巫女の力が、羽田家の方が強かった時期があってね。家同士の取り決めもあって、あなたの両親は、あなたたち二人が幼い頃に、羽田家の養女となることを決めたのよ」
雫は、静かに語り続けた。舞子と栞が幼い頃、自分たちがどんなに寂しい思いをしていたか。それでも、羽田家の家族として、舞子と栞を大切に育ててきたこと。そして、水野家の血を引く鳴海と奈緒が生まれた時、その特別な力が「黒い影」と再び関わることになるのではないかと、密かに心配していたこと。
「だから、私はずっと、鳴海や奈緒のことも気にかけていたの。特に奈緒は、巫女の力が自分にないことに悩んでいたから……。でも、あの狗ヶ岳で、奈緒が『光の巫女』として目覚めてくれた。あなたの、真なる光が、イザナミの魂を救ってくれた」
雫の声は震えていた。舞子の脳裏に、幼い頃の記憶が、断片的に蘇ってくる。水野家の家紋のようなものを見たような、幼い奈緒や鳴海と遊んだような、曖昧な光景。
「鳴海と奈緒は……私の実の妹……?」舞子の声が、震えながら紡がれた。
雫は、優しく舞子の手を握り、深く頷いた。
「ええ。あなたと栞の、実の妹たちよ。本当は、もっと早く話すべきだった。でも……あなたたちを傷つけることを恐れていたの。けれど、今回の戦いで、あなたたち姉妹の絆が、何よりも強固なものだと分かったわ」
舞子の目から、静かに涙が溢れ落ちた。それは、突然明かされた事実に驚き、混乱している涙であると同時に、これまで感じていた姉妹の繋がりが、血の繋がりによって確かに裏付けられたことへの、深い安堵の涙でもあった。鳴海や奈緒との出会いから、互いに惹かれ合い、無意識のうちに助け合ってきたこと。それは決して偶然などではなかったのだ。
「私たちは……姉妹……」舞子は、その言葉をゆっくりと噛み締めた。
雫は、舞子の肩を抱き寄せた。
「そうよ、舞子。私たちは、いつでも家族よ。血が繋がっていようといまいと、その絆は変わらない。でも、こうして真実を知った今、あなたたちの絆はもっと強くなる。これからは、隠し事なしに、本当の姉妹として、共に歩んでいきましょう」
縁側に差し込む日差しが、二人の横顔を優しく照らす。この日、羽田家と水野家の間に流れる血の真実が明かされ、巫女たちの新たな歴史が、静かに幕を開けたのだった。
終
転生したら貞子だった件 下巻 徳田新之助 @sadakochan
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