第52話 再会の抱擁
歪んだ門から闇が消え去り、静寂が訪れた狗ヶ岳に、清らかな光が差し込む。門の前に立ち尽くす五人の巫女たちは、安堵のため息をついた。
「終わった……」奈緒が震える声で呟き、その場にへたり込む。伊勢で目覚めた「光の巫女」としての力が、まだ全身に熱を残していた。
舞子は、力を使い果たし、膝をつく雫に駆け寄った。「雫!大丈夫!?」
雫はゆっくりと顔を上げた。その目に宿っていた苦痛は消え、深い疲労と共に、穏やかな光が灯っている。「舞子……みんな……」
舞子は雫を強く抱きしめた。温かい雫の体温に、舞子はこれまでの不安と安堵が入り混じった感情を覚える。鳴海もすぐに駆け寄り、二人の姉を抱きしめた。「もう、一人で抱え込まないでください……!」その声には、安堵と、これまでの心配がにじみ出ていた。
貞子と栞も、ゆっくりと近づいてきた。貞子は疲れたように笑い、抱えていた鏡をそっと地面に置いた。鏡は、今はただの古い鏡に戻っていた。
「見事な光だったわ、奈緒」貞子が優しく奈緒に語りかけた。「あなたの光が、イザナミの心を救ったのよ」
奈緒は顔を上げ、貞子に感謝の眼差しを向けた。栞は、舞子と雫、鳴海の三姉妹の姿を見て、そっと涙を拭った。
「これで、本当に『黒い影』は消えたの?」栞が尋ねた。
舞子は深く息を吸い込んだ。「ええ。イザナミの純粋な願いが解放されたことで、根源的な負の感情は浄化されたはず。この門も、もう『歪んだ門』じゃない。ただの、古い遺跡よ」
空を見上げると、雲はすっかり晴れ渡り、青い空が広がっていた。小鳥のさえずりが聞こえ、山の木々が風に揺れる音がする。瘴気に満ちていた狗ヶ岳は、本来の姿を取り戻しつつあった。
「私たち……よくやったわね」鳴海が、舞子の肩に顔をうずめて呟いた。
五人の巫女は、互いに顔を見合わせ、疲れと達成感に満ちた笑みを浮かべた。長きにわたる戦いが、ようやく終わりを告げたのだ。しかし、この戦いの終焉は、同時に新たな始まりでもあった。彼女たちの絆は、この困難な旅を通して、より深く、強固なものとなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます