第50話 五人の巫女
舞子が雫に近づこうとしたその瞬間、歪んだ門から噴き出す闇が一段と激しさを増した。それは、雫の決意を嘲笑うかのように、彼女の体へと吸い込まれていく。雫の顔は苦痛に歪み、護符の光が弱まる。
「やめろぉおおお!」鳴海が悲鳴を上げた。奈緒は膝から崩れ落ち、その手から放たれた微かな光が、雫へと伸びていく。
その時、山の深い森の奥から、複数の足音が聞こえてきた。そして、瘴気を切り裂くように、二つの影が躍り出る。
「舞子!」
聞き慣れたその声に、舞子はハッと顔を上げた。そこに立っていたのは、見慣れた顔ぶれだった。貞子と栞が、息を切らしながらも、強い眼差しで舞子たちと雫を見つめていた。貞子の手には、猫島の祠で見つけた古い鏡が抱えられている。
「貞子!栞!」舞子の声が、安堵と希望に震える。
「間に合った!」栞が叫び、すぐに舞子の隣に駆け寄る。貞子もまた、鏡を胸に抱きながら、門と雫の異変に気づいていた。
「この邪気……猫島の井戸とは比べ物にならない」貞子が険しい顔で呟いた。
五人の巫女が、今、狗ヶ岳の歪んだ門の前に集結した。舞子、鳴海、奈緒、貞子、そして栞。それぞれの場所で使命を果たし、様々な経験を積んできた彼女たちの力が、この場に揃ったのだ。
「みんな……」雫が、驚きと希望の入り混じった声で呟いた。彼女の蒼白だった顔に、僅かな生気が戻る。
舞子は雫に呼びかけた。「雫!一人で抱え込まないで!私たちもいる。私たちも羽田の、水野の、この地の巫女だ!」
鳴海も、奈緒も、そして貞子と栞も、それぞれの覚悟を瞳に宿し、強く頷いた。
「私たちは、イザナミの真なる願いを知った。その魂を癒やすための光も得た!」舞子は強く言い放った。「この門は、イザナミの怨念だけでなく、この地の負の感情が凝り固まってできたもの。だからこそ、私たちの力が全て必要なんだ!」
舞子が曾祖母の巻物を広げ、鳴海が護符を構える。奈緒は目を閉じ、内なる光を集中させた。貞子は鏡を高く掲げ、栞は巻物の記述を読み上げる準備をする。
「さあ、みんな!」舞子が叫んだ。「力を合わせよう!この歪んだ門を、真の光で満たし、イザナミの願いを解放するんだ!」
五つの光が、それぞれの巫女から放たれる。舞子の「鎮魂の鈴」の音が、歪んだ「囁き」を切り裂き、鳴海の護符が結界を張り巡らせる。奈緒の温かい光が、門から溢れる闇に触れ、それを浄化しようとする。貞子の鏡がイザナミの「忘れ去られたくない」という願いを映し出し、栞の古文書の知識がその力を導く。
五人の巫女の力が、五つの光となって一つに融合していく。それは、圧倒的な慈悲の光となり、歪んだ門から噴き出す闇を押し返し始めた。門の「囁き」は、もがき苦しむかのように激しくなったが、徐々にその勢いを失っていく。
本当の戦いは、今、始まったばかりだった。
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