第46話 狗ヶ岳の呼び声


伊勢神宮から放たれた奈緒の光は、狗ヶ岳に潜む「歪んだ門」を鎮めようと独り戦い続けていた羽田雫の魂にも、確かな希望の光をもたらしました。門の力が著しく弱まったことを感じ取った雫は、これが好機だと直感します。彼女は長きにわたり、この地の負の連鎖を断ち切るために、そして何よりも愛する家族を守るために、孤独な戦いを続けてきたのです。

一方、猫島で古井戸の闇を鎮めた貞子と栞、そして伊勢から合流を目指す舞子、鳴海、奈緒の五人の巫女たちの心には、狗ヶ岳の方向から、微かだが確かな「呼び声」が響き始めていました。それは、助けを求める切なる声であると同時に、決戦の時が迫っていることを告げる警鐘でもありました。

猫島にいる貞子と栞は、舞子からの連絡を受け、すぐに合流の準備を進めました。井戸の封印は完璧ではありませんでしたが、奈緒の光が届いたことで、一時的な安定は保たれていました。

「これで、猫島はもう大丈夫だね」栞が振り返り、清々しい空気の満ちた島を見つめました。

貞子は頷きながらも、その視線は遠く、狗ヶ岳の方向へと向けられています。「ええ。でも、まだ終わりじゃない。残るは、狗ヶ岳の『歪んだ門』。そして、雫さんのことだわ」

同じ頃、伊勢から猫島へ向かうフェリーの中で、舞子、鳴海、奈緒もまた、狗ヶ岳からの「呼び声」を感じ取っていました。奈緒の内なる光が、その呼び声に強く共鳴し、彼女の胸を締め付けます。

「この感覚…まるで、雫お姉ちゃんの声みたい」奈緒は、苦しげに胸を押さえました。

舞子の顔色も変わります。「そうね。この呼び声は、以前狗ヶ岳で感じた『歪んだ門』の気配とは違う。もっと、切迫しているわ…」

鳴海は古文書を広げ、真剣な表情でページを繰っています。「『二つの力が一つとなりて、歪みし門は開かれん。然れど、真の光、道を照らさん』…これは、もしかしたら雫さんの力と、奈緒の光のことかもしれない」

すべての糸が、狗ヶ岳へと繋がっている。それぞれ異なる場所で、異なる役割を果たしてきた巫女たちが、最後の目的地へと集結しようとしていました。雫が独りで守り続けてきた「歪んだ門」の秘密、そしてその先に待つ真の「黒い影」の正体。物語は、いよいよ最終局面へと突入しようとしています。

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