第45話 羽田雫
貞子に「抜け殻」を託した後、羽田雫はすぐに狗ヶ岳に向かいました。彼女の胸には、拭いきれない疑念と、家族を守るという強い使命感がありました。貞子が引き受けた「抜け殻」の力が、本当に完全に浄化されたのか、そして、その力の背後に蠢く「黒い影」の真の目的は何なのか、彼女は自らの目で確かめる必要があったのです。
雫は、まず古文書を漁りました。羽田家と水野家が親族であることは知っていましたが、その歴史の奥底に、さらに深い因縁が隠されていることを感じ取っていたからです。特に、「歪んだ門」という言葉に辿り着いた時、彼女は確信しました。これは単なる怨念ではない、この世と常世の境界を曖昧にする、より根源的な存在なのだと。そして、それが狗ヶ岳に強く関連していることを突き止めました。
狗ヶ岳は、その負の気配から普段は近づく者も少ない山です。雫は、人目を避けるようにして何度も狗ヶ岳を訪れ、その異様な気配の源を探っていました。彼女は、山全体から発せられる負のエネルギー、そして時に聞こえる**「奇妙な囁き」が、貞子の「抜け殻」を引き寄せた「黒い影」と深く結びついていることを確信します。そして、奈緒が持つ「人の負の感情を読みとる力」**が、その「囁き」に強く反応することを知っていました。奈緒が以前から「貞子の抜け殻の力を利用する」と口にしていたことに、強い不安を感じていたのはそのためでした。奈緒がその力に引き寄せられ、「歪んだ門」へと誘われることを恐れていたのです。
ある日、狗ヶ岳での探査中に、雫は奈緒の強烈な感情の揺れを感じ取ります。それは、奈緒が「黒い影」に深く侵食され始めているサインでした。雫は、奈緒を救い出し、そして「黒い影」の正体を突き止めるべく、彼女の後を追って姿を消しました。奈緒が「歪んだ門」に囚われた後も、雫は彼女を解放するために全力を尽くしました。そして、奈緒を解放した後も、完全に消え去らなかった「黒い影」の残滓を追い続けていたのです。
雫の探求は、狗ヶ岳だけでなく、出雲の地にも及びました。古文書に記されたイザナミと火の神の伝承が、「歪んだ門」の根源と深く関わっていると直感したからです。彼女は、イザナミの陵墓や、火之神神社など、人々の信仰と怨念が渦巻く場所を巡り、その奥底に隠された真実を探し求めました。そこで雫が知ったのは、「黒い影」が単なる怨念ではなく、イザナミの「愛されたい」「忘れ去られたくない」「報われてほしかった」という純粋な「願い」が歪められ、具現化したものであるという、悲しくも深い真実でした。
しかし、その「願い」を癒やすための手がかりは、見つかりませんでした。彼女一人では、根源的な「光の力」を見出すことはできなかったのです。
奈緒と雫が失踪したという報せが舞子たちにもたらされ、舞子たちが狗ヶ岳から猫島、そして出雲へと旅を続ける間も、雫は独り、影の領域の奥深くで「歪んだ門」の監視を続けていました。彼女は、門が完全に開かれるのを阻止するため、自身の巫女としての力を使い、門の力を削り続ける消耗戦を強いられていたのです。
そして、伊勢神宮から奈緒の「光」が放たれた瞬間、雫は狗ヶ岳の「歪んだ門」が、これまでになく大きく揺らぐのを感じました。それは、門の力が弱まった証であり、同時に、クライマックスが迫っていることを告げる合図でもありました。雫は、舞子たちが真の「光」を見出したことを悟り、最後の力を振り絞って、門の封印を試みる準備を始めたのです。彼女の孤独な戦いは、いよいよ終わりを告げようとしていました。
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