第41話 共鳴する光
奈緒から放たれた光の柱は、伊勢神宮の厳かな空気を震わせ、その神聖なる波動は無限に広がりゆくようでした。その光は、舞子と鳴海の心にも温かく、そして力強く響き渡ります。それは、ただの光ではありませんでした。イザナミの深い悲しみと、それでもなお「愛されたい」「忘れ去られたくない」と願う切なる思い、そして奈緒自身の孤独が溶け合い、昇華された慈悲の光でした。
舞子は目を閉じ、その光を全身で感じました。彼女の巫女としての直感が告げていました。この光こそが、長きにわたりこの地を覆っていた「黒い影」の根源を癒やす鍵なのだと。光の柱が天に届くにつれ、遠く離れた猫島でも、古井戸から感じていた不穏な気配が一時的に和らぐのを貞子と栞は感じていました。井戸から漏れる「囁き」が、ほんのわずかですが、鎮まるのを感じ取ったのです。
「奈緒…」鳴海は感嘆の声をもらしました。「あなたこそが、この光を導く巫女だったのね…!」
奈緒は、まだ全身に光を纏いながら、ゆっくりと目を開きました。その瞳には、かつてあった焦燥や無力感は一切なく、澄み切った決意と、深い慈愛の輝きが宿っていました。彼女の心は、イザナミの魂と確かに繋がっている感覚に満たされていました。
「イザナミ様…あなたの苦しみは、もう終わりにする」奈緒の声は、静かでありながら、確固たる響きを帯びていました。「あなたが本当は願っていたものを、私たちが受け止めます」
その言葉と同時に、奈緒の放つ光が、正宮の社殿へと吸い込まれていくように見えました。光は社殿の奥へと消え、その瞬間、それまで感じていた神宮全体の「光」の波動が、さらに純粋なものへと昇華されたように感じられます。まるで、イザナミの魂が、この聖なる地で安寧を得たかのように。
舞子は直感しました。イザナミの「真なる名」は、「愛されたい」「忘れ去られたくない」「報われてほしかった」という、純粋な「願い」そのものだったのだと。そして、奈緒の共感の光が、その願いをアマテラスオオミカミの慈悲へと繋げたのだと。
「私たちにできることは、まだ残っている」舞子は静かに言いました。「イザナミ様の魂が完全に癒やされるためには、そして『黒い影』を完全に封じるためには、この光の力を、猫島の井戸に、そして狗ヶ岳の歪んだ門へと届ける必要がある」
鳴海も頷きます。「ええ。イザナミ様の魂は、ようやくこの聖域で本当の安らぎを見つけ始めた。ここからが、本当の終焉への道ね」
三人は、伊勢神宮の聖なる光の中で、新たな決意を固めました。奈緒の覚醒がもたらした希望の光を胸に、彼女たちは次なる目的地、猫島へと向かうことを決めたのです。イザナミの魂を完全に癒やし、「黒い影」との長きにわたる戦いを終わらせるために。夜明けの空の下、三人の巫女の瞳は、未来への確かな光を宿していました。
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