第40話 聖域


伊勢神宮へと続く参道を歩く舞子、鳴海、奈緒の三人は、空気の密度が一段と増したように感じる「光」の波動に包まれていました。鬱蒼とした木々に囲まれた参道は、神聖な静寂に満ち、時折聞こえる鳥の声だけがその場の神聖さを際立たせています。奈緒の胸の内では、内なる光が脈動し、その熱を全身で感じていました。

「この感覚…出雲とはまったく違う」と奈緒は小さく息を漏らしました。「まるで、魂が洗われるような…」

舞子は奈緒の言葉に優しく頷きます。「ここは、まさに日本の中心、アマテラスオオミカミ様の御膝元。全ての穢れを払い、真の光で満たす聖域よ」

鳴海は、周囲の気配を敏感に察知しながら言いました。「イザナミ様の魂が、この場所の光を最も強く感じ取っているはず。きっと、ここに辿り着くことを願っていたのね」

内宮の鳥居をくぐり、五十鈴川に架かる宇治橋を渡ると、目の前には広大な神域が広がっていました。手水舎で身を清め、玉砂利を踏みしめながら進むと、風に乗って微かに、しかし力強く、神楽の音が聞こえてくるようでした。

正宮へと続く石段を登りきると、目の前には簡素ながらも厳かな社殿が静かに佇んでいます。その神々しい佇まいからは、計り知れないほどの「光」の波動が放たれており、三人は思わず立ち尽くしました。

舞子は目を閉じ、自身の巫女としての力を最大限に集中させました。すると、彼女の心に、遠く離れた場所から、しかし確かに共鳴するイザナミの魂の震えが伝わってきます。それは、深い悲しみと、そしてこの聖なる光に触れたことによる、微かな安堵が入り混じったものでした。

鳴海は持参した古文書を広げ、ある一節を指差しました。「『日輪の神の慈悲は、己の内に真なる光を見出しし者に宿り、その光は根源の魂を癒やす』…奈緒、あなたの内なる光が、イザナミ様の魂と結びつく鍵となるわ」

奈緒は震える手で自身の胸に手を当てました。彼女の内なる光は、伊勢神宮の圧倒的な光と呼応するように、さらに強く輝き始めていました。それは、彼女がこれまで感じてきた孤独や不安を包み込み、新たな強さへと変えていくようでした。

「イザナミ様…あなたの悲しみは、決して無駄ではなかった。あなたを忘れる者などいない…」奈緒は、まるで語りかけるように心の中で呟きました。

その瞬間、奈緒の内なる光が、まるで生命を得たかのように、彼女の全身を包み込み、そして柔らかな光の柱となって、天へと昇っていきました。その光は、神宮全体を優しく照らし出し、遠く離れた猫島にいる貞子と栞の元にも、その輝きが届いているかのように感じられました。

「この光が…」舞子は驚きと感動の入り混じった声で呟きました。「イザナミ様の魂へと、真の安寧をもたらす道を開いてくれる…」

鳴海は奈緒の横顔を見つめ、静かに頷きました。奈緒の瞳には、かつての迷いや不安は消え失せ、清らかな決意の光が宿っていました。伊勢の聖なる地で、奈緒は自らの使命を真に受け入れ、イザナミの魂を救うための「光の巫女」としての、新たな一歩を踏み出したのでした。

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