第39話 内なる光
新幹線は、伊勢へと近づくにつれて、車窓から見える風景もどこか神聖な気配を帯びてくるようでした。奈緒は、座席に深く身を沈め、目を閉じていました。体中の細胞が、まるで共鳴するように微かに震え、内側から温かい光が満ちていく感覚に包まれています。それは、出雲で感じたイザナミの悲しみや孤独とは異なる、清らかで力強い波動でした。
「奈緒、大丈夫?」舞子がそっと声をかけました。
奈緒はゆっくりと目を開き、舞子と鳴海に微笑みかけました。「はい、大丈夫です。むしろ…すごく、クリアになったような気がします。イザナミ様が『愛されたい』『忘れ去られたくない』って願っていた気持ち…それは、私自身がずっと感じてきた孤独と、本当に同じだったんです。巫女の力がなくても、ずっと誰かに必要とされたいって思っていた。でも、その気持ちが、私の中にこんな光を呼び覚ますなんて…」
鳴海は奈緒の言葉に、深い感動を覚えました。
「そうね、奈緒。あなたの『感情を読み取る力』は、単に相手の心を理解するだけじゃない。その感情の奥にある**本質的な『願い』**を汲み取り、そして、その願いと呼応して、あなた自身の内なる光を目覚めさせる力なのよ。アマテラスオオミカミ様は、その純粋な共感の光を、イザナミ様への慈悲の橋渡しとして求めていらっしゃるのかもしれない」
舞子は、奈緒の成長を目の当たりにし、胸が熱くなるのを感じました。
「奈緒、あなたは私たちに、イザナミ様の魂を救うための、最も大切な鍵を示してくれた。私たちがどれだけ強い力を振るっても、イザナミ様の心の奥底にある願いに寄り添えなければ、真の救済はできないもの。あなたのその優しさと共感こそが、アマテラスオオミカミ様の慈悲を、イザナミ様の魂へと届ける光となるんだわ」
新幹線が減速し、伊勢市駅のホームに滑り込みました。降り立った三人の目に映るのは、これまで感じたどの場所とも異なる、圧倒的な「光」の波動でした。空気が澄み渡り、全身が浄化されていくような感覚に包まれます。
奈緒は、伊勢の地に一歩足を踏み入れた瞬間、その内なる光がさらに強くなるのを感じました。それは、まるでずっと探していた故郷に帰ってきたような、言い知れぬ安堵感と、同時に、これから始まるであろう大きな使命への覚悟でした。
「行こう」舞子は力強く言いました。「この地で、私たちはイザナミ様を真に救い、そして『黒い影』を完全に浄化する」
三人の巫女は、それぞれの覚悟を胸に、伊勢神宮へと続く道を歩み始めました。奈緒の胸に宿る、温かく、しかし力強い光の胎動が、この物語の最終章を告げているようでした。
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